All Chapters of 10億のために継母と妹に殺されかけた夜、私は世界的スターに救われる: Chapter 101 - Chapter 110

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恋人たちの写真

翌朝。「勇樹さん、これ……」香子はスマートフォンを手に、困ったような顔をしていた。画面には、昨日の庭園で撮られた写真が表示されている。二人が手を繋いで歩いているところだった。「……いつの間に撮られたんでしょう」勇樹は画面を覗き込んだ。「昨日のホテルだね」「はい……」写真には、二人の顔まではっきり写っていた。香子は不安そうに唇を噛む。「また、何か言われるのでしょうか」勇樹は投稿を開いた。『今日、来栖勇樹と例の女性見た! めちゃくちゃ仲良さそうだった!』コメントもかなり増えている。『普通にデートじゃん!』『手繋いでる!』『来栖勇樹、めちゃくちゃ彼女のこと好きそう』『あんなことあった後だし、幸せそうでよかった』勇樹は香子に画面を見せた。「……今回は、悪いことばかりじゃなさそうだよ」香子は恐る恐るコメントを読んだ。『彼女、ずっと怖い思いしてたんだよね』『守ってくれる彼氏がいてよかったね』『二人ともお似合い』「……彼氏」香子は思わず呟いた。勇樹が笑う。「違う?」「い、いえ!」慌てて首を振る。「そういうわけでは……」「じゃあ、合ってる?」香子は真っ赤になった。「……勇樹さん、意地悪です」勇樹は楽しそうに笑った。そして、香子の手を取る。「俺は嬉しいけどね」「……何がですか?」「香子と恋人同士だって、みんなに思ってもらえるの」香子は俯いた。けれど、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。一方、鷹宮家。「……何よ、これ!」美紗はスマートフォンを握りしめた。画面には、勇樹と香子の写真が表示されている。しかも、コメント欄は二人を祝福する言葉で溢れていた。『こんなに大切にされてるなら安心だね』『来栖勇樹、彼女を見る目が優しい』『美男美女でお似合い』「……ふざけないでよ」美紗は苛立ちながら画面をスクロールした。自分はあんな配信者に家まで押しかけられた。母親には怒鳴られた。それなのに、香子は世界的スターと優雅にホテルでデートしている。しかも、世間から祝福されている。「何で……」美紗は唇を噛んだ。「何で香子ばっかり!」そのとき、久恵が部屋に入ってきた。「美紗、何を騒いでいるの?」「これ見てよ!」美紗はスマートフォンを突きつけた。「香子、また来栖勇樹とデートしてる!」久恵
last updateLast Updated : 2026-10-11
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結婚なんて許さない

「結婚ですって……?」美紗は記事を開いた。そこには、勇樹と香子がホテルの庭園を歩く写真とともに、二人の交際が順調であることが書かれていた。『来栖勇樹は周囲にも交際女性を大切な存在だと語っており、結婚を視野に入れた真剣交際ではないかとみられる』「……何よ、これ」結婚が決まったわけではない。記事も、ただの憶測だ。それでも、美紗には我慢できなかった。あの香子が、世界的スターの妻になるかもしれない。そんなことが許されるはずがない。「お母さま!」美紗はスマートフォンを持ってリビングへ駆け込んだ。「香子が結婚するかもしれないって!」久恵は読んでいた雑誌から顔を上げた。「誰と?」「来栖勇樹に決まってるでしょ!」久恵は差し出された記事を読んだ。「……まだ決まったわけじゃないでしょう」「でも、結婚したらどうするのよ!」「どうするって?」「香子、あの人と結婚したら、もう絶対に帰ってこないじゃない!」久恵は黙った。美紗はさらに続けた。「それに、あの遺産だって! 香子が結婚したら、全部あいつらのものになっちゃうんじゃないの!?」「……美紗」久恵は雑誌を閉じた。「遺産のことは、私に任せておきなさい」「でも!」「今は何もしないでと言ったでしょう」美紗は唇を噛んだ。「……お母さまは、いつもそればっかり」「あなたが余計なことをするからでしょう!」久恵に睨まれ、美紗は黙り込んだ。けれど、納得したわけではなかった。その頃。勇樹のもとにも、結婚の記事について連絡が入っていた。「来栖さん、記事はご
last updateLast Updated : 2026-10-11
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新しい標的

