華怜から送られてきた写真を、卓臣は三度拡大した。 海辺のビジネスホテル。 宿泊日。 利用人数、二名。 画面の数字は変わらない。 自宅の駐車場に停めた車の中で、卓臣はエンジンも切らずに携帯電話を握っていた。冷房の風がネクタイの端を揺らし、ダッシュボードの時計は午後十一時十九分を示している。 数時間前、久世家で顔を合わせたばかりだった。 紬はいつもと同じ地味な服を着て、台所と食卓を何度も行き来していた。律が椅子を持ってくるまでは、当然のように立ったまま食事をさせるつもりだった女。 そんな紬が。 自分に逆らい始めた女が。 別の男とホテルへ行ったかもしれない。 卓臣の奥歯が強く噛み合った。 胸の奥に湧いたものを、悲しみとは思わなかった。 裏切られたという痛みですらない。 腹が立った。 ただ、それだけだった。 紬は逃げない女だった。 何を言っても謝る。金を渡さなくても何とかする。夜遅く帰っても待っている。女の匂いをつけて帰れば黙って洗濯する。嫌だと言っても、最後には声を出さなくなる。 そういう女だったはずだ。 それが自分の知らないところで、誰かに会い、自分から携帯の履歴を消し、自分の知らない顔で笑っている。 そのことが、許せなかった。 卓臣は華怜へ電話をかけた。 三回目の呼び出しで、甘い声が出る。『もしもし』「今から出られるか」『今?』「話がある」 数秒の沈黙。『いつものところ?』「ああ」『三十分で行く』 通話が切れた。 卓臣は携帯を助手席へ投げた。 その画面には、まだホテルの領収書が表示されていた。 町外れのホテルは、これまでにも二人が何度か使ってきた場所だった。 幹線道路から少し入った先にあり、入り口には背の高い植え込みが並ぶ。駐車場から直接部屋へ入れるため、人目を避けやすかった。 卓臣が部屋へ入って十分ほどして、華怜が現れた。 薄いカーディガンに、昼間とは違う黒いワンピース。髪にはまだ金木犀の香りが残っている。「急に呼ばないでよ」 そう言いながらも、華怜の口元には笑みがあった。 卓臣は返事をせず、テーブルへ携帯を置いた。 画面には華怜が送った領収書の写真がある。「これ、間違いないんだな」「律の上着から出てきた」「いつのだ」「ちゃんと見れば分かるでしょ」 華怜はソファへ腰を
آخر تحديث : 2026-08-10 اقرأ المزيد