All Chapters of 外見至上主義の彼が、どうして私だけを愛するのか: Chapter 41 - Chapter 50

53 Chapters

第41話:同じ屋根の下で

黒崎グループの対応や、大成たちを巡る面倒な裏の始末は、すべて桜生の両親が表立って引き受けてくれることになった。 「これ以上レナちゃんを不安がらせる真似はさせないからね。我が海皇星家が徹底的に叩いておくから、君たちは安心しなさい」 桜生のお父様がそう力強く言ってくれたおかげで、私の両親も深く安堵の息を漏らしていた。 大人の事情や危険な駆け引きは、すべて海皇星家の大人たちが引き受けてくれる。となれば、当事者である私と桜生に残されたのは、目の前に迫った同居生活という現実。 「桜生、私たちが引退するまでは、あなたたちは離れで住むといいわ」 桜生のお母様はそう言って微笑んだ。 「私たちも、後十五年もすれば定年だ。その時は、君たちが本宅へ引っ越すことになる。海皇星家代々引き継がれるものだ」 桜生のお父様がそう言って胸を張った。 そのまま、本邸から離れまで桜生の両親と一緒に私たちは歩み出した。 「この本邸までの道のりも綺麗だろう。季節によって、もじみや桜が咲くし、妻の好きなバラの花も咲く。私たちが若い頃はよく一緒にこの道を通って本邸へ向かったものだ」 桜生のお父様はそう言いながら、お母様の手をそっと握った。 いつまでもずっと仲のいい夫婦になるには、どうしたらいいのだろうかと私は一瞬考えてしまった。 「お父様とお母様は、恋愛婚ですか?」 思わず、聞いてしまった。私と桜生は恋愛婚ではない。だから、どう接していいものか、私自身正直、分からない。 「私たちは政略結婚だ。ただ、お互いを知っている関係だったこともあって、案外すんなりと二人のルールも決めることもできたし、深まりも早かったのではないかと思っている」 桜生のお父様はそう言った。 「そんなことありませんでしたよ。私は、かなり苦労しました。新参者のような扱いをされましたわよ」 桜生のお母様はそう言って、少し怒ったような歩き方をした。 「レナちゃんもよく覚えておくといいわ。本当に政略結婚なんて、させるものではないのよ。だから、私たちは望月家と家族ぐるみでお付き合いをすることを望んで今に至るのよ。もちろん、レナちゃんのお母様だって、私たちと同じで政略結婚ですから意気投合したってところもあるわ」 桜生のお母様から聞く、この話は少しだけ私の母から聞いている。 母
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第42話

まさかただの自動ドアではないのか。いいや、今時流行りの指紋認証か。それとも、顔認証か。 「最近人気な、スマホが鍵になるタイプですか?」 絶対に正解だと胸を張ってそう言うと、 「残念だな。レナちゃんの頭はまだ固いな」 お父様は得意げな表情でそう言った。 「レナちゃんにヒントを渡そう。妻のこだわりが融合している。ただの人間じゃ、開けられない」 お父様は謎解きを楽しむように、私へ微笑んだ。 けれど、本当に私の頭は固いようだ。他に何も思い浮かばない。 「……」 沈黙が続いてしまっている。何か、言わなければと思えば思うほど、言葉すらも出てこない。だけど、一つだけまだ口にしていないことがある。 「まさか、ですが。音声認識?」 お父様もお母様も子供のようにはしゃいだ。 「正解!」 お母様が嬉しそうに手を叩く。 「ただの音声認識じゃない。海皇星家の最新セキュリティと、妻のロマンが詰まった特製システム」 お父様が胸を張る。 桜生はすでにうんざりした顔でこめかみを押さえていた。 「まさかとは思うが……面倒くさい仕掛けになってないか?」 「そんなことないわよ。試してみてごらんなさい」 お母様がニコニコしながらそう告げた。 「試す、ですか? 何か開けごまとかでしょうか?」 私は真剣に質問をした。 「外から帰ってきたら、何と言うと思う?」 お母様はそう言った。 「あ、要するに、外から家に入るときは、ただいま。家から外に出るときは、いってきます。ですね!」 私がそう言うと、 「そういうこと」 お母様は嬉しそうにそう言った。 きっと、ただいまとおかえりを言い合える夫婦でいてほしいという願いがあるのだと、私は感じた。 「とても、素敵な玄関ですね」 こんなにもユーモアある玄関がどこにもない。 「私、この玄関を売り込みたいです」 「本当に?」 お母様は嬉しさと驚きの混ざった表情だった。 「今回、桜生とプロジェクトを組みました。壁紙を採用させてもらいましたので、その店の裏口にほしいです」 私がそう言うと、桜生が指を鳴らした。 「そう! レナのその閃きが業界内では狂気になるんだ。だから、いつもレナは狙われる。自覚したか」 桜生にそう言われて、初めて気づいた。 出る杭は打たれる。まさしくそれだと。 今回ばかりは、桜生のお母様がデザ
last updateLast Updated : 2026-09-03
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第43話:距離感

