外見至上主義の彼が、どうして私だけを愛するのか のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

53 チャプター

第31話

「周囲の目を引かないように、俺から遠ざけようとした。俺に関われば、お前が他の財閥連中から目をつけられると思ったから……だから、あんな態度をとって……っ」 なるほど。 桜生なりの論理が、少しだけ見えてしまった。 確かに、海皇星家の次期当主である桜生に親密にされれば、私は早い段階で標的になっていたかもしれない。桜生の周りにいるだけで、嫉妬や権力闘争に巻き込まれる危険は跳ね上がる。 けれど、 「だからって、私に何の相談もなく、勝手に切り捨てて冷たくあしらうのが守ることですか?」 私の声に、桜生は抱きしめる力を緩めた。 「……レナ」 「私はあなたの所有物でも、か弱いお人形でもない。それに、あなたが遠ざけたせいで、私は何度も一人で窮地に立たされた。だから、桜生から離れた。なのに、また私の前に現れるから、こうして誘拐までされた。それが本当に守ることだったと、本気で言えるの?」 車内には、山川さんの運転するエンジンの音と、重苦しい静けさだけが響いた。 後部座席の隅で、セレナさんとハマーが「おっと、修羅場だな」と囁いた。その後は気まずそうに顔をそむけるように窓の外を眺めている。 桜生は言葉を失ったように、黙った。だけど、私を見つめている。 「……ごめん」 やっとの思いで絞り出された桜生の声は、怯えた少年のようにか細かった。 私は桜生の腕をそっと、押し返す。 「謝るくらいなら、これからは余計な真似をしないで。私は、自分の身くらい自分で守るし、私のビジネスも、私の人生も、誰にも預ける気はさらさらない」 まっすぐに桜生を見据えて言い放つ。 「俺は、それでも諦めない」 「勝手に思ってくれてもいいけれど、私に害のない程度にしてください」 そう言って、私は走る車の外へ視線を向けた。 正直、今は桜生と恋愛ごっこのような会話を楽しむような状況ではない。山城令嬢に目をつけられたのだから。そう、私は倉庫を出ることばかり考えていた。それに、依頼主は大成さんだと思っていた。だから、この先大成さんをうまく言いくるめる策を立てていたのだから。それが、的外れだった。 財閥の看板を背負った山城令嬢。 個人の嫌がらせや、その場の口裏合わせでどうにかなる相手じゃない。下手に動けば、私の会社そのものが狙われるかもしれない。 私は小さく息を吐き出すと、すぐさま思考を切り替え
last update最終更新日 : 2026-08-25
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第32話:百合の庭園、新たな契約

「レナ代表、鏡見さんはどちらへ向かっているのでしょうか? この方角ですと……」 山川さんが運転をしながらそう問いかけてきた。 「あー俺の実家に向かっている」 桜生はそう言った。 「婚約すること、いや、結婚をすることを早速、両親へ伝える」 「分かりました」 初めから、こうなることを分かっていたかのような絶妙なタイミング。だけど、久しぶりの海皇星家。桜生の家へ向かうのはいいのだけど、手土産一つもない上に、こうして誘拐された後の訪問はいいことなのだろうか。どこか冷静な自分がいて驚いている。それに、なぜだろうか。私の心臓の音が騒がし過ぎて落ち着かない。 私、ずっと桜生のこと嫌いだと思っていたけれど、好きだったの? 「どうして、桜生の家へ向かおうと思ったの?」 「俺の家の方が安全だろう」 私は大成さんが誘拐するよう指示を出したと思ったのも、GPS付きの指輪を私的に使用したことから、不信感が募ったのだから。 「で、セレナさんやハマーさんは離れで大人しく身を隠してもらう予定だ。離れから出ることは禁止だ。言いたいことは分かっていますよね? お二人とも」 桜生はそう言った。 「それくらい、想像できます」 セレナさんはそう言い、ハマーは頷いた。 いくら、山城令嬢だとは言え暴露される可能性があると思えば、この二人を生きて返すなんてことはしないだろう。 山城令嬢が手を下さないとしても。 気づけば海皇星家の敷地内に車が入った。門から広がる壮大な庭。その庭の中央を車が走る。桜生の実家は、門から玄関まで歩くと三十分かかるほどの広い土地の持ち主。 私の実家は、門から玄関まで歩いて十分ほど。この格差は大きいものだ。 車の中でも聞こえる、桜生の使用人たちの声。 「おかえりなさいませ」 二十人近くはいる使用人たちが一斉に声に出し、腰を九十度に曲げている。出迎えだけのために集まる使用人。手を離せない役割を持つ使用人もいる。海皇星家は、望月家より明確に割り振っているほど管理を徹底している。これも、お父様の考える効率重視だとか。 「桜生様、お疲れさまでした」 そう声をかけるのは、桜生の執事。 「ご無沙汰しております。大東さん」 「レナお嬢様もご一緒でしたか」 大東さんは、そう言って微笑んだ。 「そちら
last update最終更新日 : 2026-08-26
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第33話

