ざわめきが止まる。 「鷺宮さん」 義母の声が飛んだ。 「久条グループの創立記念式典で、勝手にご自分の発表をなさるなんて。相変わらず無礼ね」 燎はマイクを持ったまま、義母を見た。 「本人の返事も聞かず、灯里を後継者にすると発表したのは、あなたが先だ」 「久条家のことです。あなたには関係ありません」 「灯里のことなら、関係ある」 会場が息を呑んだ。 義母の目が、わずかに細くなる。 正臣さえ口をつぐむ目を、燎は正面から見返した。 私のことなら関係がある。 三百人の前で、迷いもなく言い切った。 勝手な人だと思った。 それなのに、うれしかった。 久条家の妻としてでも、桐谷の娘としてでもない。燎は、私が作ったものを私の名前で世に出そうとしている。 それをうれしいと思う自分まで、見抜かれていそうで悔しかった。 こんな場所で、私の人生を勝手に取り合わないで。 燎はまだマイクを下ろさない。 いったい、何を言うつもりなの? 会場中の視線が、燎へ集まる。 「新しい医療データ会社を作る」 燎が私を見た。 「その会社を、君に贈る」 一拍遅れて、会場中から声が上がった。 「SENOVAが、桐谷博士のために新会社を?」 「会社を一つ、贈るということですか」 「鷺宮社長、桐谷博士とはどういうご関係ですか」 報道陣が一斉にマイクを向ける。 一瞬、言葉が出なかった。 後ろの席で椅子が鳴り、久条の役員たちが顔を見合わせた。さっきまで莉乃を見ていたカメラが、今はすべて私へ向いている。 私の仕事に、会社一つを賭ける。 しかも久条の創立記念式典で、正臣と義母の目の前で。 この男は、人の人生を変える話を、明日の予定のように言う。 嬉しくないはずがない。 正臣に道楽と呼ばれ、莉乃に名前まで奪われた仕事を、燎は会社にする価値があると言ってくれた。 八年間、聞きたかった。 私の仕事には価値がある。続けていい。そう言ってほしかった。 でも、喜んだまま受け取るわけにはいかない。 義母と燎は違う。燎は私の仕事を認めている。それでも、会社をもらって社長にしてもらうだけでは、また誰かに人生を決めてもらうことになる。 会社を作ったことなんてない。 今の私にできるのかも、正直分からな
Last Updated : 2026-09-30 Read more