二人になったリビングの空気をかえようと、私はあえて大袈裟に両手を叩いた。 「そ、それじゃ私は一通り離れの内覧をさせてもらうわ」 私の声だけが響き渡った。 「どんな部屋があるか知っておかないとね」 その言葉も勝手に歩き回っているように響く。 まず、リビングから少し遠い部屋から見ることにした。 私の部屋、桜生の部屋、そして衣裳部屋ととにかく広い。一人で掃除できるのかと思っていると、子供部屋らしき部屋のドアが二つあった。 桜生のご両親は二人の孫になりたいと……そう思った瞬間、私の頬は急加速するように真っ赤になる。 何を考えているのと必死で自分の頬を叩いた。その音が聞こえたようで、桜生が私の方に向かって歩いてきた。 「レナ、何してる? こっちに来てみろよ」 私が頬を染めたことに気づいていないようだ。 桜生の方へ歩みを進めると、もう一つのドアを桜生が開ける。 「えっ?」 思わず声が漏れたのも当然だ。 そこにはクイーンベッドというよりも特注と分かるほどの広いベッドが一つ置かれていた。 「レナも、転がって見ろよ」 桜生は楽しそうに、ゴロゴロと転がっている。 いきなり、寝室で転がるなんて私にはできない。 寝室を出ようと踵を返した瞬間、 「レナ、どこに行く?」 桜生の腕が私の腰をしっかりと包み込んだ。いわゆる、キッチンで料理をしているときに夫が妻の腰に抱き着く状態だ。 これは、どうしたらいいのだろうか。 『離して』と言えばいいの? 『やめてよ』と言えばいいの? そう考えていても、時間は進む。桜生の呼吸する息が私の耳元をくすぐる。 熱く、甘く、優しい息。とろけそうになる。 「桜生……」 小さな声でそう言うと、 「俺のこと、好きになれないか?」 その声は、切なく感じるほど力がなかった。 「俺、ずっとこうしたかった。ずっと、押さえていた」 桜生は私のことをずっと好きでいてくれたけれど、私はずっと嫌っていた。だから、今本当に心臓がドクドクと大きな音を立てているけれど…… 「桜生……私は、まだ……」 「まだ、何も言わないでもいい。少しだけ時間を止めたい」 私は小さく、頷く。 大成さんが後ろから私を抱きしめた時があった。その時はこれほどまで心臓は動かなかった。もちろん、すぐに『私たち、こんな関係じゃないですよね』と言葉が漏れ
last updateLast Updated : 2026-09-04
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第44話:もぬけの殻

