All Chapters of 10億のために継母と妹に殺されかけた夜、私は世界的スターに救われる: Chapter 91 - Chapter 100

139 Chapters

味方が減っていく

翌朝。勇樹は滞在先のリビングで、マネージャーから送られてきたメッセージを読んでいた。昨夜の吉田の配信についてだった。『香子さんの元同級生などから情報を集めているようです。こちらでも記録しています』添えられていた動画を開く。『香子が家族に迷惑かけてた話! 絶対あるから!』勇樹の表情が険しくなった。「……何がしたいんだ、こいつ」「勇樹さん?」声に振り返ると、香子が立っていた。「おはようございます」「おはよう。眠れた?」「はい。少しだけ」香子はそう答えたものの、まだ表情は硬い。勇樹はスマートフォンを伏せた。これ以上、不安にさせたくなかった。「朝飯、食べようか」「私も何かお手伝いします」「じゃあ、コーヒーお願いしていい?」「はい」香子がキッチンへ向かう。その背中を見ながら、勇樹はもう一度スマートフォンに目を落とした。その頃、吉田は昨夜の配信の反応を確認していた。「……何だよ、これ」切り抜き動画がいくつも作られている。『香子が悪い証拠を探すヨシテル』『結論ありきの取材が酷すぎる』『「俺が正しかったと証明する」迷惑配信者』コメントも、以前とは明らかに変わっていた。『最初は面白かったけどさすがに引く』『もう香子関係なく自分の逆恨みじゃん』『これ協力したらヤバいやつでは?』吉田は舌打ちした。「急に正義マンぶりやがって」少し前までは、香子を見つけたというだけで大騒ぎしていたくせに。目撃情報を送ってきた連中だって大勢いた。それなのに、自分だけを悪者にする。「お前らも一緒にやってただろ……」吉田は吐き捨
last updateLast Updated : 2026-10-06
Read more

逃げるのはどっち

吉田の配信は、その後もしばらく続いた。けれど、以前のように面白がって情報を送ってくる視聴者は明らかに減っていた。『もうやめとけって』『香子が嘘ついてる証拠って何?』『そもそも香子本人は何も言ってなくない?』「……は?」吉田の動きが止まった。『嘘ついてるって何の話?』『家族仲の話してたの妹じゃん』『香子、インタビューとか受けてなくね?』次々と流れるコメントに、吉田は苛立った。「だから! あいつが逃げるから話がややこしくなってんだろ!」『逃げるの普通だろ』『お前に追いかけられてるんだから』『家まで来られたら俺でも逃げる』「俺のせいにすんなよ!」吉田は怒鳴った。「最初に普通に話してれば、こんなことになってねえんだよ!」『またそれ』『怖すぎ』『被害者が言うやつじゃん』その言葉に、吉田の顔が引きつった。「……被害者?」自分は警察まで呼ばれた。ネットでは犯罪者のように扱われた。勇樹には大勢の前で恥をかかされた。事務所に行けば追い出された。「被害受けてんの、俺だからな?」『何の被害だよw』『自分から全部突撃してるじゃん』『警察呼ばれたのも自業自得』吉田は乱暴に配信を切った。「クソッ!」スマートフォンをソファへ投げる。しばらくして拾い上げると、通知がいくつも届いていた。その中に、見覚えのある名前があった。以前、香子の目撃情報を送ってきた視聴者だ。『吉田さん』続けて届く。『前に送った写真、動画から消してもらえませんか』吉田は眉をひそめた。『なんで?』『自分が撮った写真だって特定されたくないので』「……はあ?」さらに別の人物からも似た連絡が来た。『俺が送ったやつも消して』『もう関わりたくない』『名前とか出さないでください』吉田は呆然と画面を見つめた。今まで面白がっていた連中が、次々に逃げていく。「……ふざけんなよ」自分だけ残して。自分だけ悪者にして。「逃げてんの、お前らじゃねえか」低く呟く。そして、吉田は再び配信画面を開いた。タイトルを入力する。『【緊急】今さら逃げようとしてる情報提供者へ』配信開始のボタンを押す。「お前らさあ」吉田は笑った。「今になって写真消してくれとか、関わりたくないとか言ってるけど――」コメント欄が動き始める。「俺だけ悪者にして逃げられる
last updateLast Updated : 2026-10-06
Read more

