よろめきながら病院を飛び出すと、駐車場の片隅に見覚えのある黒のマイバッハが停まっていた。わずかに開いた窓の隙間から、怜奈が宗司の胸にすがって泣いているのが見えた。宗司は彼女の背中を優しく撫でている。見ているのが辛くなるほど、その手つきは穏やかだった。「……怖がるな。手術なら1ヶ月延期すればいい。その間に全国を探してでも適合する人間を見つける。何も心配いらない」宗司の声が、はっきりと聞こえてきた。「でも、亜麻美さんのお父さんは何度も危篤に……」怜奈が涙に濡れた顔を上げる。「大丈夫だ。余計なことは考えるな」宗司は怜奈の鼻先を指先で軽くつまんだ。その親密な仕草は、かつて亜麻美だけに向けられていたものだった。怜奈は涙を拭って微笑むと、宗司の胸にすっぽりと顔を埋めた。「よかった……宗司さんがいてくれて。じゃなきゃ、どうしていいか……提供するとお約束して、支援までいただいていたのに、どうしても怖くなってしまって……」「安心しろ。嫌がることをさせるつもりはない。俺はいつだって怜奈の味方だ」宗司の声は、どこまでも優しかった。エンジン音が響き、呆然と立ち尽くしていた亜麻美はハッと我に返った。慌てて車へ駆け寄り、必死に窓ガラスを叩く。だが、視界に入ったのは冷淡な宗司の横顔だけだった。車は白い煙を残して急発進し、亜麻美はただ一人、駐車場に取り残されて震えていた。スマホが再び震える。画面に表示されたのは病院の番号だった。震える手で通話ボタンを押すと、医師の沈痛な声が響いた。「ドナーの方はまだ到着されませんか……お父様の容態が、もう持ちません。たった今、多臓器不全により息を引き取られました。手を尽くしましたが……ご愁傷様です」頭の中が真っ白になった。亜麻美は冷たいアスファルトの上に膝から崩れ落ち、そのまま視界が暗転した。*長くて暗い夢を見た。5年前、18歳だったあの頃の夢を。当時の宗司は、東都で最も名高い梶浦グループの御曹司。一方の亜麻美は、家計を助けるためにホテルで給仕のアルバイトをする貧しい学生に過ぎなかった。あの日、個室にお酒を運ぶ途中、廊下で一人の男性とぶつかってしまった。顔を上げた瞬間、吸い込まれそうな深い漆黒の瞳と目が合った。「申し訳ありません!」慌てて頭を下げ
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