明霞姉様の簪は、洗衣局の梁の隙間に隠してあった。 梁、と言っても立派なものではない。 湿気で少し黒ずみ、雨の日になると木の奥から黴の匂いがする。下級宮女たちが寝起きする部屋の天井など、後宮の華やかな宮殿とは比べものにならない。 でも、だからこそ安全だった。 玉蘭妃様の白玉宮では、香炉の底まで調べられる。 蓮貴妃様の宮では、布の皺ひとつ見逃されない。 皇后宮では、死者の遺品さえ罪の証拠に変えられる。 けれど洗衣局の梁の隙間など、誰も覗こうとしない。 汚い場所。 湿った場所。 下の者の匂いがする場所。 後宮で見下される場所ほど、時には大切なものを隠すのに向いている。 「鈴花、本当にそこに隠してたの?」 蘭々が、私の下で小声を上げた。 私は棚に足をかけ、梁へ手を伸ばしていた。 「うん」 「落ちないでよ。あんた、運動得意そうに見えて全然得意じゃないんだから」 「得意そうに見えたことある?」 「ない」 「じゃあ言わないで」 「心配してるんだってば」 蘭々は下で両手を広げている。 どうやら私が落ちたら受け止めるつもりらしい。 ありがたい。 でも、蘭々の細い腕で私を受け止めたら、二人まとめて床へ落ちると思う。 「蘭々、少し離れて。落ちたら巻き込む」 「嫌。友達が落ちるのを少し離れて見てるとか無理」 「受け止められないでしょう」 「気持ちは受け止める」 「体を受け止めてほしいんだけど」 「それは無理」 「正直」 「嘘は下手なので」 最近、蘭々はそれを気に入っているらしい。 私は梁の隙間へ指を差し入れた。 埃が爪の間に入る。 少し奥を探ると、布で包んだ硬い感触があった。 よかった。 まだある。 私は慎重に包みを引き出した。 床へ降りると、蘭々がすぐに布を差し出した。 「手、真っ黒」 「ありがとう」 「簪、無事?」 「うん」 明霞姉様の簪。 銀細工の蓮。 青い石。 あの夜、姉様が私に渡したもの。 その中から最初に見つけた紙には、玉蘭妃様の偽装懐妊、医官・曹順、朱燕、香係、銀器と香に残る証拠が記されていた。 それだけでも、十分すぎるほど危険なものだった。 けれど黎星様は言った。 もう一度確認しろ、と。 明霞姉様が
Last Updated : 2026-08-22 Read more