「……お断りしてください」勇樹は即座に答えた。『承知しました』「完成披露イベントは映画の宣伝のためのものです。個人的な話をする場所じゃありませんから」『おっしゃるとおりです。主催者側にも、そのように伝えておきます』「お願いします」電話を切ると、勇樹は小さく息を吐いた。「……勇樹さん?」香子が不思議そうに顔を上げた。「何かあったんですか?」勇樹は少し迷ったが、隠しておくことでもないと思い、口を開いた。「お母様が、来週の俺のイベントに来ようとしているみたいなんだ」「……えっ?」香子の表情が強張った。「どうして……?」「俺に話があるんだって。事務所から断ってもらったよ」香子は俯いた。「……ごめんなさい」「香子が謝ることじゃないよ」「でも、私のせいで、お仕事にまで……」勇樹は香子の肩にそっと手を置いた。「大丈夫。仕事のことは事務所が対応してくれるから」「……はい」香子は頷いたものの、不安そうな表情は消えなかった。久恵は、昔から自分の思いどおりにならないことを嫌った。香子が何かを断れば、何倍にもなって返ってきた。今回も、これで終わるとは思えなかった。その日の夕方。「……会えない?」久恵は電話口で声を尖らせた。『申し訳ございません。今回のイベントは映画の関係者およびご招待のお客様を対象としておりまして、個人的なご面会はお受けしておりません』「私は来栖さんの交際相手の母親なんですよ?」『恐れ入りますが、ご事情にかかわらず、個別の面会はご案内しておりませ
Last Updated : 2026-10-16 Read more