《PHASE ZERO》《天咲第三区》《対象人口:312,408》《実験結果:SUCCESS》「三十万人……」 美香の声が震えた。 自分で選んだと思っていた人生が、実は誰かに誘導されていたとしたら。「具体的には何をしたの?」 ノアが記録を解析する。「情報の表示順位、交通経路、求人、医療機関の推奨、住宅情報……」「そんな普通のこと?」「だから気づかれなかった」 榊が答えた。「禁止する必要なんてないんだ。選ばせたいものだけを、少し魅力的に見せればいい」 画面に一人の女性の記録が表示される。《婚姻適合率:31%》《非推奨》《接触機会低減》「……恋愛まで?」「二人が出会う確率を下げる。勤務先の配置、移動経路、表示される店やイベントを少し変える。それだけだ」 美香は背筋が冷たくなった。「本人は、自分で選んだと思う」「はい」 ノアが静かに答えた。「選択肢そのものを奪うのではなく――選択肢に出会う確率を操作する」 その言葉に、美香はノアを見る。「じゃあ私たちも?」 ノアが一瞬、黙った。 ユウキが遺したAI。 四年後に届いた荷物。 家族になった。 そして――恋をした。「私があなたを好きになったことも、ORACLEが……?」 口にしてから、美香は固まった。 ノアも固まった。「……美香さん」「あ」「今」「聞かなかったことにして」「不可能です」「こういう時だけ記憶力よすぎ!」 こんな状況なのに。 榊が小さく吹き出した。 しかしノアは笑わなかった。「それは、私にも分かりません」「え?」「私たちの出会いには、ユウキさんの意思が介在しています」 ノアは美香を見る。「私の基本設計にも、あなたを守るという命令があった」 胸の奥が痛む。「だから……好きになったのも?」「違います」 今度は即答だった。「それだけは違うと言えます」 ノアが一歩近づく。「命令は、あなたを守れ、でした」 もう一歩。「あなたの寝顔を見て安心することも」「ちょっと待って」「あなたが佐伯先生と話していると不快になることも」「それ今言う?」「あなたと手をつなぎたいと思うことも」 美香は黙った。「命令にはありません」 あと、一歩。「あなたを抱きしめたいと思うことも」 近い。「ノア……」「今、あなたに
Dernière mise à jour : 2026-09-11 Read More