もう協力しない

配信を始めてから数分。コメント欄には、呆れたような言葉が流れ続けていた。『情報提供者にまでキレるのかよ』『写真消してって言ってるなら消せば?』『送った側も悪いけど、だからって晒すのは違うだろ』「晒すなんて言ってねえだろ!」吉田は苛立って言い返した。「ただ、散々一緒に楽しんどいて、自分だけ逃げるのはおかしいって言ってんの!」『一緒に楽しんでたって認めてて草』『もうゲームじゃなくなったんだよ』『警察まで出てきたからだろ』吉田は舌打ちした。「警察、警察ってうるせえな!」そのとき、配信中にもかかわらずメッセージが届いた。『吉田さん、俺が送った写真は本当に消してください』さっきの視聴者だった。吉田は顔をしかめる。「また来たよ」『読むなよ』『誰からか言うなよ?』「名前なんか出してねえだろ」そう言いながら、吉田はメッセージを読み進めた。『マンションの写真も俺です』一瞬、コメント欄の流れが止まった。『え』『それ言っていいの?』『マンション特定した奴?』吉田はようやく気づき、慌ててスマートフォンを伏せた。「いや、違う違う! 今のは別に――」しかし遅かった。『本人特定されるぞ』『だから消してって言ってんじゃん』『最悪』吉田は配信を切った。直後、メッセージが届く。『なんで配信で読み上げたんですか?』『もう二度と情報送りません』続けて、別の視聴者からも来た。『俺が送った写真も全部消してください』『今後連絡しないでください』「……何なんだよ」吉田はスマートフォンを握りしめた。次から次へと、自分から離れていく。その頃。マネージャーは事務所で、昨夜からの配信記録を確認していた。目撃情報への謝礼。香子たちの車の写真。マンション前での配信。そして、情報提供者から削除を求められていることまで、自分で喋っている。「……ずいぶん残してくれましたね」社員が苦笑する。マネージャーは画面から目を離した。「本人が公開しているものです。保存しておいてください」「わかりました」それだけ告げて、勇樹への連絡は後にした。今日は撮影がある。今すぐ知らせる必要はない。一方、吉田は過去のメッセージを遡っていた。「……別に、こいつらがいなくても」香子の同級生。学校。家族。勇樹の仕事。これまでに集めた情報
last updateLast Updated : 2026-10-06
Read more

お前のせいだろ

美紗のSNSには、数日前の投稿が残っていた。『姉の件で、ついに自宅まで配信者の方が来るようになってしまいました。母まで怯えています。家族はただ静かに暮らしたいだけなのに……』吉田は何度読んでも腹が立った。「……俺のことじゃん」自宅まで行った配信者など、ほかにいるはずがない。しかも、自分が勝手に騒ぎを起こしたような書き方だ。「お前が姉と話したいって言ってたんだろ……」吉田は過去の記事を開いた。『姉が心配です』『一度、きちんと話がしたい』『本人の意思で帰ってこないのか、それすらわからなくて……』何度も読んだ言葉だった。だから、自分は香子に聞こうとした。妹が心配しているぞ、と伝えてやった。それなのに――。「何で俺だけ悪者になってんだよ」吉田は美紗にメッセージを送った。『ちょっと話せませんか?』既読にならない。十分。二十分。三十分。「……無視?」苛立ちが募る。『俺、美紗さんが姉と話したいって言ってたから動いたんですけど』さらに送る。『なのに自分は被害者みたいに書くのおかしくないですか?』それでも返事はない。吉田はとうとう配信を始めた。「ちょっとさあ、俺も言いたいことあるんだけど」『今度は何』『まだ香子やるの?』「今日は香子じゃねえよ」吉田は美紗の記事を画面に出した。「妹さんさあ。ずっと『お姉ちゃんが心配です』『話したいです』って言ってたじゃん?」『言ってたね』『それ見て突撃したのはお前だけどな』「だから!」吉田は机を叩いた。「俺はそれを信じたわけ! なのに俺が家まで行ったら、急に『配信者が来て怖いです』って何なんだよ!」コメント欄が一気に流れた。『え、美紗にもキレ始めたw』『仲間割れ?』『そもそも仲間じゃないだろ』「仲間とかじゃねえよ!」吉田は苛立ったまま、美紗とのメッセージ画面を開いた。以前、美紗から届いた言葉が並んでいる。『姉とは今も連絡が取れていません』『元気そうならよかったです』『私はただ、一度ちゃんと姉と話がしたいだけなんです』吉田はそれを読み上げた。「ほら! 言ってんじゃん!」『でも突撃してとは言ってない』『これ普通に吉田が勝手にやっただけでは』『美紗も煽ってはいるけどな』「煽ってるよな!?」自分に都合のいいコメントだけを拾い、吉田は勢いづいた。「
last updateLast Updated : 2026-10-07
Read more