とは言え、目の前の問題を一度冷静に整理しなければいけない。 まず事の発端は、ディナー・セレモニーで桜生が私を公の場で引き立てたことだ。あれが山城令嬢の逆鱗に触れた。 彼女が私を「数日だけ姿を消させよう」とした理由。それはおそらく、私がいなくなる数日間の隙を作って、一気に婚約を成立してしまおうという計算だったに違いない。 でも、待って。 山城令嬢の行動は、本当に財閥の面子や莫大な財産のためだけなのだろうか? いや、違う。 事前にこうなることは知らないはず。なのに、即座に、手段すらも選ばず、私を消そうするのは…… 山城令嬢は、本当に桜生のことが好き。愛している。それしか考えられない。 だとしたら、これから私たちが向き合うべき相手は、ビジネスライバルではなく、愛情を抱えた一人の女ということになる。 その数日間の空白を、山城令嬢にどう利用させないか。 私たち側からどう仕掛けるか。 それを考える方が、よっぽど建設的というもの。 どうする、レナ。 幸い、私は今、海皇星家の敷地という最も安全な場所にいる。 離れにはセレナさんたちも控えている。セレナさんたちの情報網を使えば、山城令嬢がこの数日間でどんな動きに出るか、予測を立てることは難しくないはず。 色々と頭の中を巡らしていると、お母様が口を開いた。 「レナちゃんはどうして、作業着なのかしら?」 「あ、お母様。実は……直前まで少し、自社の工場へ出向いておりましたもので」 「そうなのね! 工場に直接足を運ぶなんて、相変わらず熱心だわ。そういえば、今ちょうど、レナちゃんの会社の株も市場でグングン上昇しているものねぇ」 お母様はパッと目を輝かせた。 そう、海皇星家のお母様は、昔から株の売買を趣味にしている。いや、趣味というレベルを超えて、経済学部を卒業した筋金入りの有識者。この手の経済や企業の話題を振ってしまったが最後、下手をすれば二日間は寝ずに株を語り続けそうなほど熱心な一面があるのだった。 お母様は話を続けているが、私は右耳から左耳へと話を聞き流した。 今は、このお母様の経済トークに付き合っている場合じゃない。 私はそっと息を吐き出すと、隣に立つ桜生の腕を軽く引いた。 突然のことに、桜生はきょとんとした顔で私の方へ顔を向ける。 「……どうした、レナ」 小さな声で、私は桜生だけに聞
last update最終更新日 : 2026-08-27
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第34話:結婚発表

