10億のために継母と妹に殺されかけた夜、私は世界的スターに救われる のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

140 チャプター

知らなかった気持ち

「もしかして、妬いてる?」「……え?」香子は目を丸くした。言葉の意味を理解した途端、頬が熱くなる。「ち、違います!」思わず大きな声が出てしまい、近くにいたスタッフがこちらを振り返った。香子は恥ずかしくなり、慌てて声を落とす。「そのようなつもりでお尋ねしたのではありません」「じゃあ、どういうつもり?」勇樹はどこか楽しそうだった。「それは……」答えようとして、香子は困ってしまった。なぜ玲奈との関係が気になったのか。自分でもよく分からない。「ただ、お二人がとてもお似合いでしたから」「俺と玲奈さんが?」「はい。お二人とも有名な俳優ですし、西園寺さんはとてもお綺麗で……」言いながら、また胸の奥がちくりと痛んだ。「玲奈さんとは仕事仲間だよ」「そうなのですか?」「うん。長く一緒に仕事をしてるから、仲はいいけどね」その答えを聞いた瞬間、胸につかえていたものが少しだけ軽くなる。香子はそんな自分に戸惑った。どうして安心しているのだろう。勇樹が誰と親しくしていても、自分には関係のないことなのに。「やっぱり妬いてた?」「違います!」勇樹が声を上げて笑った。「勇樹お兄ちゃん!」「ごめん、ごめん」まったく反省していない。香子は頬を膨らませて、勇樹から顔を背けた。けれど、不思議と嫌ではなかった。「来栖さん、次の準備をお願いします!」スタッフから声がかかる。「分かりました」勇樹は返事をすると、香子へ向き直った。「もう少しかかるけど、大丈夫?」「はい。私は大丈夫ですから、お仕事に集中なさってください」
last update最終更新日 : 2026-09-17
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謎の女性

そこには、見覚えのある高級ホテル。そして大勢の人が見ている中、破れたドレス姿の香子を抱きかかえて歩く勇樹の姿が、はっきりと写っていた。「これ……昨日の……」香子の顔から血の気が引いた。あのときは周囲を見る余裕などなかった。けれど、ホテルには大勢の客がいたのだ。「誰かが撮ってたみたいだね」勇樹は画面を操作した。写真はすでにSNSで広まり始めている。世界的スターの来栖勇樹が、正体不明の女性を抱きかかえて高級ホテルへ入っていく。それだけでも人々の興味を引くには十分だった。「どうしましょう……」「香子?」「私のせいで……」香子の声が震える。「勇樹お兄ちゃんにご迷惑をおかけしてしまいました」「香子のせいじゃないよ」勇樹はすぐに否定した。「でも、私があんな姿で……」破れたドレス。泥で汚れた髪。裸足の自分。そんな女性を世界的スターが抱いてホテルへ入っていくところを撮られたのだ。どんなふうに見られるのか、香子にも想像できた。「申し訳ありません……」俯いた香子の手を、勇樹がそっと包んだ。「謝らないで」「ですが……」「あのときに戻ったとしても、俺は同じことをするよ」香子が顔を上げる。「香子が怪我をしてるのに、写真を撮られるかもしれないからって置いていくほうが嫌だ」「勇樹お兄ちゃん……」勇樹の顔には、後悔など少しもなかった。それどころか、香子のほうを心配している。「香子の顔がはっきり写ってないのはよかった」「私の
last update最終更新日 : 2026-09-17
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謎の美女の正体

