บททั้งหมดของ 七年の冷遇、離婚後は御曹司に溺愛されます: บทที่ 61 - บทที่ 70

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第61話

「ハハ、そんなにご謙遜なさらなくても。今の時代、研究開発の成果を実用化までこぎつけるのが、どれほど難しいことか、みんなよく分かっているよ。あなたは本当に優秀で、うちの研究所を引っ張る存在だよ。俺たちも見習わないといけないくらいだ」和孝はさらに続けた。和孝のお世辞と、その場にいた他の面々の羨望と敬意のこもった視線を受けて、照美の虚栄心は大いに満たされた。それでも、口から出る言葉は相変わらず皮肉めいていた。「どんなに優秀でも、ぽっと出のコネ採用に管理される羽目になったら意味ないでしょう」照美がそう言うと、給湯室にいた他の面々の表情が再び変わり、宥里への反発心もそれに伴って一層強まった。話が回り回って、また宥里の話題に戻ってしまったのを見て、和孝が再び話を逸らそうと口を開きかけたその時、コーヒーを淹れ終えた麻衣子が珍しく自分から口を開いた。「宇野さんの新しいプロジェクトの報告書、私も拝見しました」照美は、麻衣子が次に自分のプロジェクトを称賛してくれるものと思い込み、得意げな顔で相手の続きの言葉を待った。だが目にしたのは、眉根を寄せ、真剣な表情で告げる麻衣子の姿だった。「その研究プロジェクトなんですが、以前私が読んだ国内のマイナーな学術誌に、よく似た導出過程を扱った論文が掲載されていたような気がして」「何をでたらめを言っているの!私が盗作したとでも言いたいわけ?」それを聞いた瞬間、照美の顔色がさっと変わった。「そういう意味ではありません」麻衣子はしきりに手を振った。「ただ確認したかっただけです。その論文の著者は、もしかして宇野さんご自身なんですか?」もしそうなら、それは本当に素晴らしいことだ。その著者は、麻衣子にとって憧れの存在だったのだから。「何の学術誌?何の論文?何を言っているのか、さっぱりわからないわ。これは私自身の研究よ、私に言いがかりをつけるのはやめて!」照美は怒りをあらわにし、目を真っ赤にした。和孝はそれを見て、慌てて場を取り繕おうとした。「そうだよ、それはさすがに言いすぎだ。証拠もないのに、そんな言い方はよくない。副所長でさえ審査を通しているんだから、独自性に問題はないってことだろう。宇野さんはうちの研究所の中核研究員だ。彼女を貶めるような真似は、やめたほうがいい」照美の反
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第62話

麻衣子は雑な手つきで宥里のポータブルハードディスクをパソコンに接続し、フォルダを開こうとしたところで、スマホに着信が入った。視線をパソコンの画面から離し、電話を手に取って画面を見ると、「奈緒」の文字がくっきりと目に入った。麻衣子の顔にぱっと笑みが浮かび、素早く電話に出た。「奈緒、どうしたの?」「用事がないと電話しちゃだめー?」奈緒の軽やかな声が電話から聞こえてきた。「ふふ。そういうわけじゃないけど」麻衣子の顔の笑みは変わらなかった。奈緒は麻衣子とほぼ同い年だったが、大学院への進学が麻衣子より一年遅かったため、研究室では麻衣子の後輩にあたった。麻衣子は奈緒のことが好きだった。奈緒には、いつも負けず嫌いな気の強さがあった。何事でも一番を目指そうとするあの気性は、麻衣子自身の性分ともよく合っていた。どこかのコネ採用みたいに、実力もないのにいきなり上のポストに据えられるような人間とは違う。奈緒の声を聞きながら、麻衣子は無意識に宥里と比べてしまう。認めざるを得なかった。先ほど給湯室での照美の憶測に、自分は実のところかなり影響されてしまっていたのだ。だからこそ今、宥里への偏見をさらに強めていた。麻衣子がなかなか答えないのを見て、電話の向こうの奈緒は声を張り上げた。「先輩、忙しいかしら?お邪魔しちゃった?」「あ、ううん、忙しくないわ。大したことじゃないから」麻衣子は我に返ると、パソコン画面に開いたばかりのファイルへと目をやった。宥里のそのまとめが参考になるとは、とても思えなかった。だからそれ以上気にも留めず、そのまま所内の業務システムにログインし、資料一式をそのまま一斉配信した。添え書きの一行もつけなかった。操作を終えると、パソコンにはもう目もくれず、そのまま体を反対に向けて奈緒との電話を続けた。「それで、何の用事?」麻衣子が尋ねた。「実はね」奈緒は単刀直入に聞いた。「そちらの研究所の新しい研究開発センター長、今日着任したよね?どんな人?先輩、少し教えてもらえないかしら?」麻衣子は、奈緒からこんな質問が来るとは思ってもみなかった。だがよく考えれば、今の奈緒は直樹の門下生だ。将来、研究所に研修に来る機会も当然あるだろう。奈緒ほどの逸材なら、研修に来ればまず間違いなく研究開発セ
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第63話

