「もしもし、赤沢知輝(あかさわ ともき)様の奥様でいらっしゃいますか?私、担当ウェディングプランナーの田中と申します。挙式当日の進行について、いくつか確認させていただきたく、お電話いたしました」スープをかき混ぜていた花谷宥里(はなや ゆり)の手がふと止まった。その日は気分がよく、宥里は微笑みながら答えた。「ええ、赤沢知輝の妻ですが……あの、結婚して七年になりますし、最近は式を挙げる予定なんてありませんよ?」電話の向こうが一瞬沈黙し、すぐに確かめるように尋ねてきた。「えっ……お電話番号を間違えてしまったのでしょうか。桃木香織(ももき かおり)様でいらっしゃいますか?」カチャン。宥里の手からスプーンが滑り落ちた。耳の奥で、激しい耳鳴りがした。「もしもし?お声が聞こえにくいのですが。桃木様でいらっしゃいますか?」宥里は青ざめた顔で、かすれた声を絞り出した。「わ……私は、違います……」「失礼いたしました。お電話番号を間違えてしまったようです」相手はそう詫びて、そのまま電話を切った。けれど宥里は、どうしても心を落ち着けることができなかった。電話口で告げられた新郎の名が、ほかならぬ夫の知輝だったからだ。宥里は二十一歳で知輝と結婚し、籍を入れてから七年。六歳になる息子もいる。香織という名前にも、覚えがあった。知輝のかつての教え子で、今は彼が経営する会社の研究室で働いている女性だ。これまで何度となく、知輝の口からその名を聞いてきた。その名を口にするたび、決まって褒めていた。理由もなくこんな電話がかかってくるとは思えない。それに相手は、最初から迷いなく知輝と香織の名を口にしていたのだ。夜十時、広々としたリビングに、宥里はただ一人。ソファに座り、ぽつんと知輝の帰りを待っていた。その間、何度も電話をかけたが、一度も出なかった。ようやく十一時近くになって、知輝から折り返しの電話があった。宥里が口を開くより先に、電話の向こうから低く冷ややかな、明らかに苛立ちを含んだ声が響いた。「今忙しいんだ。少しはこっちの都合も考えてくれ」胸がぎゅっと締めつけられる。いつからだろう。自分が夫から「物分かりの悪い妻」扱いされるようになったのは。「今夜は帰ってこないの?」彼女は小さな声で尋ねた。「帰らない。週末は出張
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