All Chapters of 皇后を殺したのは寵妃様です。下級宮女の私は犯人を知っていますが、姉を殺され、母に売られたので後宮ごと地獄に落とします: Chapter 31 - Chapter 40

57 Chapters

第三十話 鼠は鎖を編む

洗衣局の真ん中に、証拠を並べた。 銀蓮の簪。 三枚目の薄紙。 皇后様の木札。 洗濯記録。 道具拭きの記録。 黒い糸の絡んだ小敷布。 慈寧宮の茶庫帳。 青い紐と赤い紐の茶包み。 私の筆跡に似せられた札。 母の袖から出た鳳凰の半鍵。 赤い漆片。 紅蓮楼の赤い蓮を削ったもの。 それから、春燕の名札。 春燕の名札は、本当なら今回の証拠とは少し離れている。 けれど、私は外せなかった。 太后様、桂雪蘭、景蘭様、玉蘭妃様、白家、梁氏、沈烈、曹順、月琴。 名の大きい者たちを並べると、春燕のような名はすぐ埋もれる。 でも、毒の道は春燕の名を使って灰壺を運んだ。 なら、春燕も鎖の一部だ。 私は筆を持った。 手が震えていた。 疲れのせい。 恐怖のせい。 怒りのせい。 たぶん全部。 蘭々が横から紙を押さえる。 その重しは釜の蓋だった。「これ、やっぱり邪魔?」「少し」「でも飛ばないよ」「うん」「じゃあ採用」「勝手に決めないで」 言いながら、私は紙の端に最初の線を引いた。 皇后様。 その下に、薬湯。 薬湯へ毒を入れた手――玉蘭妃様。 薬湯の毒を命じた声――慈寧太后様。 命を文にした手――桂雪蘭。 毒を運んだ道――白家、紅蓮楼。
last updateLast Updated : 2026-09-07
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第三十一話 陛下の茶碗

黒紐の茶。 陛下用、未送。 茶庫帳には、そうあった。 その茶が今、皇帝陛下の御寝所へ届けられた。 未送だったはずのものが、送られた。 景黎様は紅蓮楼へ向かっている。 蓮貴妃様もいない。 蘭々は東門へ伝令に走った。 洗衣局に残っているのは、私と老医官、毒で倒れた母、数人の下級宮女たち。 証拠の鎖は、まだ紙の上でしかつながっていない。 なのに毒の鎖は、もう陛下の喉元まで届いている。「陛下は飲まれましたか」 私は、駆け込んできた内侍省の者に尋ねた。 声が自分のものではないように冷たかった。 内侍省の者は、額に汗を浮かべて答える。「分かりません。御寝所付きの者から、黒紐の茶が届いたと報せがあり、それを受け取った直後に私がこちらへ」「誰が届けたのですか」「慈寧宮の者ではありません」「では誰ですか」 内侍省の者は、言いにくそうに唇を噛んだ。「……景黎殿下の使いだと」 床が揺れた気がした。 景黎様の使い。 黒紐の茶。 皇帝陛下へ。 景蘭様だ。 景蘭様は、景黎様に似た姿を使う。 死んだはずの皇弟を表へ引きずり出すために。 兄弟の間に毒を置くために。「使いの顔は?」「若い宦官姿で、黒衣。顔は深く伏せていたと」「右足は」「そこまでは」「歩き方を見た者は」「御寝所付きの小宦官が一人」「その者を離さないでください」
last updateLast Updated : 2026-09-08
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第三十二話 死人に仕える女

