Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

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第11話 憧れの人は遠いままでいい、そう思っていたのに

倉科紬希は、朝の教室という場所が少し苦手だった。  昼休みや放課後はまだいい。ざわつきにも種類があって、誰が誰と話していて、自分がどこに立てば邪魔にならないか、なんとなく見えるからだ。  でも朝だけは違う。  眠たそうな人、機嫌が悪そうな人、まだ完全に学校の顔になっていない人たちが、半端なまま同じ空間に集まってくる。  そこへ自然に入っていける人もいるけれど、紬希はどちらかといえば、少し離れた場所から様子を見てしまう方だった。  だから今日も、教室へ入ったあとすぐに席へ座って、鞄から教科書を取り出すふりをしながら、クラスの空気がほどけていくのを静かに眺めていた。  視線の先には、窓際の一角がある。  久瀬湊人。  柊坂真白。  鳴海すばる。  日野直純。  最近、あのあたりは朝から少し賑やかだ。  久瀬くんが転校してきた最初の頃は、ただ“新しい人がいる”という空気だった。  でも今は違う。  もうちゃんと、そこにいる人になっている。  不思議だな、と紬希は思う。  久瀬湊人という人は、地味だ。  派手な髪でもないし、声を張るわけでもないし、自分から輪の中心へ入っていくタイプにも見えない。  なのに、いつの間にか人が近くにいる。  それは、きっとあの人が話しかけやすいからではなく、話しかけた時に相手をちゃんと受け止めるからなのだろう。 「おはようございます」  今もそうだ。  日野くんの軽い話しかけ方にも、鳴海さんの熱量にも、柊坂さんの少し尖った言葉にも、久瀬くんは変に慌てず、でも冷たくもしない温度で返している。  柔らかい。  でも、曖昧ではない。  その会話の空気を、紬希は少し離れた席からなんとなく聞いていることが多かった。  理由は自分でもよく分からない。  ただ、聞いていると少しだけ落ち着くのだ
last updateDernière mise à jour : 2026-08-16
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第12話 隠しているはずなのに、似ていると言われすぎる

その週の木曜日、久瀬湊人は朝から嫌な予感がしていた。  こういう予感は、たいてい外れない。  空が曇っているとか、財布の中の小銭が偏っているとか、そういう物理的な兆候ではない。もっと曖昧で、でも自分の生活においてはかなり高い確率で当たる類のものだ。  たとえば、誰かの視線が少しだけ多い日。  たとえば、昨日の会話の続きを今日は掘られそうだなと感じる日。  たとえば、自分の中で「今日は変に目立たないようにしよう」という意識がいつもより強い日。  そういう日は、だいたい何か起こる。 「おはようございます」  教室に入った瞬間、いつものように日野が軽く手を上げた。 「おはよー、久瀬」  すばるも続く。 「おはよ。あ、今日ちょっとだけ眠そう」 「そうでしょうか」 「うん。ほんのちょっと」 「鳴海さんの観察眼が怖いです」 「怖くない。解像度が高いだけ」  もはや定番の返しになっている。  真白は机に肘をつきながらこちらを見た。 「アンタ、最近ほんとに鳴海のそういうのを受け流すの上手くなったわよね」 「受け流しているつもりはありません」 「それが受け流しなの」 「そうなんですか」 「そうなの」  朝のやりとりは、表面だけ見ればいつも通りだった。  なのに、湊人の中では小さな警報が鳴り続けている。  理由の一つは、鳴海すばるの顔だ。  この数日、すばるは以前にも増して、こちらの言葉や声色に妙な引っかかり方をしている。  本人は“推しに似てる気がする”くらいの冗談半分で処理しているようだが
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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第13話 配信者の言葉は、学校の誰かを救ってしまう

水曜日の夜、小毬こはくの配信は、いつもより少しだけ短かった。  AstraLink共有サーバーへ上がった事前告知も簡潔で、雑談のテーマも軽い近況報告が中心。けれど実際に枠が始まってみると、その“軽さ”の内側に、いつもより張ったものがあることは、画面越しにも伝わってきた。  久瀬湊人は自室の机に肘をつきながら、その配信を見ていた。  学校の宿題はもう終わらせてある。  自分の配信までは、まだ少し時間がある。  ほんの少し覗くだけのつもりだったのに、気づけば開始からずっと画面を開いたままだった。 『こんばんは、小毬こはくです。来てくださってありがとうございます。今日は少しだけ、ゆっくりお話しできたらうれしいです』  声はいつも通りやわらかい。  でも、そのやわらかさの下にある緊張の粒が、今日はいつもより細かい。  コメント欄はやさしかった。 『こんばんはー』 『今日も来たよ』 『こはくちゃんの声助かる』 『無理しないでね』 『のんびりしよう』  小毬こはくは一つずつそれを拾っていく。 『ありがとうございます。来ていただけるだけで、すごく安心します』  その“安心します”の言い方が、少しだけ本気すぎる気がした。  ただの配信の挨拶というより、本当にそう思っている人の温度だ。  湊人はコメント欄を流し見しながら、静かに画面を見続ける。  話題は学校のこと、最近少しだけ暖かくなってきた夜のこと、コンビニで見つけた小さなお菓子の話。どれも大きな事件ではない。けれど、配信がうまい人は、大きな話をしないからといって退屈になるわけではない。  小毬こはくは、まだ“うまい”とまでは言えない。  それでも、聞いているうちに自然と時間が流れる枠ではあった。  だからこそ、ときどき見える小さな乱れが、逆に目につく。  コメントを拾う直前に、一瞬だけ間が空く。  話題を変える時、少しだけ言葉を探す。  笑うところで
last updateDernière mise à jour : 2026-08-18
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第14話 近づくほど、言えないことが増えていく

