海外テスト開始の一週間前、久世側から新しい条件案が出た。現地で問題が起きても、商品企画の責任者である私を前面には出さず、久世の広報が一括対応するという。 資料の私の名前の横には〈メディア対応対象外〉とある。 誰が希望したのか聞くと、沙耶自身だった。景都は関わっていない。 その事実にほっとした自分が、少し嫌だった。 沙耶は現地メディアの記事一覧を画面へ出す。番組事故、景都との関係、復縁説。商品より恋愛の見出しが並んでいた。 「あなたが出れば、商品よりこちらが聞かれる。プロジェクトとしては不利です」 理屈は分かる。 だから余計に腹が立った。 「提案としては受け取ります。でも、私抜きで決定しないでください」 「感情的になっています?」 頬が熱くなる。 「なってます」 そこだけは否定しなかった。 「でも、私が出ることで本当に損失が出るなら、数字で見せてください。過去記事があるから外す、だけなら納得しません」 会議室の空調が低く鳴る。 沙耶はしばらくこちらを見たあと、資料を自分の側へ引いた。 「分かりました。数字を出します」 会社へ戻る電車で、景都へ電話しようとしてやめる。今日はまだ愚痴にする段階ではない。灯へ資料を送り、明朝までに広報データを出してもらうことにした。 スマートフォンを閉じる前、景都から〈今日は会議だった?〉と届く。 〈うん。ちょっと腹立った〉 すぐに〈聞く?〉。 〈まだいい。自分で話してみる〉 既読がつき、それ以上は来なかった。 窓へ映る自分の顔は、会議中より疲れている。正しいことを言い返せても、傷つかないわけではない。 担当から外す案が一度でも現実になったことが悔しい。 それでも、担当から降りる気にはなれなかった。 会社へ戻ると、灯がまだ席に残っていた。送った資料を開き、問い合わせ件数と記事流入のデータを拾い始める。私はジャケットを脱ぎ、椅子の背へ掛けた。怒っているのか怖いのかと聞かれ、どっちも、と答える。灯はそれ以上慰めず、「じゃあ数字で殴ろう」とキーボードを叩き始めた。その乱暴な言い方に少し笑い、私も隣でファイルを開いた。 数字を拾う作業は二時間ほど続いた。灯が帰る前、ペットボトルの水を一本机へ置いていく。私は礼を言い、ぬるくなった水を飲んだ。明日の会議で
Last Updated : 2026-10-08 Read more