Alle Kapitel von 名前を呼ばれない妻〜地獄の義家族ごと捨て去り、五人の子を置いて既婚初恋と禁断の愛に堕ちる〜: Kapitel 71

71 Kapitel

第71話 一時間の家計簿

 その日、紬がレンタルルームへ持ってきた鞄は、いつもより少しだけ重かった。中に入っているのは着替えでも食事でもなく、薄い大学ノートが三冊と、透明なファイルへ挟んだ銀行明細やレシートの写しだった。長年使い続けてきた家計簿の一部で、表紙の角は擦れ、何度も開閉したページの端には油や水の薄い染みが残っている。子どもが幼かった頃に書いた鉛筆の数字と、最近の細いボールペンの文字が同じ一冊の中に並び、紬が何年も同じ台所で金額を削り続けてきた時間そのもののように見えた。 律は机の向こうへ座り、紬が一冊目を開くまで何も尋ねなかった。今日はスープも菓子もなく、二人分のペットボトルの茶だけが机の端に置かれている。紬は最初のページをめくり、五万円と大きく書かれた月で指を止めた。「これ、まだ生活費が五万円だった時」「十人で?」「うん」「食費だけ?」「食費と日用品と、学校で急に必要になったもの。病院代は卓臣が出すって言ってたけど、細かい診療代は結局ここから払うことも多かった」 律は眉を寄せたが、何も言わずページへ目を落とした。米、肉、魚、牛乳、洗剤、トイレットペーパー、学校用品。数字は一円単位で細かく並んでいる。月末へ近づくにつれて、肉の回数が減り、豆腐ともやしが増え、紬自身の昼食欄だけが空白になる日が多くなっていた。「この頃から、自分の分減らしてた?」「減らすっていうより、残ったものを食べてた」「残らなかったら?」「食べない」 答えてから、紬は自分でも平然と言いすぎたと思った。律の表情が少し曇る。それでも彼は「何でそんなことを」と責めるようには言わず、次のページへ目を移した。「これが三万円になった月」 紬は別のノートを開く。赤いペンで〈三〇、〇〇〇円〉と書かれ、その下へ日付ごとの支出が並んでいる。月の半ばを過ぎたところから、買い物の内容が明らかに変わっていた。豚肉の代わりに鶏むね肉、刺身の代わりに豆腐、果物は安いバナナだけ。八重が要求する八品を維持するため、同じ材料を切り方と味付けで別料理に見せている日もある。「ここ、何で一日食費四百円台なんだ」「前の日の残りと、冷凍してあったもの使ったから」「十人分?」「うん」「無理だろ」「だから、私の分を数えなかった」 律は何か言いかけてやめた。紬はその沈黙の意味が分かった。以前なら、自分でも「でも仕方なかった
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-16
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