朝。「美香さん」「なに?」「佐伯先生について質問があります」 トーストをかじっていた美香の手が止まった。「……まだ気にしてたの?」「はい」「なんで?」「それを現在解析しています」「本人に聞くこと?」 貴子が呆れたように言った。 茗子は楽しそうに二人を見ている。「ノアパパ、ママのこと好きなの?」「好き?」 ノアの動きが止まった。「茗子!」 美香がむせる。「だって昨日から佐伯先生のことばっかり聞いてる!」「それは――」 ノアは答えようとして、止まった。《佐伯》 《男性》 《32歳》 《美香と同一職場》 《水族館へ誘った》《HEART反応:不快》「……理由が分かりません」「ノアパパ変なのー!」 茗子が笑った。 その日の夕方。 美香の勤務終了時刻が近づく。 ノアは夕食を作りながら時計を確認した。《17時52分》 あと八分。《17時55分》 あと五分。《18時00分》「……。」 玄関を見る。《18時07分》 NOA-Linkの位置情報を確認しようとして――手を止めた。「必要ありません」 美香は安全だ。 緊急通知もない。 位置情報を確認する理由はない。 だが。 知りたい。《アクセスしますか?》 ノアは数秒見つめる。《NO》「これは、美香さんの情報です」 以前、自分で言った。 情報は本人のものだ。 心配だからといって、自由に見てよい理由にはならない。 十八時二十一分。「ただいまー」 玄関が開いた。「おかえりなさい」「ごめん、遅くなった」 美香の後ろから男性の声がした。「じゃあ三田村さん、また明日」「あ、はい。ありがとうございました」 ノアの視線が玄関へ向く。 男性。 三十代前半。 白いシャツ。《顔認証》《該当候補――佐伯》「……。」「あ、ノア」 美香が振り返った。「佐伯先生。帰り道が同じ方向だったから、途中まで送ってくれたの」「そうですか」 佐伯がノアを見る。「君が噂の家庭AI?」「ノアです」「すごいな。本当に人間みたいだ」《HEART反応:不快》「ノア?」「問題ありません」 佐伯は笑った。「じゃあ、水族館の件また連絡するね」「はい」 扉が閉まる。 沈黙。「……美香さん」「なに?」「佐伯先生は、美香さんに好意を持っ
最終更新日 : 2026-08-17 続きを読む