「どうだった?その新しいセンター長のこと、聞き出せたか?」藤四郎が尋ねた。藤四郎は業界屈指の資産家、源一郎の実弟にあたる。周囲からは「藤四郎様」と呼ばれている。妻との間に一男一女をもうけており、奈緒は数年前にようやく見つけ出した実の娘だった。奈緒はスマホを置くと、軽く答えた。「花谷っていう苗字らしいけど、ただのお飾りみたい。気にする必要ないって」麻衣子という人間は、何事も厳密さと公正さを重んじる融通のきかない堅物で、自分より恵まれた人間には警戒心を抱き、実力のある人間には素直に敬意を払う性質があった。奈緒は大学在学中、自分が貞末家の令嬢であることを一切明かしていなかった。そのため、教師も同級生も、彼女と貞末家との関係を知らず、地方から入学してきた学生だとばかり思っていた。当時の麻衣子は、彼女に特に目をかけ、いろいろと世話を焼いてくれたものだった。その麻衣子がそう言うくらいなのだから、この新しいセンター長というのも、たかが知れているのだろう。「絢斗お兄様も、花谷先生の一番のお気に入りの弟子だとか言っていたけど、見たところそこまでのことはないみたいね」奈緒の口調には、軽んじる響きがあった。研究開発センターの新任センター長に対する見下しと、絢斗への恨みつらみが入り混じったものだった。藤四郎はそれを聞くと、余裕たっぷりにお茶を一口すすった。「絢斗のことは、そこまで気にしなくていい。所詮、あいつは他人だ。お前の伯父さんが一番重んじるのは血筋だ。彼には実の子がいないんだからな。お前さえ十分に優秀であれば、いずれ貞末家のすべてはお前が継ぐことになる」つまり、いずれ貞末家のすべてが俺たちの家系のものになるということだ!そう考えるたびに、藤四郎は興奮を抑えられなかった。彼は心底、あの時、自分によく似たこの実の娘を見つけ出しておいて良かったと思っていた。顔立ちが似ているおかげで、長兄の源一郎に信頼され、かわいがってもらうことができたのだから。もしあのまま、あの宥里がまだ家にいたら、俺たちの血筋は永遠に日の目を見ることはなかったかもしれない。残念なのは、自分の息子が不甲斐なく、長兄に気に入られていないことだ。だがそれでも構わない。いずれ奈緒が無事に長兄から家督を継いだら、そのあとで息子に引き継がせればいい。女の子なん
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第64話

