《side セシリア・ローズ・アーリントン》 夜空に輝く月が、公国の街並みを優しく照らしていた。 私は、先ほどフライ様の部屋を後にし、心を落ち着かせるために中庭を歩いていた。 彼の言葉が、まだ胸の中に響いている。「夫婦になったなら、僕は君を愛するよ」 それは、とてもシンプルで、けれど、私にとって何よりも嬉しい言葉だった。 政略結婚だとばかり思っていた。 フライ様にとって都合がよく、そして公国にとっても都合が良い相手。 互いに利害の一致した結婚。そんな寂しい思いを、フライ様が取り払ってくださった。 彼はいつも普通の人とは何かが違った。 ただの契約ではなく、私を「妻」として迎え、愛すると言ってくださった。その言葉に胸がいっぱいになり、温かさと幸福を感じながら、私は最後の挨拶へ向かった。 向かう先は、王城の奥にある両親の部屋。 私を育ててくれた大切な家族に、最後の挨拶をするためだった。 ♢「セシリアか……入れ」 父の声が響く。 私はそっと扉を開いて、部屋の中へと足を踏み入れた。 そこには、公国の王である父と、母が並んで座っていた。 母は少し目を潤ませながら、優しく微笑んでくれていた。 父は無表情のように見えるが、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。「……今夜は、最後の夜だな」「はい、父上」 私は深く頭を下げる。「ここまで育ててくださり、本当にありがとうございました」 心からの感謝を込めた言葉。 父も母も、どんな時でも私を支えてくれた。 公国の姫としての自覚を持たせるために、厳しく教育された日々。 それでも、私が学園都市へ行くことを許し、自由に生きる道を与えてくれたこと。 そして、今――愛する人の妻として、新たな人生を歩むことを認めてくれた。
Last Updated : 2026-10-29 Read more