翌朝、久世ホールディングスの会議室で、担当変更に反対する資料を最後まで説明した。沙耶は途中で口を挟まず、数字の横へ二、三度だけ印をつけた。 最終ページを閉じると、「現地担当は水城さんのままにします」と言う。 あまりに早くて、聞き返してしまった。 「仕事として合理性があるので。私が欲しかったのは、それです」 試されたのだと分かると腹は立ったが、反論できない。ほかの出席者が退室しても、沙耶だけは席を立たなかった。 「仕事とは別に、一つだけ」 窓の外へ目を向けたまま、景都と戻るつもりなのかと聞かれる。 「それは、久世さんには関係ないと思います」 「そうですね。でも、私には少しだけ関係がある」 景都がLATTICEを立ち上げた頃、家同士で縁談が出たことがあるという。沙耶は海外にいて、正式に顔を合わせる前に断られた。 「写真も見なかったそうです」 その言い方が景都らしくて、思わず息が漏れた。沙耶も口元を緩める。 なぜ今その話をするのか、と聞くと、「私が彼を好きだったからです」と答えた。過去形なのかどうかまでは分からない。 「一緒に仕事をして、断られた理由も分かりました。あの人、自分が選んだもの以外、ほとんど見ないでしょう」 「私を選んだって言いたいんですか」 「言う必要があります?」 景都が私を選んだという話に、嬉しくなりかけた。けれど目の前の人は、自分が選ばれなかった時のことを話している。 「恋愛で競う気はありません。深見さんは私を選ばない」 そこまで言ってから、彼女は机に置いたペンを指で転がした。 「ただ、あなたが隣にいることで仕事の判断が変わるなら、話は別です」 恋敵ではないと言いながら、もっと厄介な場所から見られている。 私は資料を鞄へ入れた。「それなら、仕事で見てください」 「そのつもりです」 会議室を出る直前、沙耶が「選ばれないかもしれない、と怯える必要だけはないと思いますよ」と言った。 振り返らなかった。 エレベーターを待つ間、沙耶の会議室のガラス越しに、次の打ち合わせへ入る人たちが見えた。彼女はもうこちらを見ず、別の資料を開いている。過去の縁談も、口にした瞬間だけ机の上へ置き、仕事へ戻れるらしい。その切り替えの速さまで景都に似ている気がして、また腹が立った。 鞄のファスナーを閉
Terakhir Diperbarui : 2026-10-03 Baca selengkapnya