木曜日の朝、久瀬湊人は目覚ましが鳴る少し前に目を覚ました。  カーテンの隙間から差し込む光はやわらかく、まだ春の朝らしい冷たさを少しだけ残している。布団の中で目を開けたまま、しばらく天井を見つめる。  眠れなかったわけではない。  けれど、深く眠れた気もしない。  理由は分かっていた。  昨日の配信。  小毬こはくの枠へ、自分が天瀬アルトとしてコメントを送ったこと。  その言葉がちゃんと届いて、配信の空気を少しだけ立て直したこと。  そして、その余韻が翌日の教室にまで流れ込んでしまったこと。  夜の自分の言葉が、昼の空気を変える。  それ自体は悪いことではない。  むしろ、配信者としては誇ってもいいことかもしれない。  けれど、学校の久瀬湊人として生きようとする自分にとっては、やはり少しだけ危うい。  鳴海すばるは、昨日も相変わらず解像度高く騒いでいた。  倉科紬希は、静かな熱でその言葉を受け止めていた。  柊坂真白は、“似ている”という話題そのものには線を引きながら、それでもこちらの違和感だけは見落とさなかった。  近づくほど、見られる。  見られるほど、言えないことが増えていく。 「……難しいな、本当に」  ベッドの中で小さく呟いてから、湊人は身体を起こした。      ◇  教室へ入ると、いつもの景色がそこにあった。  日野が前の席で伸びをしている。  すばるは朝から何かしらスマホを見ながら一人でにやにやしている。  真白はすでに席に着いていて、机に頬杖をつきながら窓の外を見ていた。  その一角が、今ではすっかり自分の“朝の位置”になっている。 「おはようございます」  湊人が言うと、日野が軽く手を上げる。 「おはよー」 「おはよ」  すばるもすぐ返す。  真白は少しだけこちらを見てから、短く言った。 「おはよう」
last updateDernière mise à jour : 2026-08-19
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第15話 たった一つのミスが、秘密の輪郭をはっきりさせる

その金曜日は、朝から何もかもが半歩ずつ噛み合っていなかった。 目覚ましより先に起きたのに、気分は重い。 制服のボタンを留める手元が一度だけずれる。 朝食のトーストは少し焼きすぎた。 駅までの道では信号に二回連続で引っかかり、教室へ入る直前、スマホの画面に新しい通知が灯る。 本日十九時半、案件先との事前確認前倒し。 マネージャーからだった。 前倒し。 その二文字を見た瞬間、胸の奥が微かに軋む。 今日の夜は、もともと軽い事前確認と、そのあとに短めの配信が入っていた。だから放課後に少し余裕があるはずだと思っていたのに、その“少し”が削られる。 そして今日は、学校側でも油断できない日だった。 日野が言っていた土曜のカラオケの話。 鳴海すばるの“次こそ早めに声をかける”宣言。 真白の、来れるなら来た方がいいという視線。 紬希の、静かに近づいてくる尊敬の熱。 全部が少しずつ、自分の昼の世界へ絡みついてきている。「……嫌な感じだな」 校門をくぐりながら、小さく呟く。 こういう時の自分は、大体どこかで判断を誤る。 夜の予定を気にしすぎて、昼の顔が薄くなる。 昼の会話に引っ張られて、夜の準備へ集中しきれない。 両方を抱えたまま歩く日は、たいてい危うい。     ◇ 教室へ入ると、真っ先にすばるの声が飛んできた。「おはよ! 今日ちょっと急ぎの話ある!」「朝一でそれ?」 真白が呆れる。「だって大事だから」「鳴海にとっての“大事”は九割推し関連でしょ」「今日は一応リアル寄り!」 すばるが言い切る。「土曜の話、詰めたいの!」 日野が前の席から振り
last updateDernière mise à jour : 2026-08-20
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第16話 僕の青春ラブコメは、まだ始まったばかりらしい