宥里の指示を聞いて、麻衣子は一瞬固まり、それから無意識のうちに反論の言葉を口にした。「……センター長、皆それぞれ忙しくしています。急な会議の招集は、あまり適切ではないかと」他の研究員たちのことはさておき、研究員の麻衣子でさえ、手元に山のような仕事を抱えている。宥里に付き合って時間を無駄にする余裕など、正直まったくなかった。宥里は麻衣子のあからさまに反抗的な言葉を聞いても、腹を立てることはなく、声は相変わらず落ち着いていた。ただ、その口調には、有無を言わせぬ強さがにじんでいた。「言った通りにして。三十分後、大会議室に来なかった者は、自分で責任を取ってもらうわ」言い終えると、麻衣子に反論の隙を与えることなく、そのまま電話を切った。麻衣子は切れた受話器を手に、しばらく自分のデスクで呆然としていた。「どうしたの、その顔」同じオフィスにいる別の研究員が、彼女の様子がおかしいことに気づき、興味深そうに尋ねた。麻衣子は電話を置くと、眉間をきつく寄せながら言った。「センター長が、全員に連絡して三十分後に大会議室に集合しろって」「え?私たちも参加するの?」その答えに、オフィス内の研究員たちが一斉に悲鳴を上げた。職場で一番憂鬱なのは、上司が招集する全体会議だ。中身のある会議ならまだしも、一番困るのは、中身が空っぽなのに権威を振りかざしたがる上司の会議だ。堂々巡りの話を繰り返すだけで、純粋に時間の無駄でしかない。そして彼らの心の中では、宥里はまさにそのタイプの上司だと決めつけられていた。麻衣子が苛立ちを隠せない顔で、各オフィスに内線をかけて会議のことを伝えていたその時、研究所内で一目置かれている研究員が、興奮した様子で駆け込んできた。ドアを開けるなり、まっすぐ麻衣子のデスクへと向かう。「板尾さん、さっき配信してくれたあのまとめ、あれどこから持ってきたんだ?」麻衣子は一瞬固まり、表情がぎこちなくなった。とっさに、相手が抗議しに来たのだと思い込んだ。何しろ、内容も確認せずに、宥里のあのまとめをそのまま配信してしまったのだから。「須見さん、すみません、私、確認もせずに……」「素晴らしい!本当に素晴らしいよ!」その須見透(すみ とおる)と呼ばれた研究員は興奮を抑えきれない様子で、麻衣子の椅子の背をつかんで揺さぶっ
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第65話

直樹は宥里からの電話連絡を受けて、手元の仕事を後回しにし、駆けつけてきたのだ。電話の中で、彼も何があったのか、なぜ急に会議が必要なのかを宥里に尋ねていた。宥里はただ、事態はかなり深刻で、一言二言では説明しきれないが必ず現場に来てほしい、とだけ答えた。それに、宥里が着任してから初めて招集する会議でもある。当然、顔を出さないわけにはいかない。何より、宥里という人間をよく知っている直樹には、彼女が理由もなくこんなことをする人間ではないという確信があった。案の定、部屋に入るなり耳に飛び込んできたのは、照美の愚痴だった。「副所長、センター長が着任早々、威厳を見せつけたい気持ちはわかりますけど。威張りたいならいつでもできるでしょう。みんな忙しい時にわざわざこんなことする必要ないと思うんですけど」照美のその一言が、その場にいた全員の怒りに火をつけた。照美ほど大胆に、人前で不満を口にする勇気のある者ばかりではなかったが、彼らの心の中では、この突然就任した新任センター長に対する好感はすでに微塵も残っていなかった。いつもは温厚な「いい人」の和孝でさえ、今回ばかりは黙ったまま座り、場を取り繕おうとはしなかった。直樹は自分の席に腰を下ろすと、照美の言葉を聞いて眉を軽くひそめた。「センター長が会議を開くと言った以上、それなりに重要な話があるはずだ。みんな協力してほしい」「副所長は本当にセンター長に優しいですね。私にも、それくらい優しくしてくださったこと、ありましたっけ?」照美は笑みを浮かべた。「態度に気をつけろ!自分の立場と場をわきまえて話せ。そんな当たり前のことを、俺がわざわざ教えなきゃならないのか?」直樹も、下の研究員たちの噂話をまったく聞いたことがなかったわけではない。ただ、根も葉もない話ばかりで、表沙汰になったこともなかったため、日々の忙しさにかまけて黙殺していただけだった。それが、まさか照美がこれほど場をわきまえず、大会議室で、研究開発センターの全員の前で直接こんな発言をするとは思ってもみなかった。直樹自身は男性で、しかも研究所の常務副所長という立場だ。当然、こんな噂で立場が揺らぐことはない。だが宥里はまだ若く、しかも研究所に来たばかりだ。こういった噂が広まれば、彼女に及ぼす影響は決して小さくないだろう。照美は研究
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第66話

