数日後。美紗は自分の記事についたコメントを眺めていた。『こんな妹がいるのに帰らないって何なんだろ』『美紗さん、本当に優しい』『お姉さんも意地張ってないで一度くらい家族と話せばいいのに』画面を滑らせるたび、同じような言葉が並んでいる。美紗は満足そうに笑った。やはり、自分は間違っていない。勇樹だけがおかしいのだ。そのとき、通知が届いた。先日取材を受けた週刊誌の記者からだった。《追加で少しお伺いしたいのですが、現在、お姉さまがどちらにいらっしゃるかご存じですか?》美紗の指が止まる。香子がどこにいるのか。正確な住所は知らない。けれど――。《来栖さんと一緒にいると思います》そう返そうとして、美紗は一度消した。そして、《詳しいことは分かりません。ただ、姉が家に戻っていないのは事実です》とだけ送った。すぐに返信が届く。《ありがとうございます。ご家族としては、今も帰ってきてほしいというお気持ちでしょうか?》美紗は笑った。《もちろんです。姉の部屋も、そのままにしてあります》送信する。その足元には、香子の部屋から持ち出した破れた本が転がっていた。翌日。新しい記事が公開された。《「姉の部屋は今もそのまま」鷹宮香子さんの妹が明かした家族の思い》記事には、美紗の言葉が並んでいた。――母は今も姉を心配している。――いつ帰ってきてもいいように、部屋も残してある。――家族として話がしたい。そして記事の最後には、こう書かれていた。《一方、香子さんは現在も鷹宮家には戻っていないという。来栖の自宅で生活しているとの情報もあり、二人の関係に改めて注目が集まりそうだ》「同棲ってこと?」「もう完全に彼女じゃん」「家族が部屋残して待ってるのに男の家に住んでるの?」「世界的スターのタワマンなら実家よりそっち選ぶわなw」「妹かわいそ。部屋までそのままにして待ってるんだ」記事は瞬く間に広がっていった。その頃、香子は勇樹の家で洗濯物を畳んでいた。勇樹のシャツを手に取り、丁寧に皺を伸ばす。以前なら、他人の家でこんなことをしている自分に落ち着かなかっただろう。けれど今は違う。ここで何かできることがあるのが、嬉しかった。玄関が開く音がする。「ただいま」香子の顔がぱっと明るくなった。「お帰りなさいませ」リビングへ入ってきた勇
Last Updated : 2026-09-22 Read more