「大成様、どこにもおりません」 土門が血相を変えてそう言った。 「……もぬけの殻、だと?」 土門が、青ざめた顔でタブレットの画面をスクロールしている。 「はい。監視カメラのデータも、この一時間ほど前を最後にすべて消去されています。侵入者の痕跡はありません。まるで、誰かに先回りされていたような」 ふざけるな。 僕の手の届くところに、ようやくレナを囲い込めるはずだったのに。 怒りに任せて壁を殴りつけようとしたその時、背後からハイヒールの足音がコツコツと響いた。 「あら、大成様。何を突っ立っているのですか?」 振り返ると、完璧な笑みを張り付けた山城令嬢が、部下を従えて立っていた。 山城令嬢へ近寄る。 「君、か」 「私の顔を見るなり、そんな怖い顔をしてどうかなさったのですか?」 山城令嬢は今、何が起きているのか全く分かっていない様子だ。 「……レナをどこにかくまった」 「どこに? ここでしょう! 倉庫にって大成様、言いませんでした?」 「何をした?」 「まさか、いないのですか? 大成様は、私が連れ出したと思っているのですか? あなたが『レナをどこかに囲い込んでほしい』って言ったから、私はそれに協力する手はずを整えていただけよ」 「手はずを整える?」 「私はただ、ある人にその話をしただけよ」 ある人? 山城令嬢の口から漏れた『ある人』それは、誰のことだ。 この場所を知っているものは、僕と土門、そして、山城令嬢だけだ。周りを見渡した。この三人しか知らないというのに、よく考えてみれば山城令嬢は部下を堂々と連れて来ている。 用心深いと思っていたが、案外隙の多い令嬢なのだな。信用してはいけなかったと今更ながらに感じた。 「大成様! レナ様の位置情報、察知できました」 「どこだ」 土門の横へ並び、タブレットを覗き込むように視線を向けた。 「それが、ここです」 土門が指を差した先…… 「橋の下……海じゃないか!」 まさか、他の誰かに海へ落とされた? 位置情報を見る限り、全く動く気配はしない。 「土門。橋の上に居るってことか?」 「ですが、この橋は車専用です。歩行者は通行できませんから」 「なら、渋滞か」 「大成様、向かってみましょう」 僕と土門
last updateLast Updated : 2026-09-05
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第45話

車を乗り換え、山城令嬢を巻いた。 タブレットに表示されていた橋の上に到着したが、渋滞もなかった。 位置的にはこの場所だが、一時停車できるスペースはもう少し先だ。 「土門。この位置を指すが誤差はでるな」 「さようでございます。正確な位置よりほんの数メートルはズレが生じるかと」 「この先の一時停車スペースまで、車を出そう」 そして、その一時停車スペースに到着するも、車すら止まっていない。 「まさか……」 僕がそう言うと、土門が振り返った。 「この橋の下ではないでしょうか?」 土門の顔は引きつっていた。 そうだ。この橋の下は海だ。 「大成様、レナ様にお電話をかけてみてから、海上を捜索するようにいたしませんか?」 土門にそう言われ、僕はポケットからスマートフォンを取りだした。 短縮1番を押す。 呼び出し音が5回、6回……10回と鳴り響く。 レナは基本的に6回目のコールが鳴る前に、留守番電話に切り替わる設定をしている。だが、今日は15回コールが鳴っても留守番電話に切り替わらない。 おかしい。 だが、一つ解決したことがある。コールが鳴るということは、海の中にスマートフォンはないということだ。 一度、電話を切り、再度かけ直した。 呼び出し音が4回鳴り、ようやく繋がった。 「大成……さん?」 レナの声が聞こえた。 海の中に居ないことを知れて、僕はホッとした。 「ごめんなさい。今、手を離せない状態なの。折り返しかけ直します」 レナはそう言って、一方的に電話を切った。 *** 「レナ、どうした?」 桜生に聞かれ、私は困惑した表情でこう言う。 「大成さんから、電話がありました」 今、私と桜生、桜生の両親たちは本邸で食事をいただいている時だった。 ちょうど、お手洗いからダイニング・サロンへ戻った直後に、電話が鳴ったのだ。スマートフォンの画面に表示された『大成さん』の名前を見て、出るべきか迷っていた。切れるのを待つことを選んだ私は、しばらくダイニング・サロンの扉の前で立っていた。 ダイニング・サロンのドアノブに手をかけた瞬間、大成さんからまた着信が入った。 そのことを、桜生と桜生の両親へ伝えた。 「大成さんから、着信があったの? それで、レナちゃんはどうしたの
last updateLast Updated : 2026-09-06
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第46話