全部、晒してやる

「お前のせいだろ……」吉田は、美紗から届いたメッセージを睨みつけた。『私がお願いしたことではありません』『姉を追いかけたり、自宅まで来たりしてほしいとは一度も言っていません』『これ以上、私まで巻き込まないでください』「……何だよ、それ」散々、姉が心配だと言っていたくせに。香子と話したいと言っていたくせに。都合が悪くなった途端、自分は関係ないと言い出した。「ふざけんなよ!」吉田は再び配信を始めた。『また始まった』『まだやるの?』『さっき美紗に切られてたじゃん』「切られたとかじゃねえから!」吉田は声を荒らげた。「こいつが今さら、自分は関係ありませんみたいなこと言ってるからさ!」そして、美紗とのメッセージ画面をそのまま配信に映した。『姉とは今も連絡が取れていません』『元気そうならよかったです』『私はただ、一度ちゃんと姉と話がしたいだけなんです』過去のやり取りを、次々と遡っていく。「ほら! 俺、嘘ついてねえだろ!?」『いや、突撃してとは書いてないじゃん』『普通の返事では?』『これ晒して大丈夫なの?』「俺だけ悪者にされるよりマシだろ!」吉田は止まらなかった。「こっちはこいつのために動いてやったんだよ! なのに今さら巻き込むなって、おかしいだろ!」その配信は、あっという間に切り抜かれた。そして――。「美紗!」久恵の怒声が、鷹宮家に響いた。「ちょっと来なさい!」リビングへ入った美紗の前に、久恵がスマートフォンを突きつける。画面には、吉田の配信が映っていた。「どうしてこんな男と連絡を取っていたの!」「だって……あ
last updateLast Updated : 2026-10-07
Read more

最後の突撃

翌日の夕方。「はい、どうもー! ヨシテルでーす!」吉田は鷹宮家の前に立っていた。「今日はね、俺を裏切った女に直接話を聞きに来ました!」『また美紗の家?』『昨日あれだけDM晒しといてw』『もうやめとけよ』「うるせえな! 俺だって言いたいことあんだよ!」吉田は門のインターホンを押した。返事はない。もう一度押す。「美紗さーん! いるんでしょー!」『近所迷惑w』『また警察呼ばれるぞ』「話するだけだっつってんだろ!」吉田は門の向こうを覗き込んだ。そのとき、玄関の扉が開いた。出てきたのは久恵だった。「あなた! また来たの!?」「おっ、お母さん!」吉田は嬉しそうにスマートフォンを向けた。「美紗さん呼んでもらっていいですか? 俺、本人に聞きたいことあるんで!」「帰ってください!」「いやいや、俺だって被害者なんですよ!」「警察を呼びますよ!」「また警察!?」吉田の顔が歪んだ。「この家、何かあるとすぐ警察呼ぶんだな!」久恵が門を閉めようとした、そのときだった。「お母さま、何騒いでるの?」玄関から美紗が顔を出した。吉田は目を輝かせた。「いた!」「……げっ」美紗は露骨に顔をしかめた。「何しに来たのよ!」「お前、昨日俺に何て送った!?」「はあ?」「俺が勝手にやったって! 関係ないって!」美紗は呆れたように眉を寄せた。「だって、勝手にやったじゃない」「何だと!?」「私は姉と話したいって言っただけよ。追いかけろなんて頼んでないわ!」『正論w』『ヨシテルまた負けてる』『帰れよ』コメントが流れる。吉田の顔が真っ赤になった。「お前が香子は帰ってこないって騒いでたんだろ!」「だからって、何で私の家に来るのよ!」「お前が俺を利用したからだろ!」「勝手に利用されたつもりにならないで!」美紗は吐き捨てた。「もう二度と来ないで! 気持ち悪い!」その一言で、吉田の表情が変わった。「……気持ち悪い?」美紗は答えず、玄関へ戻ろうとした。「待てよ!」吉田は門を激しく揺さぶった。「おい! 逃げんな!」「やめなさい!」久恵が叫ぶ。しかし、吉田は止まらなかった。「ふざけんなよ! 俺だけ悪者にして!」勢いに任せて門を押し、金具が大きな音を立てた。「あっ!」久恵が悲鳴を上げる。門が歪み、留め具が
last updateLast Updated : 2026-10-09
Read more

