景都の家での三泊は、私の部屋より静かだった。物が少ないぶん、私が持ち込んだものは何でも目につく。 洗面所へ化粧水を置き、寝室のハンガーへ部屋着を一枚掛ける。それだけで、自分の色が景都の部屋へ入り込んだように見えた。 二日目の夜、仕事から戻ると、化粧水の位置が変わっていた。棚の左端から右端へ移され、ほかの物と高さまで揃っている。朝は慌ただしくて気づかなかったのに、歯を磨こうと洗面台へ立った瞬間、そこだけ妙に整って見えた。鏡の前には景都の整髪料と歯磨き粉が一直線に並び、その端へ私の瓶まで収まっていた。「これ、動かした?」 台所から景都が顔を出した。「倒れそうだったから」 思ったより強い声が出た。「戻して」 景都はすぐ洗面所へ来て、「ごめん」と言いながら瓶を元の位置へ戻した。 そこで見ると、本当に少し傾いている。 私は瓶を持ち上げ、自分で棚の中央へ寄せた。 景都が鏡越しにこちらを見る。「そこなら倒れない」「うん」 それだけで終わった。 翌朝、コーヒーの匂いで台所へ行くと、景都が洗面所の棚を一度だけ見た。手は伸ばさない。 歯を磨きながら、私は鏡越しに言った。「本当に落ちそうな時は、支えてくれていいよ」「難しいな」「私も」 景都が笑う。私も歯ブラシをくわえたまま笑いそうになった。 その夜も化粧水は、私が置いたところにあった。 景都が料理をしている間、私はソファで仕事のメールを返した。以前なら、彼の部屋で自分だけ別のことをしているのが落ち着かなかったと思う。「ご飯できた」 端末を閉じてテーブルへ行くと、二人分の皿が並んでいる。盛り付けはやけに整っていた。「人参まで向き揃ってるけど」 景都が自分の皿を見る。「……無意識」 私は自分の皿の一つだけを反対へ向けた。 景都は何も言わず、そのまま食べ始める。 翌朝、洗面所で化粧水を手に取り、使い終えて昨日と同じ場所へ戻した。景都は寝癖のついたまま、コ
Last Updated : 2026-10-28 Read more