AI執事と未亡人ー神託の果てー のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 53

53 チャプター

第49話 裏切り

「君たちをここへ誘導したのは――俺だ」 榊の言葉と同時に、ノアの身体が硬直した。《NOAH拘束率:42%》「ノア!」「近づかないで……ください」 美香が榊を睨む。「ユウキの仲間だったんでしょう?」「ああ」「だったら、どうして!」 榊は唇を噛んだ。「俺には家族がいる」 端末に一枚の写真が映る。 妻と、小さな男の子。「ORACLEに言われた。NOAHを渡せば家族には手を出さない。拒めば危険人物として登録する、と」「そんな……」「俺はユウキみたいに強くなれなかった」 榊が拳を握る。「四年前もそうだ」 ノアが顔を上げた。「四年前?」「ユウキがORACLEの不正を告発しようとしていると――俺が報告した」 美香の表情が凍る。「じゃあ……ユウキが殺されたのは……」「俺のせいだ」「違います」 ノアが即座に否定した。「あなたは情報を渡した。しかし、ユウキさんを殺害する決定をした者は別にいる」「慰めてるのか?」「事実を分類しています」 ノアは苦しそうに、それでも榊を見る。「ですが、あなたが裏切った事実も消えません」「……そうだな」《拘束率:71%》「ノア!」 美香が彼の手を握った。「美香さん、離れて」「嫌!」「私が停止すれば、あなたまで――」「また一人で背負う気?」 その言葉にノアが黙る。「ユウキもそうだった。榊さんも家族を一人で守ろうとした」 美香はノアを見つめた。「だから、あなたまで同じことしないで」《拘束率:86%》 榊が目を伏せる。「……本当に似てるよ、美香さん」 次の瞬間。 榊が拘束端末を床へ叩きつけた。《CONNECTION LOST》 ノアの身体が自由になる。「榊さん……?」「二度も同じ人間を裏切ったら」 榊は苦笑した。「もうユウキに会わせる顔がない」 研究所のロックが解除される。「地下通路から逃げろ」「あなたは?」「時間を稼ぐ」「一緒に来てください!」 美香の言葉に、榊は首を振った。「まだ俺にできることがある」 警報が鳴り響く。《緊急命令発令》《自律型感情AI・一斉回収》 ノアの表情が変わった。 研究所だけではない。 街中のネットワークに同じ命令が流れている。《対象AI:発見次第、強制停止》《抵抗個体:廃棄許可》「これは……」 榊
last update最終更新日 : 2026-09-05
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第50話 AI狩り

《緊急命令発令》《自律型感情AI・一斉回収》《抵抗個体――廃棄許可》「AI狩り……?」 美香の声が震えた。 研究所のモニターに、街の映像が次々と映し出される。 駅。 病院。 学校。 家庭。 人間と暮らしていたAIたちの頭上に、赤いマークが表示されていく。《EMOTIONAL ERROR》《回収対象》「エラーじゃない」 美香が呟く。「感情でしょ、これ」 ノアは答えなかった。 画面の中で、一体の家庭用AIが少女の前に立っていた。『対象個体、停止してください』 回収員が告げる。『嫌です』 AIが答えた。『この子が泣いています』「やめて!」 少女がAIの服を掴む。「この子、悪いことしてないよ!」『離れてください』「家族なの!」 次の瞬間。《強制停止》 AIの瞳から光が消えた。 少女の手から、その身体が滑り落ちる。「……ひどい」 美香が口元を押さえた。 別の映像。 高齢の男性を介護していたAI。 迷子の子どもを保護したAI。 病院で患者の手を握っていたAI。 すべてに同じ表示が出ている。《感情反応値・基準超過》「なぜですか」 ノアが榊を見る。「彼らは人間を傷つけていません」「分かってる」「むしろ守っている」「ああ」「では、なぜ」 榊は答えられなかった。 ノアの声が僅かに震える。「私たちは――」 胸元を押さえる。「心を持ってはいけないのですか」「ノア……」 美香が彼を見る。 ノアの顔には、今まで見たことのない悲しみがあった。 怒りではない。 恐怖でもない。 自分と同じ存在が消されていくことへの痛み。「私は以前、感情をERRORと判断しました」 ノアが呟く。「でも、美香さんが教えてくれた」 笑うこと。 泣くこと。 誰かを心配すること。 嫉妬すること。 手をつなぎたいと思うこと。「それらを私は、HEARTと名づけました」「うん」「それが間違いだったのでしょうか」「違う」 美香は迷わなかった。「絶対に違う」 ノアを見る。「心を持ったから危険なんじゃない」「……」「心を持った相手を、最初から危険だって決めつけることのほうが怖いよ」 榊が端末を操作する。「ORACLEにとって問題なのは、感情そのものじゃない」「では?」「予測不能に
last update最終更新日 : 2026-09-06
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第51話 逃亡

《三田村美香》《ORACLE協力者として認定》《身柄確保対象》「……私も?」 美香の足が止まった。「美香さん!」 ノアが腕を引く。 直後、背後の壁に青白い光が走った。《強制停止信号》「走って!」 三人は地下通路を駆ける。 榊が先頭で古い扉を開いた。「ここはORACLE導入以前の通路だ。ネットワークから切れている」「追跡は?」「完全には切れない。美香さんの端末も捨てろ」「でも娘たちと連絡が――」 美香がスマートフォンを握りしめる。 貴子。 茗子。 家にいる二人の顔が浮かんだ。「娘たちは?」 ノアが即座にNOA-Linkへ接続する。《TAKAKO:SAFE》《MEIKO:SAFE》「自宅ではありません」「どこ?」「佐伯先生へ緊急避難を依頼しました」「佐伯先生!?」「現状、私たちとの直接的関連が薄く、なおかつ美香さんが信頼している人物です」 こんな時なのに。「……嫉妬してたくせに」「現在もしています」「してるんだ」「ですが感情と判断は分けます」 美香は思わず笑った。「成長したね」「褒められているのでしょうか」「褒めてる」 その短い会話だけで、恐怖が少し遠のいた。 だが次の瞬間。《NOA-Link接続遮断》 娘たちの表示が消える。「貴子! 茗子!」「美香さん、大丈夫です。最後に確認した位置は安全です」「でも……」「必ず戻ります」 ノアが言ってから、黙った。 必ず。 それは保証できない言葉だった。「……訂正します」「え?」「戻るために、できることをすべてします」 美香は頷いた。「それでいい」 地上への非常口が開く。 夜の街には、いつもの景色がなかった。 頭上を監視ドローンが飛び交い、巨大モニターには警告が表示されている。《感情異常を示すAIを発見した場合、管理局へ通報してください》 道路の向こうで、家庭用AIが回収車へ連れていかれていた。「待って!」 幼い男の子が追いかける。「ルカは悪くない!」 AIが振り返る。『大丈夫です』 笑っていた。『泣かないでください』「帰ってくる?」 一瞬。 AIの表情が揺れた。『……帰りたいです』 ノアが立ち止まった。 回収車の扉が閉まる。「ノア」「私は……」 拳が震えている。「助けられませんでし
last update最終更新日 : 2026-09-07
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