「さて、もうすぐご飯できるから、先にお箸とお椀をテーブルに持っていってくれる?」宥里はなるべく軽い口調で言った。詩音も空気を読むことはできた。宥里が話題を逸らしたがっていることに気づき、笑って頷くと、お椀と箸を手にダイニングへと向かった。食器を並べ終えたところで、テーブルの上で宥里のスマホが鳴り続けているのに気づいた。着信だ。「宥里さん、電話鳴ってるよ」詩音は宥里のスマホを手に取ると、歩み寄りながら、ついでに応答ボタンを押した。宥里は誰からの電話かもわからないまま、詩音が差し出したスマホを受け取り、耳に当てた。「もしもし、どちら様ですか?」「どちら様だと?」向こうから、知輝の冷たい声が返ってきた。この瞬間、宥里は正直なところ、もう知輝の声など聞きたくもなかった。昨夜、あれほどの危機に陥っていた時、法律上はまだ夫である知輝は、冷たく電話を切り、自分を見捨てたのだ。それを、宥里はまだ覚えていた。「……何か用?」宥里の声も、それに応じて冷ややかになった。ここまで来てしまえば、宥里にはもう知輝と話すことなど何もなかった。あとはただ、離婚届が受理されるのを待って、この男とすっぱり縁を切るだけだ。病室で、知輝は宥里のよそよそしい冷たい声を聞きながら、一瞬言葉に詰まった。それから、珍しく辛抱強く説明を試みた。「昨夜、会社のビルが突然停電になって、香織が実験室に閉じ込められたんだ。あの時は一刻を争う事態で、俺はすぐに駆けつけるしかなかった」今の宥里にとって、香織が会社にとってどれほど重要であろうと、知輝にとってどれほど大切であろうと、そんなことはもうどうでもよかった。「ええ、わかったわ」宥里は淡々と応じた。「他に何か?」「もう説明したのに、まだそんな態度なのか?」宥里が相変わらず冷めた反応を返すのを聞いて、知輝は苛立ちを抑えきれなくなった。「なら、私はどんな態度でいればいいの?」宥里はコンロの火を静かに止めると、体の向きを変え、キッチンカウンターにもたれかかった。「お前……」知輝は宥里に無事だったかと尋ねようとした。だが、先ほどの言葉に出鼻をくじかれ、結局その問いを口にすることはできなかった。「とにかく、余計なことを考えるな」「きゃっ!」女性の小さな悲鳴が響いた。香織
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