美紗は連絡先を眺めながら、しばらく考えていた。以前、香子の高校時代の写真を提供してきた同級生。あの男なら、まだ何か持っているかもしれない。美紗はメッセージを送った。『お久しぶりです。姉のことで、また少しお聞きしたいことがあるんですが』返事は十分ほどで届いた。『あ、どうも! ニュース見ましたよw 大変でしたね』『ありがとうございます。怖い思いをしました』『あの配信者ヤバかったですねw』美紗は顔をしかめた。他人事のように笑っているのが気に入らない。それでも、丁寧に返信した。『ところで、姉が高校生の頃、親しくしていた男性って他にもいましたか?』『男?』『はい。最近、結婚するかもしれないという記事を見たので、少し気になって』『あー、来栖勇樹のやつですかw』『そうです』しばらくして、返事が届いた。『いやー、知らないですね。香子さん大人しかったし』美紗は舌打ちした。また、それだ。誰に聞いても同じことしか言わない。『昔の写真とか、まだ残っていませんか?』『探せばあるかもですけど』『もし見つかったら、送っていただけませんか?』『いいですよー』美紗はようやく笑みを浮かべた。やっぱり、この男は扱いやすい。あの配信者とは違って、余計なことをしない。そう思っていた。ところが、続けて届いたメッセージを見て、美紗の表情が変わった。『そういえば、香子さんって今どうしてるんですか?』『来栖さんと一緒に暮らしているようです』『へー。よかったですね』『……よかった?』『いや、昔から家帰りたくなさそうだったんでw』美紗の指が止まった。『どういう意味ですか?』『放課後とか、いつも遅くまで残ってたんですよ』『そうなんですね』『家に帰っても居場所ないみたいなこと、誰かが言ってた気がします』美紗はスマートフォンを握りしめた。「……何よ、それ」そんなことを、香子が学校で話していたのか。自分たちのことを、誰かに告げ口していたのか。怒りが込み上げる。けれど、ここで感情的になってはいけない。『姉は昔から少し内向的だったので、学校のほうが楽しかったのかもしれませんね』そう返すと、相手からは軽い返事が来た。『まあ、そうかもですねw』美紗はスマートフォンを置いた。使える話は、何も出てこなかった。それどころか、香子に同情す
last updateLast Updated : 2026-10-11
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幸せな花嫁なんて

「……どうして、誰も香子の悪口を言わないのよ!」美紗はベッドに倒れ込んだ。高校時代の同級生も、友人も、その母親まで。誰に聞いても、香子は大人しかった、優しかった、かわいそうだったと、そればかりだ。「何よ……みんな騙されてるんじゃない!」スマートフォンを拾い上げると、また勇樹と香子の写真が目に入った。ホテルの庭園で、手を繋いで歩く二人。コメント欄には祝福の言葉が並んでいる。『このまま結婚してほしい!』『来栖勇樹の結婚式とかすごそう』『彼女、絶対きれいな花嫁になるよね』「……花嫁?」美紗は顔を歪めた。香子がウェディングドレスを着て、勇樹の隣に立つ。世界中から祝福される。そんな光景を想像しただけで、吐き気がした。「絶対に嫌……!」そのとき、久恵が部屋を覗いた。「美紗、何を騒いでいるの?」「お母さま!」美紗は勢いよく起き上がった。「香子が結婚したら、どうするつもりなの!」「またその話?」「だって、あいつが来栖勇樹と結婚したら、もう何もかも手に入れちゃうじゃない!」久恵はため息をついた。「結婚したところで、遺産の相続権がなくなるわけではないわ」「だから困るんでしょ!」「あなたは少し落ち着きなさい」久恵は美紗を睨んだ。「今、香子に何かすれば、また私たちが疑われるのよ」「じゃあ、ずっと黙って見てろっていうの?」「そうは言っていないでしょう」久恵は声を落とした。「相続の手続きが終わる前に、こちらも考えなければならないことがあるの」美紗は目を輝かせた。「何かするの?」「あなたは何もしなくていいわ」「……またそれ!」久恵は返事をせず、部屋を出ていった。美紗は腹立たしげに扉を睨んだ。自分だけ何も知らされない。まるで子供扱いだ。「……私だって、何かできるのに」美紗は再びスマートフォンを手に取った。一方、勇樹の滞在先。「香子、これ見て」勇樹が差し出したのは、以前訪れた祖父母の屋敷の写真だった。庭に咲く黄色い花が写っている。「管理をしている方が送ってくださったんですか?」「うん。今もちょうどきれいに咲いてるって」香子は嬉しそうに微笑んだ。「……また、見に行きたいです」「行こうよ。今度はゆっくり」「はい」香子は写真を見つめた。祖母が好きだった花。幼い頃、勇樹と一緒に遊んだ庭。あの屋
last updateLast Updated : 2026-10-12
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奪えるものなら