大会議室では、全員のいら立ちが頂点に達し、辛抱も尽きようとしていた。その時、宥里がノートパソコンを手に部屋へと入ってきた。「来たな。席は……」直樹が宥里を見た。直樹が宥里に席の場所を教えようとした矢先、照美が堂々と宥里本来の席に座っているのが目に入った。その瞬間、その場の全員の視線が、照美と宥里の間を行き来した。一方は今日着任したばかりの新任センター長、もう一方は長年研究所を支えてきた中核研究員。和孝がテーブルの下でそっと照美を小突き、立ち上がって席を譲るよう促した。だが照美はそれをまるで無視し、依然として両腕を組んだまま、片眉を上げて嘲笑を浮かべ、宥里を見据えていた。その表情はまるで、「立たないわよ、それがどうしたっていうの?」とでも言いたげだった。照美の心の中では、研究開発センター長のこの席は本来自分のものであり、それを宥里が汚い手で奪い取ったのだと思い込んでいた。直樹の顔色は険しくなったが、この場でこれ以上照美を叱るわけにもいかなかった。何しろ、彼と宥里についての良からぬ噂が、すでに広く飛び交っていたのだから。照美がこうも公然と宥里のメンツを潰しにかかるのを見て、全員が固唾を呑んで宥里がどう反応するかを見守っていた。宥里は会議テーブルの前に立ち止まったが、自分の席が奪われていることなど、一切気に留めなかった。「大丈夫です。座りませんから」そう言うと、ノートパソコンを手にそのまま作業台のほうへと向かった。パソコンを接続し、画面をスクリーンに映し出す。一連の動作は淀みなく流れるようだった。その場にいた誰もが、直樹を除いて、照美の露骨な挑発に対して若い宥里がこれほど落ち着き払い、動じることなく振る舞うとは思ってもみなかった。照美自身も、これほど平然とされるとは予想していなかった。てっきり、宥里が若さゆえに感情を抑えきれず、自分と衝突するだろうと踏んでいた。そうなれば、それを口実に人前で言い負かし、誰が支持されているのかを見せつけるつもりだったのだ。ところが宥里はその挑発にまるで乗ってこなかった。おかげで、かえって照美のほうが、傲慢で意地の悪い人間に見えてしまう結果となった。照美の顔色がわずかに変わった。この席に座っていることに、初めてどこか居心地の悪さを覚えた。「センター長、こんなに急いで私
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第67話

「わかった」宥里は頷くと、視線を直樹へと移した。「副所長、このプロジェクトは今すぐ中断してください。このまま続けさせるわけにはいきません。さもないと、重大な問題が起きます」その言葉を聞いた瞬間、会議室内がどよめいた。照美に至っては、勢いよく立ち上がると、テーブルをバンと叩いた。「はぁ?どういうつもりよ?私のプロジェクトを中断しろですって?ずいぶん大きく出たものね!副所長でさえそんな言い方はしないのに、コネで就任したあなたが、いい度胸してるわね!」会議室内は騒然となった。誰も、このセンター長がこれほど大胆で、着任早々いきなり照美のプロジェクトを止めようとするとは予想していなかった。照美は研究所の中核研究員であり、経歴も実力も申し分ない人物だ。副所長ですら、研究所全体を考えて照美の気性を我慢し、せいぜい軽く叱る程度で済ませてきた。プロジェクトを中断させるなどということは、これまで一度も起きたことがなかった。所内には照美の性格を快く思わない者も一定数いたが、それに比べれば、今この場にいる者たちは宥里に対する反感のほうがはるかに強かった。照美の性格がどれほど人好きしないものであっても、少なくとも彼女には実力があるのだから。それに引き換え、宥里は若くして突然センター長に就任し、実力がないばかりか、周囲と協調する気すらなく、いきなり粛清まがいのことを始め、研究所きっての中核研究員にまで刃を向けてきた。宥里への不満は、そのまま直樹への視線にも影を落とし始めていた。直樹は当然、皆の宥里への、そして自分への反発を肌で感じ取っていた。眉をわずかに寄せたが、それは宥里に対する怒りからではなかった。宥里が理由もなくこんなことをする人間ではないと、彼にはわかっていたからだ。宥里が公然と照美のプロジェクトを中断すると決めた以上、何か問題を発見したに違いない。「センター長、何か問題を見つけたのか?」直樹が低い声で尋ねた。「何の問題があるっていうんですか?この人はただ、私に矛先を向けて、威厳を保ちたいだけでしょう!」照美が冷笑した。その場に立ったまま、彼女の表情には冷ややかな決意が浮かんでいた。「とにかく、今日私が納得できる説明をもらえなければ、この件はただでは済ませないから!最悪、上に訴え出るまでよ。この若いセンター長さんが
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第68話