それから、数日経った。 あの日のリビングでの「恋愛すらしていないのに夫婦に!?」という私の内心のパニックは、綺麗に塗り替えられていた。 うじうじと悩んでいる暇があるなら、先手を打たれる前にこちらからひっくり返してやる。そう決めた私たちの行動は早かった。 そして現在。 目の前でフラッシュが激しく明滅し、無数のカメラのシャッター音が嵐のように響き渡る。 ここは、海皇星グループが誇る巨大ホール。 世間を揺るがす電撃的な二大財閥の今後に関する緊急記者会見の壇上に、私は桜生と並んで立っていた。 山城令嬢が「数日間の空白」を利用して私たちを引き離そうとした企みなど、この大規模な生放送のフラッシュの前では、文字通り跡形もなく吹き飛んでいるはず。 「それでは、ただいまより、海皇星桜生ならびに私、望月レナからの重大な発表を行わせていただきます」 マイクに向かう私の声は、驚くほど凛と響いた。 そんな私を、隣の桜生がじっと見つめてくる。 ちなみに、本来ならこうした場での進行役は桜生にお願いするはずだった。本人は「ディナー・セレモニーの際に力を使い果たした」とか何とか、もっとらしい理由をつけて早々にマイクを私に押し付けてきた。 土壇場になると、肝心な男性陣というのは急に使い物にならなくなるものなのだと、私は心の中で盛大にため息をつく。 (まあいいわ。こういう矢面に立つのは、私の得意分野よ) 呆れを気力に変え、私は目の前の報道陣へと真っ直ぐ視線を向けた。 そんな時、ポケットの中で、私のスマートフォンが小さくブルブルと震えた。 誰からのメッセージなのだろうか。私は周囲の視線を気にしつつ、さりげなくスマートフォンを取りだそうと手を伸ばした。 その手を、スッと伸びてきた桜生がガシッと掴んで止めた。 「――今は、やめておけ」 私は口パクで『どうして?』と問い返す。 「今は生中継の真っ最中だ。カメラの角度的に何が映り込むか、分かったもんじゃない」 桜生に言われ、私は妙に納得した。 それでも、気になるのは、これが大成さんからの連絡だという確信があったからだ。まさかこの大規模な記者会見の生中継を見て、慌てて私にコンタクトを取ってきたに違いない。こちらが返信できないと分かっていれば、メッセージの有無に関わらず、あの男のことだ、この会場へ直接押しかけてくるかもしれ
last update最終更新日 : 2026-08-27
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第35話

私に進行役を任せると言っていた桜生だったが、司会者からの「二人の出会いから結婚への経緯」という言葉に、なぜか桜生がすっと反応した。 「生まれたときから、レナと俺は婚約を交わしています。もちろん、家族ぐるみで古くからの付き合いでした」 何を言い出すの? 私は隣で目を丸くしそうになるのを必死にこらえながら、桜生を凝視した。 桜生は微動だにせず、涼しい顔でこう続けたのだ。 「自然と惹かれ合いまして……」 のうのうと、そんなセリフを吐き捨てる桜生。 その一言に、会場からは「まあ……!」と盛大な拍手が沸き起こり、前列にいた女性記者のひとりが「まるで赤い糸ですね!」と黄色い声を飛ばしてきた。 桜生は、それを満面の笑みではなく、どこか余裕しゃくしゃくな満足そうな顔で頷いてみせている。 ここで眉間に皺なんて寄せていたら、疑われてしまう。 私は内心で絶叫しながらも、淑やかな微笑みをカメラに向けて作り上げる。 「――このように、私たちは互いの事業を通じて強く惹かれ合い、このたびめでたく結婚の運びとなりました」 桜生はすべてを言い切ったと言わんばかりに会場中を見渡した。 きっと、愛する妻を見つめる頼もしい夫を演じきっているのだろう。傍から見れば、文句なしのロマンチックな二大財閥のゴールインだ。 だけど、当事者である私の頭の中は、今まさに現実的な思考でフル回転していた。 そもそも、どうして私たちが、こんな全国生放送の電撃記者会見なんて大掛かりな舞台に立っているのか。 そのすべての発端は、山城令嬢以外にもある。 数日前の、あのリビングでの出来事に遡る。 桜生の母が、株の話をしだしたことがきっかけだった。 「今ちょうど、レナちゃんの会社の株もグングン上昇しているものねぇ!」 お母様のその一言に、お父様も便乗した。この結婚となれば、海皇星家の事業や、桜生の進めているプロジェクトの株価も相乗効果でさらに跳ね上がること間違いなしだと。 そして、私ものうのうと、その損得勘定にしっかり乗っかってしまったのだ。 もちろん、山城令嬢みたいな変な虫がつけ入る隙を完全に断つためという理由もあったけれど。 結果として私たちは、この電撃発表という最強のカウンターを叩き出すに至ったわけだ。 「それでは、これより報道陣の皆
last update最終更新日 : 2026-08-28
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第36話

