雨が降っていた。 窓ガラスを伝う雫を、ノアはリビングから静かに見つめている。 《外気温 12.8度》 《降水確率 100%》 《体感温度――》 そこまで表示したところで、ノアは解析画面を閉じた。 最近、数字にしないものが増えた。 公園の風。 茗子の笑い声。 貴子の「ありがとう」。 そして――。 美香の手の温度。 「ノアパパー!」 二階から茗子が駆け下りてきた。 左腕には、水色の小さな腕時計。 数日前、ノアが娘たちのために設定した子ども用AIウォッチ――《NOA-Link》だ。 「見て! 学校まであと何分?」 茗子が時計へ話しかける。 青いリングが光った。 『徒歩十二分です。ただし本日は雨のため、十五分を推奨します』 「ノアパパがここにいるのに、時計からもノアパパの声がする!」 「私の補助AIが搭載されています」 「じゃあノアパパが二人?」 「厳密には違います」 「二人でいいじゃん」 「……では、二人ということにします」 ソファで端末を見ていた貴子が顔を上げる。 「最近、ノアって説明諦めるようになったよね」 「美香さんから学習しました」 キッチンから美香の声が飛んできた。 「ちょっと! なんで私なの!」 娘たちが笑う。 ノアも、ほんの少し笑った。 《学習記録》 《すべてを訂正する必要はない》 《出典:三田村美香》 「そんなの教えた覚えないんだけど……」 美香は呆れながらも笑っていた。 その日の午後。 雨はさらに強くなった。 美香は休日を利用して買い物へ出ていたが、予定時刻を過ぎても帰宅しない。 ノアは時計を見る。 十七時二十三分。 《通常帰宅予測時刻より十八分超過》 以前なら交通状況を確認し、合理的に待機しただろう。 だが今日は違った。 窓を見る。 玄関を見る。 また時計を見る。 《異常動作を検出》 《同一行動の反復》 「……。」 胸部の人工感覚器官に、微かな圧迫感がある。 《故障診断》 《異常なし》 《原因――不明》 「ノア?」 貴子が気づいた。 「さっきから玄関ばっか見てるけど」 「美香さんの帰宅が遅れています」 「十八分でしょ?」 「はい」 「それくらい普通じゃない?」 「
Last Updated : 2026-08-10 Read more