その音怪しきに候。しかしながら姿形何処にも見えず。 ただただ、暗闇にのみその音現れ、人皆姿探せども何処にも在らじ。 尊き僧、これに出くわしてわ、クワイサイと名付けたり。いま怪哉といふなり。──みしり──と音で目を覚ます。 そんなものただの家鳴りのはずなのに、なぜか気になってしまう。 祖父曰く。 家鳴りしか聞こえない中に奴らはいる。 哉は感嘆の意味もあるが、始まるという意味もあるんだ。 怪哉とは怪しい何かが始まるっつーことかもしれんな。 であるならば今まさに、この家のこの暗闇の中でなにかが始まろうとしているのだろうか。 もし始まるとすれば、一体何が始まるのだろう? そんなもの、きまっているではないか。 怪しきことがはじまっているのだ。 いや。もしかしたらもうすでに始まっていたのかもしれない。 幼き日のあの夜に。 ならば、ソレは今、どうなっているのだろうか。 後ろになにかいるような気がして、体が動かない。 動かないのではない。動かせないのだ。 肌を指すような気配は、在る本能を刺激する。 恐怖という原始的なものだ。 動いてはいけないという強迫観念にも似た思いに駆られ、体が硬直する。 そうこうしている間にも、恐怖は足下から這い上がってくる。脚から胸へと少しずつ上へと上がってきたそいつは耳元で呟く。──ミツケタゾ── 生家から出た俺を探してここまできたのだろうか? いくつもの夜を越えて、成長しながら?──みしり── 一際大きな音がする。 その音を聞いて、意識が途切れる。
最後更新 : 2026-08-12 閱讀更多