王宮へ向かう朝は、驚くほど快晴だった。 雲ひとつない青空。 王都の街並みが朝日に照らされている。 だが、リリアの気分は晴れなかった。「……緊張する」 馬車の中で呟く。 向かい側。 レオンはいつものように無表情だった。 黒い軍服。 銀色の髪。 完璧な姿勢。 まるで緊張という言葉を知らない人みたいだ。「レオン様」「なんだ」「緊張しませんか」「別に」 予想通りの返答だった。「どうしてですか」「何度も来ている」「そういう問題じゃありません」 王宮である。 国で一番偉い人たちがいる場所だ。 薬草畑や診療所とは訳が違う。 レオンは少しだけ考えた。 そして――「お前がいるからな」 と言った。 リリアは固まった。「……え?」 レオンは窓の外を見ている。 いつも通り。 何でもない顔。 だが、今。 確かに変なことを言った。「それはどういう意味ですか」「そのままだ」「説明になってません」「そうか」 そうかじゃない。 心臓が少しうるさい。 本人は全く気づいていないらしい。 本当に困る。 最近ますます困る。 ◇ やがて馬車は王宮へ到着した。 巨大な白亜の宮殿。 高い塔。 広い庭園。 豪華な噴水。 初めて見る光景に、リリアは思わず息を呑む。「……すごい」「慣れる」「無理です」 即答だった。 レオンが僅かに口元を緩める。 最近、本当に少しだけ笑うようになった。
Last Updated : 2026-08-07 Read more