翌朝、久瀬湊人はいつもより五分早く教室の前に立っていた。 早く来たからといって、何かが解決するわけではない。 むしろ、早く来てしまうくらいには落ち着かないというだけの話だ。 昨日の放課後。 あの一言。 ――でも、今日は本当に外せないので。 たったそれだけの言い回し。 けれど、鳴海すばるには“ちょっとだけアルトっぽかった”と見抜かれた。 冗談半分かもしれない。半分以上本気かもしれない。 どちらにせよ、あの瞬間、自分が“学校の久瀬湊人”ではなく、“配信者として人をやわらかく引かせる側の話し方”をしてしまったのは事実だった。 その後の配信も、案件先との確認も、表向きは何事もなくこなした。 天瀬アルトとしては、むしろ普段通りだった。 問題は、普段通りの自分を学校へ持ち込んでしまったことだ。「……どうするかな」 小さく呟いてから、湊人は教室の扉を開けた。 まだ朝の生徒はまばらだ。 日野はいない。 すばるもまだ来ていない。 ただ一人、窓際の席に柊坂真白だけがいた。 真白は自分の席に座り、窓から入る朝の光をぼんやり眺めていた。教室のざわめきがまだ生まれきっていない時間帯だからか、その横顔はいつもより少しだけ静かに見える。 扉の音でこちらへ気づく。 目が合う。 ほんの一瞬の間。「……おはよう」 真白が先に言った。「おはようございます」 湊人は少しだけ驚きながら返す。 昨日の空気を引きずっているなら、もっと気まずい始まり方もありえた。 だが、真白の声色は意外と普通だった。 いや、普通というより、少しだけ考えたうえで“普通にした&rdq
last updateDernière mise à jour : 2026-08-21
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第17話 約束を守ろうとするだけで、青春は少しうれしくなる

 土曜日の約束というものは、平日の教室にいる時より、放課後の帰り道より、夜の自室にいる時の方がずっと重く感じられる。  金曜の夜、久瀬湊人は机の前に座ったまま、スマホのカレンダーと事務所のスケジュール表を何度も見比べていた。  土曜、十二時、駅前集合、カラオケ二時間。  それだけなら難しくない。  むしろ、今の湊人にとっては少し楽しみなくらいだ。  問題は、その周辺に生えている別の予定だった。  AstraLink側の共有カレンダーには、午後からオンラインの軽い確認打ち合わせの仮予定が入っている。確定ではない。だが“仮”というのが一番扱いに困る。なくなる可能性もあれば、そのまま直前で本決まりになることもある。  さらに、夜には自分の配信もある。  それ自体はいつものことだ。だが、昼の時間が後ろへずれるほど、夜の準備も圧迫される。 「……行くだけなら、いける」  小さく呟く。  ただ“行くだけ”ではだめなのだろうとも思う。  来ると言っておいて、途中で慌ただしく帰る。  いてもどこか上の空。  それでは結局、“また急にいなくなる”人のままだ。  だから、ちゃんと来る。  できるだけ自然に、一緒にいる。  そういう土曜にしたい。  そう思っている自分に、少しだけ驚く。  前の自分なら、学校の約束よりも“無難にやり過ごすこと”を優先していたはずだ。  目立たないこと。深入りしないこと。急な予定変更で誰かに何かを思われるくらいなら、最初から距離を取ること。  それが一番楽で、一番安全だった。  でも今は違う。  真白の「来れるなら、来た方がいい」も。  すばるの「今度は早めに言うから」も。  日野の「また一緒に行こうぜ」も。  紬希の「来られたら、たぶん楽しいと思う」も。  全部がちゃんと胸に残ってしまっている。 「……約束、守りたいな」  その言葉
last updateDernière mise à jour : 2026-08-22
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第18話 予定は守りたい、でも秘密は予定表に書けない