「まず前提として訂正しておこう。レナが花川大成と婚約していたという事実はない。あれはあくまで、花川家が勝手に言いふらしていただけの一方的な妄想に過ぎない」 その言葉に、会場のざわめきがさらに一段階跳ね上がった。 「勝手な妄想ですか?」 大成さんはそう言って椅子から立ち上がった。 「事実を述べたまですよ。花川様」 「君こそ、あの婚約発表のディナー・セレモニーの日、いったい何をしたのか覚えているのか!?」 大成さんが会場中に響き渡る声で、桜生と山城令嬢の間のあの出来事を暴露しにかかったのだ。 大成さんならそこを突いてくると思っていた。だけど、回避する方法が見当たらない。それは、あの日の出来事は、私自身もいきなりのことだったし、その上に誘拐されたのだから。しっかり考えていなかったという方が正しいのかもしれない。 私たちだけでなく海皇星家側のスキャンダルまで掘り起こされて共倒れになりかねないじゃない。 「一体何があったんだ?」 「あ、知っている。山城様と桜生様の婚約発表だったのに、別の女性に……」 「その女性が、このレナ代表ってことよ!」 確信を突かれている。 桜生、どうするの……? このままでは、どっちにとっても最悪の結果で終わってしまう。 私は隣の桜生を見上げた。 桜生は微塵も動じていなかった。 何か考えがあるのね。 「この機会だ。すべてを包み隠さず話そう。俺のファンも、この生放送を見ていることだ」 桜生は堂々とした声音でそう言い放つ。 「確かに、山城家と海皇星家の間には、一時的に婚約の話が出ていたのは事実だ」 その言葉に、会場は文字通り蜂の巣を突っつき大騒ぎになった。 「おいおい、認めたぞ……?」 「いくら人気のある桜生様だとしても、そんな直前まで別の許嫁がいて、別の女性と電撃結婚なんて、さすがにモラルが問われるんじゃないのか!?」 会場のあちこちから、非難や追及の混じったざわめきが爆発的に広がる。 何を考えているの桜生。 自爆じゃない。 そう思っていると、 「だが、誤解してもらっては困る。山城家と海皇星家の間で、正式な婚約の契約すら交わした覚えはない」 その言葉に、客席からすかさず別の記者が鋭い声を張り上げた。 「なら、なぜあの日のディナー・セレモニーで婚約発表が行われる予定だったのですか!?」 「婚約
last update最終更新日 : 2026-08-28
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第37話:過去のしがらみ、答え合わせ

結婚発表が終わり、海皇星家へ戻る帰り道。 「レナ、俺。本当にずっとレナを追っていた」 横に座る桜生は私の手を触りながらそう言った。 だけど、私の記憶に残る桜生の行動は全くそう受け取れなかったことは事実。 「桜生?」 「何だ?」 「私、全く桜生が私を想ってくれていること気づけなかったのだけど、具体的にどの部分なの?」 そんな質問をする女なんていないだろうと思いながらも、答え合わせをしたく問いかけた。 「レナはどうして、気づかなかったのか?」 逆に質問された。 いいわ、実際にされたことを聞けばいいのだから。 「ちゃんと答えなさよ」 「分かっている」 桜生は観念したのか、それとも最初からすべてお見通しだったのか、どこか余裕を含んだ瞳で私を見つめ返した。 「まずは、高校に入ったばかりの頃。私に向かって『地味で芋くさくて、取り柄のない女』って散々笑い続けていたわよね? それはどうして?」 私が問うと、桜生は涼しい顔で答えた。 「……そう言えば、自分を磨かなくなるだろう」 「は……?」 「他の奴らに目を向けられないよう、徹底的に自分の外見に自信を失くさせておく必要があった。お前が磨きをかけて、万が一にも別の男の目に留まるのはごめんだからな」 結構酷いことを私されていたのに、理由がそれなの? まだ聞きたいこと沢山ある。根こそぎ聞かなければ私の気持ちがおさまらない。 「じゃあ次は、私に初めて彼氏ができたときのことよ。私の前で彼の悪口を散々言ったわよね」 私はさらに記憶の引き出しを開けた。 「『あいつはどんな女でもいいと言っていた』とか、『レナみたいな不細工を手懐けることに楽しみを感じているだけだ』とか……『いくら綺麗にしたって、お前を真面目に見る男なんていない』って、散々私のプライドをへし折ったじゃない。あれもわざと?」 「当然だ。あんな軽薄な男、すぐに引き剥がして正解だったろ」 桜生は悪びれる様子もなく言い放つ。 「お前が『自分なんて誰も相手にしてくれない』と思い込んでいれば、俺のそばから離れられなくなる……それに、実際に他の男が近づいてくるのは許せないからな」 私は桜生にコントロールされていた? でも、一番許せなかったあの日の出来事。 「極めつきはこれよ」
last update最終更新日 : 2026-08-29
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第38話