 玉蘭妃様が、また毒を吐こうとしている。 白瑛の本当の主人は、白家ではない。 景蘭様でもない。 その言葉は、御寝所の空気をさらに重くした。 皇帝陛下は黒紐の茶碗を見つめている。 老医官は私を見ている。 内侍省の者は、私がまた動き出すのではないかと怯えた顔をしている。 私は台車の上で拳を握った。 動くな。 景黎様はそう言った。 老医官も、蘭々も、母も、きっと同じことを言う。 でも、玉蘭妃様は知っている。 白瑛の本当の主人。 白家の女でありながら、白家ではない者に仕える女。 紅蓮楼で私たちを迎えた、白い衣の女。 袖に灰と白い粉をつけていた女。 桂雪蘭を水路へ逃がしたかもしれない女。 その女の主を間違えれば、景黎様たちは追うべき方向を誤る。「陛下」 私は台車の上で頭を下げた。「玉蘭妃様のところへ参ります」「駄目だ」 答えたのは皇帝陛下ではなく、老医官だった。 早い。「まだ何も」「言う前から分かります」「玉蘭妃様が」「玉蘭妃様も毒を受けています。あなたも疲労と煙で熱があります。毒を受けた者と倒れかけた者が向かい合って話せば、二人とも寿命を削ります」「でも、情報が」「命を削って得る情報は、後で使う人が必要です」 老医官の言葉は、いつも痛いところへ来る。 正しい。 正しいが、待てない。 皇帝陛下が、静かに口を開いた。「玉蘭をここへ運ばせる」 老医官
last updateLast Updated : 2026-09-09
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第三十三話 白瑛は笑わない

古蓮井から上がってきた白瑛は、一度も膝を崩さなかった。 濡れた白衣。 水を吸って重くなった袖。 赤い蓮の刺繍は、血を含んだように暗い色へ沈んでいる。 髪から水滴が落ちる。 頬にも水が伝っている。 けれど彼女は、寒がるそぶりも、苦しがるそぶりも見せなかった。 ただ、井戸から引き上げられた桂雪蘭の縄を持ち、私をまっすぐ見ている。「静寧皇后様の命により、桂雪蘭をお届けします」 その声は冷たく、整っていた。 まるで品物を納めた商人のように。 桂雪蘭は、猿轡を噛まされ、肩から血を流していた。 年嵩の女。 慈寧宮筆頭女房。 太后様の命を文にし、白家へ渡し、玉蘭妃様へ届けた女。 母に毒茶を運ばせた女。 私の名前で茶を配らせた女。 その女が、今、洗衣局の井戸端で膝をついている。 私は台車の上で、銀蓮の簪を握った。 本当なら立ち上がりたい。 近づいて、顔を見たい。 床を、水を、衣の裾を、全部確かめたい。 でも老医官が横にいる。 少しでも動こうとすれば、すぐに止められる。「白瑛様」 私は呼んだ。 白瑛は、少しだけ首を傾けた。「様は不要です。私は白家の道具でしたから」「では、白瑛」「はい」「桂雪蘭を生かしたまま届けた理由は何ですか」 白瑛の目が、ほんの少し細くなった。 笑ってはいない。 けれど、何かを評価するような目だった。「最初に礼を言わないのですね」「礼
last updateLast Updated : 2026-09-10
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第三十四話 証拠の鎖を慈寧宮へ

桂雪蘭が認めた。 太后様は命じた。 自分はその命を文にした。 白家へ渡し、玉蘭妃様へ届けた。 それは、洗衣局の古蓮井の前で、はっきりと口から出た言葉だった。 私はその言葉を、紙に書き留めた。 筆先が震える。 疲れのせいだけではない。 ようやく、鎖が太后様の足元へ届いた。 けれど、その鎖を掴んで引くには、まだ人が要る。 皇帝陛下。 景黎様。 蓮貴妃様。 白瑛。 桂雪蘭。 玉蘭妃様。 そして、私。 誰か一人の言葉では足りない。 誰か一人の怒りでは届かない。 毒は一人で運ばれたのではない。 だから、裁く時も一人では足りない。「鈴花」 蘭々が、私の横にしゃがみ込んだ。 泥だらけのまま。 片手に釜の蓋を握ったまま。 息はまだ荒い。 でも、目はしっかりしていた。「書けた?」「まだ」「何が足りない?」「白瑛の証言。桂雪蘭の自白。黒紐の茶が陛下へ届いたこと。景蘭様が慈寧宮へ戻ったこと」「全部じゃん」「うん」「手、震えてる」「うん」「代わる?」「字が違う」「じゃあ横で喋る」「何を?」「鈴花が今どこまで書いたか、声に出す。間違えたら止めて」 私は蘭々を見た。「できる?」「できる。洗濯物の数を
last updateLast Updated : 2026-09-11
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第三十五話 母の顔を剥がす

