鳴海すばるは、自分のことを“わりと人の気持ちがわかる方”だとは思っていない。 空気は読む。 流れも読む。 でも、それはどちらかと言えばオタクとして鍛えられた観察眼の副産物みたいなものだ。 配信で今どのコメントを拾うべきか、 コラボで誰が一歩引いたか、 雑談で声の温度が少し落ちたか。 そういう“見える変化”に敏感なだけで、別に人の心の機微へ特別強いわけではない。 だから今の状況は、かなりしんどい。 真白みたいに「今日は顔がこう」と切り込めるわけでもない。 紬希みたいに、静かに近づいたまま黙っていられるわけでもない。 日野みたいに、わからないところをわからないまま流して空気だけ軽くする器用さもない。 そのくせ、耳だけは無駄にいい。 久瀬湊人の声が、どうしても“あっち側”に引っかかる。 言葉そのものではない。 もっと細かい、間とか、落とし方とか、相手を止める時のやわらかさとか、そういうものだ。 決めつけたくない。 でも、決めつけないままでいるには、自分の耳はあまりにも好きすぎる。「……ほんと、向いてないな」 朝、駅から学校へ向かう道を歩きながら、すばるは小さく呟いた。 向いてないのは、秘密を抱えた相手へ距離を取ることだ。 しかもその相手が、もし本当に推しと近い場所にいるのだとしたら、なおさら。 ◇ 教室へ入ると、久瀬はもう来ていた。 最近はそれだけで少しだけほっとする自分がいる。 文化祭のあとから、その感じは少し変わった。 前はただ「いるな」で済んでいたのに、今は「今日はいまのところ、ここにいるんだ」と思ってしまう。 それはたぶん、真白や紬希も同じなのだろう。 みんな少しずつ、
Dernière mise à jour : 2026-09-15 Read More