「レナ、着いたぞ」 「これから先も、何かありそうね」 私はため息をついた。 電撃結婚。 全国では私たちの話で持ち切りのはず。 このまま、大成さんや山城令嬢が大人しくしてくれないだろう。 でも、今は新規プロジェクトについて手を組んでいるのは桜生だ。 私の会社も今以上に上昇する。そうなると、新たに人を雇う必要もある。 課題はたくさんある。 「桜生様、おかえりなさいませ」 これまで以上に、使用人の人数が増えている。 「警備を怠るな」 「かしこまりました」 桜生は私の手を取り、玄関ホールへ歩みを進める。 「レナ。大成とはどんな接点からなんだ?」 「大成さんとは、会社を立て上げたばかりの時かな」 そう、今思うと大成さんとの出会いにも不自然なところがあった。 それは、私たちが初めて洋服を作り上げ、販売をしてみようとネットから始めた。あっという間に私たちのショップサイトは埋もれた。 実物を見てもらってからの方がいいと、山川さんの案を採用して行きつけのカフェへ向かった。 カフェのオーナーから駐車場二台分使用してもいいと許可をもらい、販売開始した。運がよかったのか、カフェに訪れた財閥夫人の目に止まった。 「素材もいいわ、デザインも、個性的だわ」 そう言って、持参していた二十着はあっという間に完売した。 月一での販売会を予定していたのだが、 「レナさんの洋服を買いに来るついでに、カフェに寄るとお客様がおっしゃっていてね」 そうカフェオーナーから連絡があった。 当時は、本当にそうだと思っていた。 だけど、実際は大成さんがオーナーに駐車場確保のために多額を渡していた。 山川さんがカフェのお手洗いに行った時、大成さんと土門さんが話をしているのを小耳に挟んだことで、私たちは知った。 それから、私たちはそのカフェで販売会をしなくなった。 だけど、これもまた運がよかったのか、オンラインショップまでも手に負えないほどになった。 サイトに新作を上げれば即完売。 その時も大成さんの仕業かと思っていたが、カフェ前での販売会の様子を見てくれていた本当のお客様から 「ネットだと、買いやすいわ」 と声をかけてくれて知った。 それに、街を歩けば『Lénaの代表ですね』と声をかけてくだ
last update最終更新日 : 2026-08-30
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第39話

