車が走り出してからも、香子は何も言わなかった。窓の外を流れていく景色を見つめている。信号で止まったとき、歩道を歩く人が目に入った。スマートフォンを持っている。それだけで、胸がざわついた。あの人も、自分を知っているのだろうか。見つけたら、吉田に連絡するのだろうか。「香子」勇樹に呼ばれ、香子は顔を上げた。「大丈夫?」「……はい」答えてから、首を横に振る。「いいえ……」大丈夫ではなかった。「どうして、そんなことをするのでしょう」「……うん」「五百円や千円のために、知らない人の写真を撮るなんて……」香子には理解できなかった。吉田だけなら、まだ逃げることができた。けれど、誰が吉田に情報を送っているのかわからない。すれ違う人。店にいる人。病院にいた人。その全員が怖く見えてしまう。香子は膝の上で両手を握った。「私、もう外に出ないほうがいいのでしょうか」勇樹がハンドルを握る手に力を込めた。「そんなことない」「でも、私が出なければ――」「香子が閉じこもる必要はないよ」「……」香子は俯いた。それでも、次に外へ出る勇気が出るとは思えなかった。その夜。勇樹は仕事へ向かう前に、事務所へ立ち寄った。マネージャーは問題の配信を確認していた。「今回は偶然ではなかったんですね」「本人がそう言ってました。視聴者から情報をもらったって」「ええ。配信にも残っています」画面の中で、吉田が笑っている。『マジで情報来たら会えるじ
Last Updated : 2026-09-30 Read more