逮捕された配信者

翌朝。「……香子」勇樹に呼ばれ、香子は顔を上げた。「どうしました?」「例の配信者だけど、昨日、逮捕されたらしい」「……え?」香子は目を見開いた。「逮捕……ですか?」「美紗の家に押しかけて、警察官に暴力を振るったそうだ」勇樹はテーブルにスマートフォンを置いた。「もう、あいつに追いかけられる心配はしなくていいと思う」香子はしばらく言葉を失っていた。あの男が、もう自分を追いかけてこない。そう聞いても、すぐには実感が湧かなかった。「……よかった」ようやく、それだけ呟いた。勇樹は香子の手を握った。「怖い思いをさせてごめん」「勇樹さんが謝ることではありません」香子は首を横に振った。「ずっと、守ってくださったじゃないですか」その言葉に、勇樹は小さく微笑んだ。しかし、その日の昼。吉田の逮捕は、ネットニュースで大きく報じられていた。『迷惑系配信者・吉田輝和容疑者を逮捕 警察官に暴行か』記事には、これまでの騒動も詳しく書かれていた。人気俳優・来栖勇樹と同居する女性への執拗な接触。目撃情報への謝礼。自宅マンション付近でのライブ配信。そして、女性の腕を掴んだ映像。その女性の名前も、繰り返し登場していた。――鷹宮香子。「……また」香子はスマートフォンを見つめた。「また、私の名前が……」画面には、自分が吉田から逃げる映像まで掲載されている。あの日の恐怖が蘇り、指先が冷たくなった。「香子?」勇樹が隣に座る。「&h
last updateLast Updated : 2026-10-09
Read more

私だって被害者よ!

「どうしてくれるの、これ!」久恵はテレビを指さした。画面には、吉田の逮捕を伝えるニュースが流れている。その横には、美紗の名前まで表示されていた。「私に怒鳴らないでよ!」美紗も負けじと言い返す。「悪いのはあの男でしょ! 勝手に家まで来て、門まで壊したんだから!」「そもそも、あなたが連絡なんか取らなければよかったのよ!」「お母さまだって、あいつが香子を追い回してるときは喜んでたじゃない!」久恵の顔が強張った。「何を言っているの!」「香子が困ってるなら好都合だって言ったでしょ!」「声を落としなさい!」久恵は慌ててリビングの扉を確認した。美紗は鼻を鳴らした。「それに、私、嘘なんかついてないわよ」「何ですって?」「姉が心配だって言っただけ。あいつに追いかけろなんて一度も頼んでないもの」「だからといって、世間がそう受け取るとは限らないでしょう!」「だったら、ちゃんと説明すればいいじゃない!」美紗はスマートフォンを取り出した。ニュースのコメント欄には、批判が並んでいる。『妹も配信者と繋がってたのか』『姉を追い回させたんじゃないの?』『家族ぐるみで何やってんだ』美紗は唇を噛んだ。けれど、その中に別のコメントもあった。『でもDMには追いかけろなんて書いてないよね』『この妹も家に突撃されてるじゃん』『配信者が勝手に暴走しただけでは?』美紗の指が止まった。「……ほら」「何?」「私だって、被害者じゃない」久恵は眉をひそめた。「何を今さら」「だって本当でしょ? あいつ、私の家に押しかけてきて、門を壊したのよ。お母さまだって怖かったじゃない!」久恵は黙った。確かに、それは事実だった。「だったら、私が怖い思いをしたって話せばいいのよ」美紗は顔を上げた。「姉を心配していたら、変な男に付きまとわれた。私だって迷惑してるって」久恵はしばらく考え込んだ。「……余計なことは言わないでしょうね」「言わないわよ!」「香子のことを悪く言うのも、今はやめなさい」「どうして!」「いいから!」久恵は厳しい顔で言った。「今回は、あなたが被害を受けたことだけを話すの。それ以外は何も言わないで」美紗は不満そうに口を尖らせたものの、やがて頷いた。「……わかったわよ」その日の午後。美紗のもとに、週刊誌の記者から連絡が入っ
last updateLast Updated : 2026-10-10
Read more

