家探しを始めて一か月、最初に気になった窓の大きな古い部屋がまだ空いていた。二度目の内見へ行くと、前より生活の形が見える。 ここにソファ。窓際に私の机。景都の仕事部屋は別にして、会議の声が聞こえないよう扉を閉めてもらう。「真帆のオンライン会議も結構大きいよ」「私のは声が通るだけ」 そんなことを言いながら、空の部屋を歩いた。 ベランダへ出る。夕方の風が冷たく、遠くを電車が通る。隣の建物のベランダには洗濯物が二枚だけ揺れていた。まだ誰の家具もない部屋より、そちらの生活感の方が先に目に入る。 手すりへ触れたまま、景都を呼んだ。「何?」「結婚しようか」 景都はすぐには返事をしなかった。手すりに置いた指も、動かない。 自分でも、今言うとは思っていなかった。「今、言いたくなった」 彼が何か確かめようとする前に続ける。「前みたいに、景都の家に入るんじゃなくて。二人で新しい場所を選んで、そこからなら……結婚したい」 最後だけ声が掠れた。 景都が一歩こちらへ来て私の前で止まると、私は自分からその胸へ寄った。 腕が背中へ回り、思ったより強く抱かれたので、コート越しに背中を叩く。「強い」「悪い」「離さなくていい」 空の部屋では声が少し響いた。窓の外を電車が通り過ぎ、その音が遠ざかるまで顔を上げなかった。 以前のプロポーズには、指輪も家も家族への説明も先にあった。今日は契約前の空室で、家具一つない。足元には不動産会社が置いた使い捨てのスリッパがあり、景都の片方だけが少しずれていた。 リビングへ戻ると、不動産担当が給湯器の位置や更新料、ゴミ置き場の説明を続けた。さっき結婚を決めた二人へ向けているとは思えないほど事務的で、その調子に助けられた。 景都が聞いたのも、家賃と配線のことだけだった。 内見を終え、廊下へ出る。不動産担当が何気なく「ご夫婦ですか」と聞いた。 私は景都を見る前に答えた。「まだです。でも、そうなる予定です」 景都は資料を受け
Terakhir Diperbarui : 2026-11-02 Baca selengkapnya