「でも、うちの量子発振子の研究室って、花谷先生と彼女が一緒に立ち上げたものだって聞きましたけど」その時、誰かがぽつりとそんなことを口にした。量子発振子の研究室は、研究所きっての最重要プロジェクトだ。だが謙三が一線を退いてからは、事実上停滞状態にあった。それを聞いた照美は冷ややかに鼻を鳴らし、もはや宥里をまともに見ようともしなかった。「みんな『花谷先生と共同で立ち上げた』って言うけどね、実際どうだったかなんて、誰にわかるっていうの?もしかしたら花谷先生が誰かに頼み込まれて、仕方なく名前を貸して、箔をつけてやっただけかもしれないでしょう」「宇野、いい加減にしろ!」直樹が真っ先に立ち上がり、反論した。照美の今の発言は、宥里だけでなく、謙三の顔に泥を塗るものだったからだ。量子発振子の研究室が本当はどういう経緯で生まれたのか、直樹以上によく知る者は誰もいなかった。あの頃、宥里はまだ自分の娘と同じくらいの年齢で、成人したばかりの若者だった。謙三に研究所へ連れてこられたばかりで、あまりに若かったせいで、当時は誰も彼女の指導役を引き受けたがらなかった。宥里自身も一人でいることに慣れていて、ほとんどの時間、人混みを避けて最上階の実験室に一人で籠っていた。量子発振子ジャイロの基礎理論と初期データも、その頃、宥里が独力で導き出したものだった。謙三はそれを知って大いに驚き、世界最先端の研究テーマになると直感し、その場で専門の研究室を立ち上げることを決めた。だが宥里が若すぎたため、彼女を責任者として研究室を立ち上げることができず、やむなく謙三が名目上の責任者となったのだ。だが実際には、このプロジェクトは当初から宥里が中心となって進めており、謙三は折に触れていくつかの助言を与えたにすぎない。その後、宥里は自身の事情により、過去のすべてと縁を切った。その中には、研究所とのつながりも含まれていた。彼女が研究所を離れたあと、謙三は量子発振子の研究室をこのまま止めておくのを惜しみ、正式に自ら引き受けることにした。だが謙三は多忙を極め、体調もどんどん悪化していき、実際にはそこまで多くの労力を割く余裕はなかった。他の研究員たちにも、このプロジェクトを引き継げるだけの力量はなかった。そのため、量子発振子の研究室は、現在に至るまで停滞した
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第69話