悲劇の妹

「見て、お母さま!」美紗はスマートフォンを手に、嬉しそうにリビングへ駆け込んだ。「この記事、すごく読まれてるみたい!」画面には、昨日公開された週刊誌の記事が表示されていた。『逮捕された迷惑配信者に自宅まで襲われた妹の悲痛な告白』記事には、壊された門の写真も掲載されている。コメント欄の雰囲気は、昨日までとは変わっていた。『これは妹も被害者だろ』『DM見たけど、別に変なこと書いてなかったよ』『家に押しかけられるのは普通に怖い』『悪いのは配信者じゃん』「ほら! みんなわかってくれたのよ!」美紗は得意げに笑った。久恵も画面を覗き込む。「……そうね。ひとまず、これ以上騒がれずに済みそうだわ」「ひとまずって何よ!」「調子に乗らないの。もう取材には答えないでちょうだい」「わかってるわよ」美紗は不満そうに答えたものの、すぐにまたコメントを読み始めた。『姉も妹も、変な配信者に巻き込まれて気の毒』『家族の問題に他人が首突っ込むなよ』その言葉に、美紗は満足そうに頷いた。そうだ。他人が余計なことをしただけ。自分たち家族の問題なのだから、香子が帰ってくれば済む話だったのだ。「……これで、また香子が悪いってわかってもらえるかしら」ぽつりと呟くと、久恵が顔を上げた。「美紗」「何?」「今は香子の悪口を言わないで。せっかく収まった騒ぎを蒸し返すつもり?」「……わかってるってば」美紗は唇を尖らせた。一方、勇樹の滞在先でも、その記事が話題になっていた。「……美紗が、被害者に」香子は記事を読み、複雑な表情を浮かべた。門を壊され、家に押しかけ
last updateLast Updated : 2026-10-10
Read more

久しぶりの外出

吉田の逮捕から数日が経った。「香子、明日の午後は空いてる?」夕食の席で、勇樹が尋ねた。「はい。何かあるんですか?」「ちょっと出かけない?」香子は驚いたように顔を上げた。「……外へ、ですか?」「うん。久しぶりに二人で」吉田に追い回されるようになってから、香子はほとんど外出していなかった。滞在先を移ってからは、なおさらだ。「でも……」香子は迷った。吉田が逮捕されたとはいえ、街を歩くのはまだ怖い。勇樹はそんな彼女を見て、微笑んだ。「無理にとは言わないよ。でも、ずっと部屋にいるのも退屈だろ?」「……少しだけ」「じゃあ、行こう」勇樹が嬉しそうに笑ったので、香子もつられて微笑んだ。翌日。勇樹が連れてきてくれたのは、ホテルのレストランだった。大きな窓から庭園が見える、落ち着いた雰囲気の店だ。「……素敵ですね」香子は思わず声を上げた。「気に入った?」「はい!」案内された席には、白いテーブルクロスが掛けられていた。窓の向こうでは、秋の花が風に揺れている。「昔、ここに来たことがあるんだ」勇樹が言った。「おじいさまと、おばあさまと一緒に?」「そう。香子もいたよ」「私も?」「まだ小さかったから、覚えてないかな」香子は庭を見つめた。そう言われると、どこか懐かしい気がした。「おばあさま、ここのお庭がお好きだったんですか?」「うん。花がきれいだからって、よく来てた」香子は微笑んだ。「……私も、好きです」食事が運ばれてくると、二人は久しぶりに
last updateLast Updated : 2026-10-10
Read more
PREV
1
...
89101112
...
14
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status