ヴァレンシュタイン公爵家に王家の監督官が入る。 その決定が下された時、王宮の空気は、目に見えない音を立てて割れた。 公爵家とは、ただの大貴族ではない。 王国建国以来、王家を支えてきた名門。 王妃候補を何人も輩出し、財務、外交、軍務に人を出し、社交界でも常に中心にいた家。 その家の家政、資金、相続、使用人管理に、王家が直接手を入れる。 それは事実上、「この家は自力で自分を律する資格を失った」と宣言するに等しかった。 北翼の会議室に、王家監督命令書が置かれている。 厚い羊皮紙。 国王アレクシスの署名。 王弟カインの副署。 王家法務官の認証。 そして、王妃基金改革官エレノア・ヴァレンシュタインの確認欄。 エレノアは、その最後の欄をしばらく見つめていた。 自分の家を、王家監督下に置く書類。 そこに自分が確認署名をする。 これほど皮肉なこともない。 カインが向かいから言った。「署名を外すこともできる」 エレノアは顔を上げた。「私情への配慮ですか」「手続き上、あなたが必ず署名しなければならない文書ではない。王家監督命令としては、国王と私と法務官の署名で足りる」「では、なぜ確認欄が?」「あなたが求めたからだ」 そうだった。 王妃基金に関わる資金流出が含まれる以上、改革官として確認する必要がある。 そう言ったのはエレノア自身だった。 カインは、それを止めなかった。 だが、最後の瞬間に逃げ道だけは示した。 エレノアは、少しだけ息を吐いた。「署名します」「いいのか」「はい。ここで外れれ
Last Updated : 2026-09-16 Read more