朝の光がカーテンの隙間から静かに差し込んでいた。先に目を覚ましたのはヴァンスだった。腕の中にはネリッサが眠っている。長い髪が枕の上に広がり、唇はわずかに開いていた。昨夜の余韻が身体のあちこちに残っているのは、彼女も同じだろう。ヴァンスはしばらく何もせず、ただ彼女を見つめていた。ゆっくり上下する胸。眠っているときだけ見せる、無防備な表情。首筋に残った昨夜の痕。彼はそっと身を寄せ、耳元へ口づける。ネリッサが小さく身じろぎした。けれど、まだ目は開かない。首筋にも唇を落とす。その瞬間、ネリッサの喉から小さな吐息が漏れた。ヴァンスは笑う。「おはよう」「……まだ早いわ」眠そうな声だった。「朝は早いほうがいい」「そんな決まり、聞いたことないわ」ネリッサは枕へ顔を埋める。ヴァンスはそんな彼女を見て、もう一度抱き寄せた。けれど、その甘い時間は長く続かなかった。――コン、コン。二人の動きが止まる。「ママ?」ドアの向こうから聞こえてきた声。「ヴァンスさん?」マヤだった。ヴァンスは固まった。ネリッサは枕へ顔を押しつける。「ママ、紫色の鉛筆が欲しいの」マヤの声は小さいのに、妙にしっかり聞こえる。「ママの部屋にあるやつ。先が尖ってるやつ」ネリッサが目を閉じたまま呻く。「ほら……」ヴァンスは小さく息を吐いた。「無視しよう」「無理よ」「でも——」「ママ!」再びノック。ネリッサは観念したように起き上がった。ベッド脇に置いてあったローブを羽織る。そして、ドアを少しだけ開けた。「どの紫色の鉛筆?」「先が尖ってるやつ。おばあちゃんのは全部丸いの」ネリッサは苦笑した。「分かった。探すから、おばあちゃんの部屋で待ってて」「うん」小さな足音が遠ざかっていく。ネリッサはドアを閉め、そのまま背中を預けた。そして振り返る。ヴァンスはベッドの上で仰向けになったまま、天井を見ていた。ネリッサが呆れたように言う。「だから言ったでしょう」ヴァンスはしばらく天井を見つめたあと、低く呟いた。「私たちは、親なんだな」ネリッサは思わず笑った。「そうね」ヴァンスが手を伸ばす。彼女がその手を取った。「でも、変えたいとは思わない」ネリッサは再びベッドへ戻る。そして彼の胸に頭を預けた。「私もよ」朝食の時間は、い
Dernière mise à jour : 2026-09-17 Read More