「よし、話はまとまった」 お父様はそう言って、話を締めくくった。 ダイニング・サロンから大成さんへ折り返した。 コール1回目で、大成さんは電話に出た。 「レナ。今、どこにいる?」 「大成さん……それが、分からないの。目隠しされていたから」 本当は桜生の家だし、私が倉庫にいないことは大成さんも知っているはずだとお父様の想像通りのはず。 「さっき、レナは手が離せないと言ったが……」 大成さんにそう言われて、墓穴を掘ったと思ったけれど、 「誰かに、そう言えと言われたのか?」 桜生がドスドスと足音を響かせた。 私が話せない状態であることを大成さんに知らせるための演技をしてくれている。 「い、痛い」 桜生が私の右手の甲をつねった。 「大丈夫か! 何された?」 今度はお母様が楽しそうに、フォークとナイフをカチンカチンと鳴らし始めた。 「刃物……? 犯人の顔、分かるか?」 「何か黒い布みたいなものを被っているから、分からない。だけど、体格は男性かも」 「分かった。位置情報を送ってくれ」 大成さんがそう言った瞬間に、お父様が音声変換する機械を使用した。 「レナを渡さない。俺たちのものだ」 てっきりお父様は『身代金を用意しろ』と言うのかと思っていたら、全く違ったことにお母様も私も口を手で押さえた。 「令嬢が言っていたある人とは、お前たちか!」 大成さんが強い口調で言ったことから、お父様のスイッチが入ったようで、口を閉じる気配がしない。 「ある人? 誰のことだ」 それは、私たちも知りたいこと。耳を澄ましていると、 「お前たち、黒崎グループの人間か?」 大成さんも私たちと同じ人物を想像していた。 「黒崎グループ? そいつらもレナを欲しがってんだな」 「あんたらは誰なんだ」 大成さんはそう言った。 「花川コンピューターの人間が、誘拐したと聞いている」 お父様が言った。 「それは、違う。囲い込むだけだ」 「山城家が絡んでいるな。 ディナーの際、不審な動きがあった。君が、何も知らないのなら、もう終わりだ」 お父様はそう言って、通話ボタンを押そうとした。 「レナを奪えると思うな! 二度とかけてくるな」 桜生が最後にそう叫んで、プツリと通話を切断した。「あの様子だと、大成の方も山城令嬢に一杯食わされているな」 お父様が
last updateLast Updated : 2026-09-06
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第47話:嫉妬する桜生

「君たちは離れで休むといい。後は任せてくれ」 お父様がそう言うと、桜生は何も言わず私の腕を掴んだ。 「桜生、乱暴に引きずらないようにしなさいよ」 お母様はそう言った。 桜生は振り返りもせず、私の腕を掴んだままダイニング・サロンを後にした。離れに向かうまでに日本庭園の道。 「桜生? 何も言わないって珍しいこともあるんだね」 私は沈黙に耐え切れず、そう言った。 「……」 桜生は何も言わない。 「桜生らしくない気がする」 すると、桜生は歩みを止めた。 「レナ、お前。どれだけ色目を使ってんだよ」 「色目……?」 身に覚えのないことを言われると、この先何も言えないのだなと思った。 「そうだ。黒崎グループからも連絡先を聞かれたんだろう」 「聞かれたけど、教えていないから」 「その後は、会ったりしたか?」 「私も時間ないから、一日だけのCM撮影。だから、その後会うこともない」 私がそう言うと、桜生はスマートフォンを出した。しばらく何かを検索していた。 「これ、だろう。そのCMってさ」 一年ほど前のことだから、すっかり内容のことを忘れていた。 夕暮れのオフィスビルを舞台にした、都会的なワンシーン。 それは、次世代のシステム開発を率いる若き天才リーダー役の男性俳優と、私が演じた広報担当者が、プロジェクトの成功を祝してグラスを合わせ、そして、まるで唇が重なり合っているように見えるロマンチックな演出。 当時の監督が「一番ドラマチックに見える奇跡の瞬間だから」と、アングルにこだわって撮影した場面。 実際には数センチの距離を保っていたし、カットがかかった瞬間に互いに距離を取ったけれど、今のこの画面を切り取れば、どう見てもキスをしているようにしか見えない。 「このキスで、隼人がレナに落ちたんだな」 黒崎グループ副社長の名は、隼人さんだった。 「これは……」 違うと言おうとした瞬間、桜生が私を強く抱き寄せた。 「隼人との、キス。どうだったんだ」 桜生の声は、震えているように聞こえた。 「だから、違う」 「隼人は、イケメン御曹司ランキングで三位だからな」 「桜生は一位でしょう。何を心配しているの?」 そう言うと、私を抱きしめた手を緩めて互いの顔を見合わせた。 「人気ランキング一位の俺でも、レナの心の中で一位でないと意味がない
last updateLast Updated : 2026-09-07
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第48話