「つまり、相続するのは孫娘一人ということですか?」久恵は電話口で尋ねた。「ええ。祖父母の財産については、現在確認できる資料では、そのようになっています」「でも、あの子はまだ若いんです。これほどの財産を一人で管理できるとは思えません」久恵は穏やかな声を作った。「私たちは、あの子の家族なんです。何かできることはないでしょうか」電話の向こうの弁護士は、しばらく考えてから答えた。「ご本人が希望されるなら、財産管理について専門家に相談することはできます。ただ、ご家族というだけで管理権限が生じるわけではありません」「……そうですか」久恵は笑顔を保ったまま、電話を切った。そして、スマートフォンを机に置く。「……役に立たないわね」何のために相談したと思っているのか。香子があの財産を自由にできるようになれば、もう手出しができなくなる。まして、来栖勇樹と結婚でもされたら。「……絶対に渡さないわ」久恵は書類を睨みつけた。その頃、香子は勇樹とともに祖父母の屋敷を訪れていた。庭では、黄色い花が風に揺れている。「……きれい」香子は嬉しそうに微笑んだ。「おばあさま、毎年この花を楽しみにしていらしたんです」「そうだったね」勇樹も懐かしそうに庭を眺めた。管理人が二人に声をかける。「今年もよく咲きました。奥様が大切になさっていた花ですから」「ありがとうございます」香子は丁寧に頭を下げた。「ずっと、お世話をしてくださっていたんですね」「ええ。お二人が亡くなられてからも、できるだけ昔のままにしておりました」香子の胸が温かくなった。自分がここへ来られなかった間も、祖父母の思い出を守ってくれていた人がいた。「……本当に、ありがとうございます」香子はもう一度頭を下げた。その姿を、勇樹は優しく見守っていた。屋敷の中へ入ると、香子は祖母の部屋へ向かった。机も、本棚も、昔のままだ。「……勇樹さん」「うん?」「私、ここへ来ると安心するんです」香子は窓辺に立った。「昔は、ここに来るのが楽しみで……帰るときは、いつも寂しくて」「覚えてるよ」勇樹が笑った。「香子、帰りたくないって泣いたこともあったね」「……そんなことまで覚えていらっしゃるんですか?」「もちろん」香子は恥ずかしそうに微笑んだ。「……今も、帰りたくありません」勇樹
last updateLast Updated : 2026-10-13
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優しい継母のお願い

「……香子に連絡を?」久恵の話を聞き、美紗は眉をひそめた。「今さら何を話すのよ」「決まっているでしょう。あの子の将来についてよ」久恵は鏡の前で髪を整えながら答えた。「祖父母の遺産を相続するにしても、あの子一人では大変でしょう? 家族として力になりたいの」「……本気で言ってるの?」美紗は呆れた。「香子が素直に聞くわけないじゃない。今は来栖勇樹がいるんだし」「だから、あの子と直接話すのよ」久恵は微笑んだ。「昔から、あの子は私に逆らえなかったでしょう?」美紗は少し考え、口元を歪めた。「……確かにね」香子はいつも、久恵に叱られると俯いて謝っていた。何を言われても、最後には言うことを聞いた。「でも、どうやって連絡するの?」「来栖さんの事務所にお願いするわ」久恵はスマートフォンを手に取った。「家族の大切な話だもの。無視はできないでしょう」その日の午後。勇樹のマネージャーから、香子へ連絡が入った。「香子さんのお継母様から、事務所にお電話がありました」「……久恵さんから?」香子の顔が強張った。「財産のことで、一度お話ししたいそうです。連絡先を教えてほしいとのことでしたが、お断りしています」「……そうですか」香子は小さく息を吐いた。勇樹が隣から尋ねる。「何の話?」香子は電話の内容を伝えた。すると、勇樹の表情が険しくなった。「遺産のこと?」「……はい」香子は膝の上で手を握りしめた。久恵が祖父母の財産を欲しがっていることは、もうわかっている。けれど、直接話したいと言われると、昔の恐怖が蘇った。「……私、どうしたら」勇樹は香子の手を取った。「会いたくないなら、会わなくていいよ」「でも……」「香子の気持ちで決めていいんだ」香子は俯いた。久恵に逆らうことなど、これまで考えたこともなかった。けれど、今は――。「……会いたく、ありません」小さな声だった。それでも、はっきりと言えた。勇樹は微笑んだ。「うん。じゃあ、そう伝えよう」香子はほっとしたように頷いた。翌日。久恵のもとへ、事務所から返事が届いた。『香子様ご本人は、現在お会いすることを希望されておりません』久恵は画面を見つめた。「……何ですって?」隣にいた美紗が覗き込む。「断られたの?」「……ええ」久恵の声が低くなる。「まった
last updateLast Updated : 2026-10-14
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母親としての相談