桂雪蘭が倒れた。 黒い血が、白い布の上に広がっていく。 慈寧宮の広間に敷かれた白布は、太后様が用意させたものだろう。 葬儀のようにも、婚礼のようにも見えた白。 そこに今、桂雪蘭の血が滲んでいる。 太后様は、微笑んでいた。「証人は、死にましたね」 その声は、あまりにも穏やかだった。 まるで、眠れない子供へ「もう休みなさい」と言った後の母のように。 私は台車の上で、紙を握りしめた。 怒りで手が震える。 怖さではない。 今度は、怒りだった。 目の前で人が毒に倒れた。 しかも、太后様はそれを「休ませた」と言った。 桂雪蘭は悪人だ。 皇后様を殺す命を文にした。 白家へ渡し、玉蘭妃様へ届けた。 私の名で毒茶を配らせた。 母も、小梅も、阿梨も、洗衣局の者たちも、殺されかけた。 許せる相手ではない。 けれど。 だからといって、太后様が母の顔で殺していいわけではない。「老医官様!」 私が叫ぶより早く、老医官は桂雪蘭のそばへ膝をついていた。 布を裂き、肩の傷口を確認する。 白瑛が一歩近づこうとして、景黎様に止められた。「動くな」「私ではありません」「分かっている。だが今、動けば太后様に使われる」 白瑛は止まった。 濡れた白衣のまま、拳を握る。 彼女の顔に、初めてはっきりと焦りが見えた。「私は、証人として届
last updateLast Updated : 2026-09-12
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第三十六話 聖女の顔を剥がすな

赤い煙が消えた後も、慈寧宮には景蘭様の笑い声だけが残っていた。 白い床。 倒れた桂雪蘭。 拘束された太后様。 黒紐の茶包み。 蘭々が投げた釜の蓋。 そして、赤い蓮の花弁の上に置かれた木札。『私を美しく裁かないで』 皇后様の字に似ていた。 似ているだけなのか。 本当に皇后様が残した言葉なのか。 景蘭様が書き写したものなのか。 誰も、すぐには木札へ触れなかった。 景黎様は景蘭様が消えた奥の扉を睨んでいる。 追いたいのだろう。 けれど、動かなかった。 太后様がいる。 皇帝陛下がいる。 証拠がある。 負傷した桂雪蘭がいる。 今ここを離れれば、景蘭様の思う通りになる。 逃げた者を追わせ、残された者たちの視線を散らす。 景黎様は、それを分かっていた。「追わないの?」 蓮貴妃様が尋ねた。 景黎様は奥の扉から目を離さないまま答える。「追いたい」「正直ね」「だが、追えばあいつの勝ちだ」「成長したわね、皇弟殿下」「昔の俺を知っているように言うな」「噂なら。短気で、すぐに剣を抜く面倒な皇子だったとか」「兄上が何を話した」 皇帝陛下が、わずかに目を逸らした。 話したらしい。 こんな時なのに、蘭々が私の後ろで小さく笑った。「黎星様、昔から怒りっぽかったんですね」「蘭々」「はい」
last updateLast Updated : 2026-09-13
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第三十七話 皇后宮の奥部屋