リビングルームへ足を入れると、そこには私の両親もいた。 「レナ。やっと桜生くんと結婚すると決めてくれたのね。お母さん、物凄く嬉しいわ」 私の母がそう言って、抱き付きてきた。 母の後ろには、父が突っ立ている。 「本当に、一時はどうなるかと思ったよ」 父はそう言って母の後ろへ抱き付き、涙を流していた。 「もう、いいから。そういうの」 思わず口から、出た言葉に母が私の頭をコツンと叩いた。 「何度、誘拐されたら気が済むの?」 「そうだぞ。あの山川くんがお父さんを頼ったくらいだ」 「山川さんは、何て言っていたの?」 まかさ、か。 「望月家の特殊部隊を動かしてもらえませんかって言っていなかった?」 「あ、そうだ。それくらい、山川くんが焦っていた」 やはり、か。 大事になっていた。 「そう思ったら、緊急会見でしょう。お母さんのこの気持ち分かるかしら? レナは」 私の母がそう言うと、 「母さんの言う通りだ。で、結婚式はいつにするかだな」 父はそう言って、桜生のお父様へ振り返った。 「結婚式は早い方がいいでしょう。それと、私たちの方でレナちゃんの連れ去り事件のこと、しっかり調べてありますので。結婚式当日までは私たちの家で過ごすといいでしょう」 桜生のお父様はそう言うと、私の父と母へ微笑んだ。 「我が家では、さほど護衛できる者がいないものですから、そうしてくださると安心です。ふつつかな娘ではありますが、よろしくお願いします。お料理でも掃除でも何でもできるよう教育しておりますので、レナを使ってください」 私の父がそう言うと、桜生のお母様が口を開いた。 「お嫁に来てくださるのですから、何もしないでいいのですよ。私のお話相手にでもなってくだされば。娘が欲しいと思っていましたもので」 私の両親、桜生の両親は、あの連れ去り事件のことをすっかり忘れているのではないかと思うほど、未来の話に夢中になっていた。 「それで、レナを誘拐しろっと言った奴はどうなんだよ」 私でも気になって今すぐにでも聞きたいと思っていたのだけど、桜生の方が先に口を開いた。 「あ、そうだな。話しを戻しましょう」 そう言って、桜生のお父様が私たち二人へ視線を向き直した。 「どうやら、直接自身の口からは命じていな
last update最終更新日 : 2026-09-01
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第40話:桜生の外見至上主義の真実

「海外のマーケットを荒らし、競合を潰すためなら手段を選ばないことで有名な、あの黒崎グループの本家筋」 大成が我が物顔で私の前に現れ、偶然を装って救い出してみせたこと。山城令嬢が私を激しく敵視し、ネットで執拗な嫌がらせを仕掛けてきたこと。その背後ですべての資金を回し、糸を引いていたのが、海外進出を狙うあの巨大財閥黒崎の一族だったのだ。 「我が海皇星家と、望月家が組むことを何よりも恐れていたからな。『Léna』がこれ以上拡大して、業界のシェアを握る前に芽を摘みたかったのだろう」 桜生のお父様はそう言った。 「私たち親の親交が深かったからな。余計に、恐れたということだ。それと、レナちゃんは桜生の行動や言葉を理解できなかっただろう?」 桜生のお父様に言われて、本当に桜生が幼少期ずっと私をいじめていた理由が分かった気がした。 私はそんな政界の事情なんて、両親から聞かされていない。 「私はそんなこと、知らなかった。お父さん、お母さんは知っていたの?」 そう問いかけると、私の両親は顔をしかめた。 「レナちゃん。ごめんな。私が口止めしたんだ」 少し元気なさそうに桜生のお父様が言った。 「どうしてか、お聞きしてもよろしいでしょうか? お父様」 すると、桜生のお父様は口をグーっと横に力を入れた。 「そうだな……。レナちゃんは自分では自覚がないと思うけれど、君は本当にお父さんとお母さんの良いところ取りをした、目を引くべっぴんさんだ。おまけに、物事に妥協しないデザイナーとしての才能まである」 桜生のお父様は一度言葉を切り、リビングルームに座る私の両親へと視線を向けた。 「黒崎グループのような巨大組織は、利益になるものだけでなく、脅威になり得る才能や、周囲を惹きつける魅力を持つ人間をターゲットにする。特に、レナちゃんのその容姿や才能は、悪意ある者たちの格好の標的にしやすい。だからこそ、君が余計なプレッシャーや恐怖を感じず、自分の力をのびのび発揮できるように、あえて周囲の大人は真実を伏せておきたかった。だけど、レナちゃんは相当、桜生のやり方に傷ついていることを私たちは知っている」 そう桜生のお父様が言うと、 「本当にごめんなさいね。桜生に色々指導をしていたのだけれど、私たちもね。だけど、どうもうまくいかないものだから、恋愛のプロ
last update最終更新日 : 2026-09-01
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