日本庭園を私たちは手をつないだまま、離れへと戻ってきた。 玄関を前に、私と桜生は顔を見合わせた。 「桜生、『ただいま』と言えば開くけれど、二人同時に言ったらどうなると思う?」 桜生は首を傾げた。 「音声で認識しているからな。二人同時でも開くんじゃないか。だけど、そこまで精密に作るには、現代には難しいだろうしな」 桜生は左手を顎に当てて、更に考えていた。 「母さんがどこに注文をしかにもよるな。これが、花川コンピューターが関わっていれば、かなり正確に動作はするはずだ。癪に障るが」 「えっ! 大成さんにお願いしているとなると、誰の家の特注品か分かってしまうよね?」 私がそう言うと、桜生の顔が青ざめた。 「そうなると、ここも安全ではないのかもしれないよ。桜生、どうする?」 「今は、家に入る必要はある。試しに、二人同時に『ただいま』と言ってみてもいいかもな」 「二人同時にやってみよう! 桜生!」 私は少し面白そうに、桜生の顔を見上げた。 「ああ。もしそれでシステムが誤作動を起こすようだったら、もう一度、本邸へ戻ろう」 「もし、誤作動もなかったら、花川コンピューターに注文したと思う方が正しいのかもしれないね」 「花川コンピューター以上もしくは、同等なコンピューター会社が他にも二社ほどある」 「えっ? そうなの? どことどこなの?」 私は、花川コンピューター以外にも優れたコンピューター会社があることを知らなかった。大成さんの記事ばかりを見ていたとしても、どこかで人から人で耳にするはずなのだけど。それに、テレビなりラジオなりでも流れていそうなのに。 「高知コンピューター、高森コンピューターだろ。他にもいるぞ」 「その二社も、私たちと同じくらいの年齢が副社長とか?」 「大体、親世代から引き継ぐからな。一代で築きあげた会社は高知だ」 IT業界の裏側を知り尽くしている桜生にとっては簡単な質問だったに違いない。 「一代で築いたってことは、高知のトップは相当やり手なのね」 「ああ。一代目社長は幼少期からコンピューターにハマったと聞く。当時は『変な子』と言われていたらしい。興味のあるものには執念で技術力を身につけたんだろうな。お坊ちゃん揃いやうちみたいな古い財閥系とはちょっと毛色が違う」 桜生は自
last updateLast Updated : 2026-09-07
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第49話