「成人した娘を、家に連れ戻す方法はないでしょうか」久恵は電話口で、困り果てた母親のように声を落とした。「娘さんを、ですか?」「ええ。突然家を出てしまって、今は男性の家で暮らしているんです」「娘さんはおいくつですか?」久恵が年齢を答えると、弁護士は少し考えるように間を置いた。「成人されているんですね。ご本人とは連絡が取れていますか?」「それが、まったく……」久恵はため息をついた。「電話をしても繋がりませんし、相手の男性の事務所に連絡しても、会いたくないと言っていると伝えられるだけで」「相手の男性というのは?」「俳優の来栖勇樹さんです」弁護士は少し驚いたようだった。「来栖勇樹さん……。報道されている方ですね」「ご存じでしたか」「ええ、ニュースで拝見したことがあります」久恵は声を震わせた。「娘は昔から気が弱くて、人に強く言われると逆らえない子なんです。あんなに有名な方と一緒に暮らしていて、本当に本人の意思なのかどうか……」「なるほど」弁護士は落ち着いた声で応じた。「ただ、成人された方ですから、ご本人の意思に反してご実家へ連れ戻すことはできません」「……そうなんですか」「ええ。もっとも、ご本人が自由に意思表示できる状況にあるのか、という点は別の問題です」久恵は顔を上げた。「では、確認していただくことはできるんでしょうか?」「事情を詳しく伺ったうえで、弁護士からご本人に連絡を取るという方法は考えられます。ただし、ご本人が面会や連絡を拒否されれば、その意思は尊重する必要があります」「それでも構いません。せめて、無事なのかどうかだけでも知りたいんです」久恵はすぐに答えた。弁護士は続けて尋ねた。「ところで、娘さ
last updateLast Updated : 2026-10-14
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事務所への問い合わせ

「鷹宮香子さんに、ご連絡を取りたいのですが」勇樹の所属事務所に、一本の電話が入った。電話をかけてきたのは、法律事務所の弁護士だった。「鷹宮さん、ですか?」応対したスタッフは、少し戸惑った。「はい。ご家族からご相談を受けておりまして、ご本人の意思を確認したいと考えております」「少々お待ちいただけますか」スタッフは電話を保留にすると、勇樹の担当マネージャーに事情を伝えた。「法律事務所から、香子さんへの取り次ぎをお願いしたいそうです」マネージャーは眉をひそめた。「法律事務所?」「はい。ご家族からの依頼だそうですが……」「私が代わります」マネージャーは受話器を取った。「お電話代わりました。来栖の担当マネージャーです」弁護士は改めて名乗り、用件を説明した。「実は、鷹宮香子さんのお継母様からご相談を受けております。娘さんがご自宅を出られてから、直接連絡が取れなくなっているとのことでして」「そうですか」「現在、来栖様とご一緒にいらっしゃると伺いましたので、こちらへご連絡した次第です」マネージャーは慎重に答えた。「申し訳ありませんが、香子さんの居場所や連絡先については、お答えできません」「もちろんです。こちらも個人情報をお尋ねするつもりはございません。ただ、ご本人に一度お話を伺えないかと思いまして」「どういったお話でしょうか」「お継母様は、娘さんがご自身の意思で生活されているのか、心配しておられます」マネージャーは黙って聞いていた。「何か、ご心配される事情があるのでしょうか」「ご家族の間で少々行き違いがあったようです。お継母様からは、姉妹喧嘩をきっかけに家を出られたと伺っています」「……姉妹喧嘩、ですか」「はい。その後、ご家族からの連絡に応じられなくなったとのことです」
last updateLast Updated : 2026-10-15
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母親の怒り