朝の鐘が鳴る前に、私は目を覚ました。 洗衣局の窓はまだ暗い。 竈の火も入っていない。 女たちの寝息と、遠くで水が落ちる音だけが聞こえていた。 隣の寝台では、母が眠っている。 顔色は昨日よりましだった。 喉の腫れも、ほんの少し引いたらしい。 そのことに安心した自分へ、私はまだ戸惑っている。 許してはいない。 でも、生きていることには安心する。 人の気持ちは、どうして一つにまとまってくれないのだろう。 胸の上には、銀蓮の簪があった。 明霞姉様の紙。『鈴花。奥部屋の扉を、あなたが最初に開けてはいけない』 その言葉を思い出すたび、眠りが浅くなった。 なぜ、私ではいけないのか。 誰ならいいのか。 最初に開けた者は、皇后様が選んだ犠牲になる。 景蘭様の文にはそう書かれていた。 罠だ。 もちろん分かっている。 あの人は、選ばせる。 皇帝陛下か。 景黎様か。 白瑛か。 私か。 誰が皇后様のために傷つくのかを。 そして、誰かが名乗り出た瞬間に、皇后様の残酷さを見せようとしている。「起きてるね」 暗がりから、蘭々の声がした。 驚いて顔を向けると、彼女が寝台の間からこちらを覗いていた。 髪は寝癖で大きく跳ねている。「蘭々」「うん」「なぜそこにいるの」「鈴花がこっそり抜け出さないように」「寝ていたのでは?」「半分
last updateLast Updated : 2026-09-14
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第三十八話 私を殺した本当の理由

赤い封蝋の文は、黒い文箱の底に眠っていた。 表には、皇后様の字で一行。『私を殺した本当の理由』 その言葉を見た瞬間、部屋にいた誰も動かなかった。 太后様の嫉妬。 皇帝陛下を奪われたという歪んだ思い。 景黎様を皇后様が匿ったことへの怒り。 玉蘭妃様の野心。 白家の毒。 梁氏の金。 それだけではなかった。 皇后様は、まだ何かを隠していた。 自分が殺されなければならなかった、本当の理由を。「開けます」 白瑛が言った。 けれど、その手は動かなかった。 指先が、わずかに震えている。 死人に仕える女。 皇后様の命令なら、傷つくことも人を傷つけることもためらわなかった女が、今は一通の文を前に怯えている。「白瑛」 私が呼ぶと、彼女はこちらを見た。「怖いですか」「はい」「私もです」「鈴花も?」「自分の名前が、あれだけ細かく帳面へ書かれていましたから」 毒を入れる瞬間を見せる位置へ置く。 明霞姉様には、私を守りすぎぬよう命じる。 私が姉を奪われれば、真実から退かない可能性が高い。 皇后様は、私を知っていた。 いや。 私を、人として知っていたのだろうか。 それとも、動かすための性質として知っていただけなのか。 まだ分からない。「私が開ける」 皇帝陛下が言った。 景黎様がすぐ顔を向ける。「兄上」
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第三十九話 産声を奪う者

小梅が産気づいた。 その一言で、皇后宮の奥部屋に残っていた空気が変わった。 皇后様の文。 梁氏の血。 偽りの皇子。 小梅の子。 すべてが、今ひとつに結びついた。 まだ月が足りないかもしれない。 産婆の一人が消えた。 部屋には梁氏の黒石指輪。 子を奪いに来る。 そう思った瞬間、私は台車の縁を握りしめていた。「行きます」「言うと思った」 景黎様が即座に返した。「止めますか」「止めたい」「では」「だが、今は止めない」 景黎様の顔は険しかった。 けれど、その目はもう私をただ押しとどめるだけではなかった。「ただし、走らない。立たない。台車から勝手に降りない」「私は荷物ですか」「今は重要な荷物だ」 蘭々が台車の取っ手を握る。「任せて。大事に運ぶ」「蘭々、あなたもさっきから走りっぱなしでしょう」「洗衣局代表だから平気」「それは万能の言葉ではありません」「でも、だいたい効く」 効いている気がしてきたのが怖い。 皇帝陛下は、皇后様の文を胸に収めた。 顔色はまだ悪い。 妻の死の理由。 母の罪。 梁氏の企み。 そこへ、今度は小梅の子だ。 皇帝陛下は、内侍省の者へ命じる。「医療房を封じよ。出入りはすべて記録する。産婆、医官、下働き、誰一人として外へ出すな」「はっ」
last updateLast Updated : 2026-09-16
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