「宇野さん、あなたの報告書、とても詳細にまとめられているわね。この短期間でこれだけの水準に仕上げるのは、本当に大変だったと思うわ。あなたに実力があることは、よくわかる」照美は一瞬、面食らった。次の反撃に備えていたところに、まさか相手が自分の実力を認める言葉から入ってくるとは思っていなかった。「ふん、今さらそんなことを言っても遅いわ」照美は冷たく言い放った。事態の深刻さに気づいて機嫌を取ろうとしているのだと勘違いしたのだ。だが、自分がそんな話に乗るつもりは毛頭ない。宥里は軽く頷き、続けた。「でも、ここに気になる点を見つけた」宥里はスクリーン上で、報告書の中の問題箇所を指し示した。「気づいていなかったのか、それともあなた自身の力が足りなかったのかはわからないけれど、ここでは簡略化して処理しているわね」照美は宥里が指し示した箇所を見つめ、目を大きく見開いた。あの箇所は、確かにわざと曖昧に、簡略化して処理したものだった。気づいていなかったわけではない。今の自分の実力では、この問題をどうしても最適化しきれなかったのだ。しかも、自分の導出した結果から見れば、仮にこの簡略化が最終的な精度にある程度影響するとしても、全体の結果には大きく影響しないはずだった。宥里は照美の表情を観察し、彼女が何を考えているかをすでに見抜いていた。すかさず図星を突いた。「たぶん、この程度の簡略化なら、全体の結果には大きく影響しないと考えたんでしょう」それを聞いた照美の頬が強張った。まさか、自分の考えていたことを宥里に見透かされるとは思ってもみなかった。「でも、もしそう思っていたのなら、それは大きな間違いだ」宥里は続けて、照美に反論する隙を与えることなく画面をタップして次のページに切り替えた。「発振子は特定の温度域や高周波振動下で遅延特性を示す。この簡略化は、モデルの精度に無視できないほどの誤差を生じさせる。短期的には影響が見えないかもしれないけれど、時間が経つにつれて誤差が蓄積し、やがて大きな質的変化を引き起こす。もしこのままプロジェクトを実用化まで持っていったら、どんな結果を招くか、わかる?」宥里の声はさほど大きくはなかったが、会議室にいる全員の耳にはそれが重くのしかかった。先ほどまでざわめいていた声が徐々に静まり、会議室全体
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第70話

照美はスクリーン上にびっしりと並ぶデータを見つめ、ひどく険しい表情を浮かべていた。内心では動揺を隠しきれずにいたが、それでも強がりを崩さなかった。「こ……こんなの、ありえない。このデータ、何かおかしいはずよ!」「具体的にどこがおかしいの?ぜひ聞かせてもらいたいわね」宥里は落ち着いた声で、照美の反論をまるで気にする様子もなく尋ねた。照美は無意識にテーブルの縁に手をついた。まるで純粋に研究上の議論をしているかのような宥里の淡々とした態度が、ただでさえ不安定だった彼女の心を、さらにかき乱していた。全員が、照美がもしかすると本当にこのデータの問題点を指摘できるのではないかと固唾を呑んで見守る中、彼女はただ、乾いた声でこう絞り出した。「だ……だって、わずか三十分でこれだけのデータを整理できたはずがないでしょう!だから、あなたのデータの出所が怪しいのよ。これはあなたのデータじゃない!」静まり返っていた会議室に、再びざわめきが戻ってきた。だが今回、そのざわめきの矛先は宥里ではなく、照美へと向けられていた。「つまり、宇野さんがおっしゃりたいのは、このデータ自体に問題はないけど、出所に問題があるってこと?」「私が見た限り、このデータには何の問題もないですよ。むしろ宇野さんの報告書より、はるかに詳細で緻密です」「そうそう、こうして比べてみると、宇野さんのデータなんて、まるで簡易版じゃないですか」「いや、簡易版どころか、エラー入りの簡易版だよ。センター長も言っていたじゃないか、宇野さんの導出データのままプロジェクトを進めたら大変なことになるって」照美はその議論の声を耳にしながら、顔がみるみる赤く染まっていった。会議室の空気が、少しずつ宥里のほうへ傾き始めている……そこへ、誰かがこう指摘した。「でも宇野さんもおっしゃっていたじゃないですか、こんなに緻密で完成度の高いデータを三十分で整理できるはずがないって。だから、このデータの出所自体がおかしいはずだって」その一言が、また新たな波紋を呼んだ。人々は再び、宥里のデータの出所をめぐって議論を始めた。麻衣子は瞬きもせず前方を見つめていた。このデータがいったいどこから来たのか、心の底から知りたくてたまらなかった。照美の顔つきがわずかに和らいだ。まるで宥里の尻尾を掴んだとでも
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