「香子、今日、事務所に弁護士から連絡があったんだ」夕食を終えたあと、勇樹が切り出した。「……弁護士さん?」「うん。お母様から依頼された方らしい」香子の表情が強張った。「お母様が……?」「香子が自分の意思でここにいるのか、確認したいそうだよ」香子は膝の上で手を握りしめた。「……私、自分でここにいたいと思っています」「うん。わかってるよ」勇樹は頷いた。「それから、お母様は、香子が姉妹喧嘩をして家を出たと説明しているらしい」「……姉妹喧嘩?」香子の顔から血の気が引いた。あの夜、美紗は二階の手すりにしがみつく自分の指を、一本ずつ剥がしていった。あれを、ただの喧嘩だったことにされてしまうのか。「……違います」香子は震える声で言った。「私、喧嘩なんてしていません……」「わかってる」勇樹はそっと香子の手を握った。「香子が嫌なら、弁護士さんと会う必要もないよ」「……はい」香子はしばらく俯いていた。そして、勇樹を見上げた。「私……お母様のところには帰りたくありません」「うん」「ここに、いたいです」勇樹は微笑んだ。「もちろん。俺も香子と一緒にいたいよ」香子はようやく、少しだけ表情を緩めた。翌日。香子は勇樹とともに、相続手続きを担当する弁護士に相談した。事情を聞いた弁護士は、落ち着いた声で答えた。「香子様が現在の生活をご自身の意思で選ばれているのであれば、問題ありません。先方には、こちらからお返事いたしましょう」「……私が直接お話ししなくても、いいんですか?」「ええ。面談を希望されないのであれば、そのようにお伝えします」香子はほっと息を吐いた。「……ありがとうございます」「ご実家へ戻る意思もない、ということでよろしいですね?」「はい」香子は小さく頷いた。「……帰りたくありません」弁護士はその言葉を確認し、書類に目を落とした。「承知しました」数日後。「……どういうことですか?」久恵は電話口で声を尖らせた。依頼した弁護士から、香子の意思を確認できたという報告があったのだ。『香子様は、現在の生活をご自身の意思で選ばれているとのことです。ご実家へ戻ることも、面談することも希望されていません』「それは、来栖勇樹さんがそう言っているだけではないんですか?」『いいえ。香子様の代理人を通じて、ご本人の
last updateLast Updated : 2026-10-16
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母親として

「……どういうこと?」美紗は首を傾げた。「来栖勇樹に考え直してもらうって、何を?」「香子との交際に決まっているでしょう」久恵は椅子に座り直した。「香子があの男を頼りにしているから、私たちの言うことを聞かなくなったのよ」「じゃあ、別れさせるってこと?」「そうよ」美紗の顔がぱっと明るくなった。「それ、いいじゃない! 私もあんな女が来栖勇樹と付き合ってるなんて、絶対に許せないもの!」「ただし、あなたは余計なことをしないでちょうだい」久恵は釘を刺した。「また勝手に騒ぎを起こされたら困るわ」「……わかってるわよ」美紗は不満そうに唇を尖らせた。久恵はスマートフォンを手に取り、勇樹に関する記事を検索した。映画の出演情報、雑誌のインタビュー、イベントの告知。その中に、香子との交際を取り上げた記事もあった。『来栖勇樹、一般女性との真剣交際。結婚の可能性も?』久恵は記事を開いた。そこには、勇樹が香子の手を取って歩く写真が掲載されていた。「……ずいぶん大切にされているようね」久恵が呟く。「ほんっと腹立つ。どうして香子なんかが選ばれるのよ」美紗が吐き捨てた。久恵は記事の写真をじっと見つめていた。あの男は、香子が家族から離れることを助けた。ならば、香子を守ることが本当に正しいのか、疑問を持たせればいい。「……母親の立場からお願いすれば、話くらい聞いてくれるかもしれないわね」「でも、事務所に電話したって断られるんじゃない?」「だから、電話では駄目なのよ」久恵は別の記事を開いた。来週、勇樹が出演する映画の完成披露イベントが開催されるという。会場には報道陣も集まる
last updateLast Updated : 2026-10-16
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