六月になった。 ルシェムに、本格的な夏が来た。 朝の空気が、五月とはまた違った。湿度が上がって、日差しが強くなった。市場の人たちが、夏の薄い服を着るようになった。 エリナは台所の窓を開けて、今日の空気を確認した。 暑い。でも、今日は少し風がある。 それが、少しだけ嬉しかった。 このくらいの気温なら、石鹸の製造に支障はない。でも、薬草の保存に注意が必要になる。熱で品質が変わるものがある。 作業場に行って、ルナに確認した。 「夏の保存、大丈夫ですか」「対応済み」 ルナが棚を見ながら言った。「先週から涼しい側の棚に移している」「先週から、ですか」「夏になる前に動くのが大事」「ありがとうございます。気づきませんでした」「エリナは、他のことを考えているから。私が作業場を見る」「そういう役割分担が、できているんですね」「できている。それでいい」 六月になってから、学院の衛生教育の準備が本格化してきた。 レインから手紙が頻繁に来た。 エリナへ 前期の授業が来月から始まる。石鹸の最初の供給は、七月の第一週に届ければいい。 一点確認がある。授業で実際に石鹸を使って手洗いをするデモンストレーションを行う。その時、製法の簡単な説明も入れたいのだが、製法の内容をどこまで公開していいか。 企業秘密の部分があれば、伏せることもできる。 ――レイン―― エリナはゴードンと相談した。 「製法の公開、どうしましょうか?」「私の意見を言っていいですか?」「どうぞ」「全部公開した方がいいと思います」「なぜですか?」「知識は、広まれば広まるほど強くなります。製法が広まれば、より多くの人が石鹸を作れるようになる。それは、アッシュフォード商会の利益とは相反するかもしれません。でも、目的を考え
Last Updated : 2026-09-27 Read more