開いた扉から、燎がまっすぐ私たちの方へ来た。 正臣が口を開くより早く、その手首をつかむ。 「離せ」 私の首を締めていた指が離れた。 喉へ一気に空気が入った。 「げほっ、げほっ」 咳き込みながら正臣の前から離れ、燎へ手を伸ばした。 指先に、燎の上着の厚い生地が触れた。 上着をつかむと、燎が私を背中へかばった。 「何をする。僕の妻だぞ」 正臣の手が、また伸びた。 燎がその腕を押し返した。正臣が机にぶつかる。 「その手を、もう一度伸ばしてみろ」 正臣が動きを止めた。 私は燎の上着をつかんだまま、何度も咳をした。指に力が入らず、何度も握り直す。 廊下に、黒いスーツの男が二人いた。 一人が戸口に立ち、もう一人は、駆け寄ってきた久条家の警備員を止めている。 「旦那様のお許しがなければ——」 「中から助けを求める声が聞こえました。下がってください」 警備員が正臣を見た。 それでも、燎の連れてきた男は道を譲らなかった。 「警察には連絡しました」 真鍋が電話を下ろした。眼鏡の片側がずれていた。 その後ろに、浅井が立っていた。顔は青ざめている。それでも唇を引き結び、まっすぐ私を見ていた。 「交代前に奥様を捜しました。閉じ込められていると聞いて、玄関に来た鷺宮さんを案内しました」 正臣が彼女を睨んだ。 「勝手なことを」 「私が頼んだの」 燎の背中から顔を出した。 「ここから出たいと、何度も言ったでしょう」 燎が私を振り返った。 目が合うと、燎の張りつめていた口元がわずかに緩んだ。私の首元から手首まで確かめ、そっと腕に手を添える。 「帰るぞ」 頷こうとして、膝が折れた。 すぐに、たくましい腕が背へ回った。硬い胸板に頬が触れる。いつものコロンと、上着越しの熱に包まれた途端、ほっとした。足の震えが、自分でもわかった。 「……奏汰も、連れていきたい」 私は彼の袖を離さなかった。 奏汰を残しては、ここを出られない。 「迎えに行くぞ」 燎が私の手を取った。大きな手のひらは熱く、握る力は強い。けれど、痛くない。 浅井が隣の部屋を示す。私は、彼と並んで戸口へ向かった。 正臣がついてこようとすると、スーツの男が間に入った。 息子の部屋の扉が開いた。 莉乃が奏汰
Last Updated : 2026-09-25 Read more