文化祭当日というものは、朝から空気の密度がおかしい。 普段と同じ校門。 普段と同じ校舎。 同じはずなのに、色と音だけが少し浮いている。 まだ一般来場者が本格的に入る前だというのに、廊下には段ボールを運ぶ音がして、教室の扉は半分開いたままになっていて、どのクラスも「今だけは特別です」という顔をしている。 装飾の紙が揺れ、テープの切れ端が床へ落ち、誰かの「それこっち!」が別の誰かの「もう時間!」に重なる。 久瀬湊人は、その騒がしさの中に立ちながら、すでに朝の時点で少しだけ疲れていた。 いや、身体が疲れているわけではない。 問題は神経の方だ。 今日のスケジュールは、かなり綱渡りだった。 学校側では、文化祭の準備と当日運営。 クラス展示の備品管理、導線確認、来場者の流れの調整。表立って仕切るわけではない。だが、放っておけばどこかが少しずつ崩れる場所に、自然と自分が入っていく構造になってしまっている。 一方で、夜ではなく、今日は昼にもAstraLink側の大事なオンライン企画がある。 完全な配信本番ではないが、事前の接続確認と短い顔合わせ、それから本編直前の最終打ち合わせ。しかも今日は大型企画ゆえに、自分が欠けるとややこしい。 どちらも欠けられない。 その事実だけで、朝から胃の奥が少しだけ重い。「久瀬、これ教室の後ろに回すやつ?」 日野の声で我に返る。「はい、それで大丈夫です」「りょーかい」 日野は段ボールを抱えたまま笑った。「朝から先生みたいだな」「やめてください」「でもわかる」 すばるが装飾の紐を結びながら言う。「今日の久瀬くん、完全に“静かな進行役”の顔してる」「顔でそこまで分かるものですか」「分かるよ」 真白が即答した。「今朝からずっと“何かあったら全部拾います”って
Dernière mise à jour : 2026-09-05 Read More