レナと山川さんは二人並んで奥の廊下へ消えていく。 二十時に男と女が一つの部屋に二人っきり。 そんなことあっていいものか。 しかも、俺とレナの新居だ。 確かに、レナのボディーガード兼運転手ではあるが、山川さんは俺よりも年下だ。 若い男の方がいいに決まっている。 俺はレナの部屋の扉に耳をくっつけた。 微かに聞こえる声。 「レナ代表。先ほどキャッチした情報ですが……」 山川さんの声だ。 何をキャッチしたんだ。 「えっ? 山川さんそれ、本当の話なのですか?」 レナ、何が本当の話なのか、もう少し声を張ってくれ。 俺には全く聞こえない。 「レナ代表。例のものですが、サイズもおそらくレナ代表にぴったりかと」 「本当ですか! 早急に手配をしてくださったのですね。これはもう、逃げられないですね」 「それに、今夜の予定ですが、本当に二人きり……?」 「構わないわ」 「万が一のときは、しっかりとここに捕まってください。絶対に離れないでください」 「これからも、ずっと山川さんのそばにいるにきまっているでしょう!」 「どんなことがあっても、あなたを抱えて守り抜きますから」 俺の怒りが…… 全部聞いたぞ。 俺と結婚式を挙げることになっているレナは、俺には一言も言わなかった言葉を、山川さんには言っていた。 何が『サイズだ』 誰から『逃げられない』と言ったんだ。 誰と今夜過ごすつもりなんだ。 ふざけるな。 俺は、レナの部屋の扉のドアを開けた。 「桜生!」 驚くレナと平然とした顔で俺を見る山川さん。 「何を話していた。俺には聞かれては困ることか!」 「ちょっと、桜生。何を怒っているの?」 俺はレナと隣り合わせに座っている山川さんの肩を押して、その隙間に無理やり体を滑り込ませた。 「海皇星……様?」 その余裕たっぷりの山川さんを見て、俺はより確信した。 こいつも、レナのことが好きなんだと。 「俺たちは結婚する。レナの仕事の話は俺にも共有する必要がある」 「桜生、それは違うと思うけれど」 レナはそう言って、山川さんへ視線を向けた。 気持ちのいいものではないな。 「レナ、違わない。現に、俺とプロジェクトを進めていることだ」 「そのプロジェク
last updateLast Updated : 2026-09-08
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第50話:すれ違い

「桜生。今一度、しっかり現状を知ってほしいの。私と山川さんと黒川さんは、これまでずっと一緒に仕事をしてきた仲間。一から、いいえ、ゼロから一緒に積み上げてきたの。それは知っているよね?」 「詳しくは、あまり知らないが。三人がいつも一緒であることくらいは知っている」 「で、何が言いたいかというと。私は何度も誘拐や連れ去り未遂のような出来事が多かったの。今回、桜生やお父様やお母様のお陰で、色々見えてきたでしょう」 「そんなこと、俺にだって分かる」 「以前から防弾チョッキのようなものを身につけて対策するのもありじゃないかって、山川さんの提案があって、防弾チョッキをおしゃれ着のようにできると、ストーカーに悩まされている人やそうなる可能性のある女性たちには心強いよねってことで新規プロジェクトとして、手を組ませてもらったわけ」 「防弾チョッキを、おしゃれ着に? レナらしいな」 ようやく、桜生は理解してくれた。 私はホッとため息をついた。 ずっと、一緒に居たならここまで話をする必要もなかったのかもしれないけれど、一から十まで話さなければいけないと思うと気が遠くなりそうだ。 「桜生はどうして、私と山川さんに何かあると思ったわけ?」 私のことをずっと好きでいてくれたことは理解しているけれど、今の桜生を見ていると独占欲の塊にしか見えない。この先、愛していける自信なんてない。なくなる。 それは、私を縛り付けるだけの存在へと変わってしまいそうだから。 「俺とレナの新居に、男を、夜に入れてほしくないだけだ」 桜生の言葉はあまりにもストレートだった。 逆に言えば、私は桜生から信用されていないということにもなる。どうしたら、分かってもらえるのだろうか。本当に、私のことを好きなのかも疑わしい。ご両親から『レナちゃんを守ってあげて』とか『レナちゃんと桜生は結婚するようになる』とか、そう言われて勝手に好きだと思うようになったのではないか。 「桜生、本当の気持ちを教えて?」 「……」 桜生は何も言わなかった。 私の質問がおかしいのかもしれない。 「私のこと本当に、好きで愛していて、だから結婚したいと思ってくれているの?」 そう口にしてみたら、私は卑怯な女だと思った。 自分の口から、桜生のことが好きですとも愛しているとも言わないで、相手の気持ちだけを聞こうとしてい
last updateLast Updated : 2026-09-09
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