 土曜の予定が「行けそう」から「行ける」へ変わった翌日、久瀬湊人の胸の中には、妙に落ち着かない明るさがあった。  学校へ向かう電車の窓に映る自分の顔は、たぶん少しだけいつもよりやわらかい。  その自覚があるからこそ、余計に気を引き締める必要があるとも思う。  学校の約束を守れる。  それは確かにうれしい。  だが、うれしいと感じている時ほど、人は油断する。  そして湊人の生活において、“油断”はだいたいろくな結果を生まない。 「今日は浮かれない」  小さく呟いてから、駅の階段を上がる。 「できるだけ、普通に」  普通に。  その言葉はいつも便利で、そのくせ定義がふわふわしていて、自分で自分を苦しめる。  でも今日に関しては、本当に“普通”でいたい理由があった。  土曜のカラオケが楽しみだという気持ちを、教室で変に出しすぎるのも落ち着かないし、逆に夜の予定や事務所側の調整に気を取られて、また“どこかいなくなりそうな顔”になるのも嫌だった。  せっかく土曜にちゃんと行けるのだから、今日くらいは学校側の自分へ気持ちを寄せていたい。  そう思っていたのに、その願いは教室へ入って十五分ほどで崩れ始める。      ◇ 「久瀬ー」  日野が朝から元気よく振り向いた。 「おはよー、調子どう?」 「おはようございます。問題ありません」 「その返し、土曜にちゃんと来る人の返しだな」 「判断基準が雑」  すばるが笑う。 「でもなんかわかる」  真白は机に頬杖をつきながら、ちらりとこちらを見た。 「今日はたしかに、昨日より“来る気ある顔”してる」 「昨日もあったつもりですが」 「昨日は“来たいけど消えるかもしれません”の顔だった」 「細かい」  湊人が思わず言うと、真白はふっと小さく鼻を鳴らした。 「前から言ってるでしょ。アンタは分かりやすく変」 「それ褒めてる?」  日
last updateDernière mise à jour : 2026-08-23
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第19話 お嬢様は、地味な転校生の指先を見る

御門朱莉が久瀬湊人という名前を最初に意識したのは、顔を見たからではなかった。 声でもない。 噂でもない。 ましてや、鳴海すばるが昼休みに騒いでいる「推しに似てる」だの「返しが綺麗」だの、そういう曖昧な話でもない。 最初に引っかかったのは、手だった。「はい、これで全員分です」 放課後の生徒会室で、湊人はクラス提出用の書類を机へそろえて置いた。 重ねた紙の角がぴたりと揃っている。向きも、受け取る相手の手の方向も自然に計算されているみたいに整っていた。 その様子を、御門朱莉は机の向こう側からじっと見ていた。「……何か、問題でもありましたか」 湊人が気づいて顔を上げる。 朱莉はあえて数秒待ってから答えた。「別に」 その返事は柊坂真白あたりがよく使いそうな投げ方だったが、そこに込める温度は少し違う。 朱莉の場合、それは“どうでもいい”ではなく、“今はまだ言わない”に近い。 生徒会室には夕方の光が入っていた。 校舎の西側にあるその部屋は、日が傾く時間帯になると、白い壁も古い棚も少しだけ金色に見える。 書類、コピー用紙、ホワイトボード、古びたソファ。どこにでもありそうな学校の部屋なのに、朱莉がそこに座っているだけで、不思議と空気がきりっとする。 御門朱莉は同学年だった。 クラスは違う。だが顔を知らない生徒はいない。 整った顔立ち、強気な目元、無駄のない姿勢。制服はきちんと着ているのに、本人の雰囲気だけで「お嬢様」と分かるような人間だった。 そして彼女は、湊人のことを最初からあまり好意的には見ていない。 ……いや、正確には、“雑に分類できないから面倒”という見方に近いのかもしれない。「二年三組の提出物、これで合ってますよね」 湊人が改めて
last updateDernière mise à jour : 2026-08-24
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第20話 静かな子は、好きな人の声をよく覚えている

倉科紬希は、自分が人の声を覚える方だという自覚があった。 顔よりも先に、声で覚えることがある。 喋り方、息の混じり方、笑う直前の小さな間。そういうものが残る。 もちろん、誰に対してもそうではない。 ただ、自分の中で“もう少し聞いていたい”と思った相手の声だけが、妙に鮮明に残るのだ。 だからたぶん、これは最初から少し危なかったのかもしれない。 遠い場所の推しの声を、何度も何度も聞いていたこと。 そして学校で、少しだけ方向の似たやさしさを持つ男の子と出会ってしまったこと。     ◇ その日の昼休みも、窓際の一角には自然と人が集まっていた。 もう“偶然そこにいる”という感じではない。 日野が前の席から振り向き、すばるが勢いよく話題を持ち込み、真白がそれに半分呆れながら混ざる。湊人はその中心より一歩引いた場所で受け止めるように会話へ入る。 そこへ、紬希も静かに加わる。 最初は少し緊張していた。 でも今は、無理に自分から話さなくても、あの場所にいればちゃんと息がしやすいことを知っている。「で、土曜のカラオケさ」 すばるが言う。「私は一応、前半と後半でテーマ分けしようと思ってる」「なにその厄介な構成」 真白が即座に言う。「厄介じゃない。前半は普通に歌いやすいやつ、後半は少し自由」「“少し自由”の時点で不安しかない」「でも大事でしょ」「何が」「その人の人となりが出るから」 すばるは胸を張る。「選曲に全部出る」「またオタクっぽいこと言ってる」 日野が笑った。 紬希はお弁当箱を開きながら、そのやりとりを聞いていた。 こういう会話の温度にはまだ完全には慣れない。 でも、嫌いではない。 むしろ最近は、次
last updateDernière mise à jour : 2026-08-25
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