「その『謎の美女』が、どんな女なのか」美紗はスマートフォンを手に、自分の部屋へ戻った。記事には、香子と勇樹について好き勝手な憶測が書かれている。――来栖勇樹の新恋人?――謎の美女をお姫様抱っこ。――大切そうに抱えていた。どれも気に入らなかった。「何が美女よ」美紗は吐き捨てる。自分より地味で、何をされても言い返せなかった香子。その姉が突然、世界的スターの隣で注目を浴びている。美紗には、それが許せなかった。しばらく考えたあと、美紗は記事への書き込みを始めた。『この人、知ってるかも』それだけ投稿する。ほどなくして反応がついた。『誰?』『知り合い?』『どんな人?』美紗の口元に笑みが浮かぶ。『昔から男の人に取り入るのが上手な人だよ』さらに続けた。『お嬢様みたいに見えるかもしれないけど、全然違う』『来栖勇樹とどういう関係なのかは知らないけど、私はあんまりいい印象ないな』名前は出さない。自分が妹だとも書かない。それでも十分だった。『やっぱり彼女なのかな』『ホテルだもんね』『服ボロボロなの何で?』『普通の状況には見えない』美紗は満足そうに画面を眺めた。もっと騒げばいい。もっと疑えばいい。香子だけが幸せになるなんて、許さない。   その頃。香子は勇樹とともに家へ戻っていた。「本当に、私のことは公表しなくてよろしいのですか?」「今はね」勇樹は上着を脱ぎながら答えた。「名前も顔も出てないんだから、わざわざ香子を人前に出す必要はないよ」「ですが、勇樹お兄ちゃんが誤
last update最終更新日 : 2026-09-17
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もう黙っているだけじゃない

「香子を好き勝手に傷つけさせるつもりはないから」勇樹はそう言うと、事務所へ電話をかけた。写真が出回っていること。香子について、事実ではない書き込みが始まっていること。必要なことだけを簡潔に伝えていく。電話を終えると、香子は不安そうに尋ねた。「ご迷惑ではありませんか?」「迷惑じゃないよ。事務所も対応してくれるって」「でも……」また自分のせいで、たくさんの人を巻き込んでいる。そう思うと、胸が苦しくなる。「香子」勇樹が隣に座った。「何度でも言うけど、香子は何も悪くないよ」「……はい」そう言ってもらえても、すぐには気持ちを切り替えられなかった。香子はもう一度、スマートフォンの画面を見る。最初は一つだけだった書き込みが、いつの間にか大勢に拡散されていた。『昔から男の人に取り入るのが上手な人』『あんまりいい印象ない』たったそれだけの言葉から、知らない人たちが勝手な想像を膨らませている。『やっぱり売名?』『世界的スター捕まえてホテルってすごいな』『来栖勇樹も女を見る目なかったんだ』「違うのに……」香子の口から、思わず声が漏れた。「私、そんなことしていないのに」「うん」「勇樹お兄ちゃんとは、昨日ようやく再会したばかりです。それなのに……」悔しかった。今までも久恵や美紗から、何度も理不尽なことを言われてきた。そのたびに黙っていた。言い返したところで、もっとひどいことをされるだけだったから。けれど今度は、自分のことを何も知らない人たちにまで嘘を信じられている。それだけではない。勇樹まで悪く言われていた。「
last update最終更新日 : 2026-09-17
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あふれだす悪意

『この女、鷹宮香子っていうんだけど――』自分の名前を見た瞬間、香子の身体が固まった。「どうして……」写真には顔がはっきり写っていない。記事にも名前は出ていなかった。それなのに、投稿にははっきりと「鷹宮香子」と書かれている。その下には、さらに文章が続いていた。『鷹宮家の娘だよ。昔から家族に迷惑ばかりかけてて、最近とうとう家を出たらしい』「……違います」香子の唇が震えた。『家族はずっと面倒を見てあげてたのに、本人は感謝もしなかったって』『来栖勇樹とどうやって知り合ったんだろ』その書き込みをきっかけに、面白がるような言葉が次々と並び始めた。『鷹宮家って金持ちじゃん』『金持ちのお嬢様なら芸能人とも遊べるってこと?』『世界的スターまで金の力で好きにできるの強すぎ』『来栖勇樹いくらで落としたのw』『高級ホテルまでセットなの笑う』『これ熱愛じゃなくて、お嬢様のお遊びだったりして』「そんな……」香子は呆然と画面を見つめた。何も知らない人たちが、ほんのわずかな情報だけで好き勝手なことを言っている。勇樹との再会まで、金で買った遊びのように扱われていた。「私、こんなこと……」「分かってる」勇樹が静かに答えた。けれど、書き込みは止まらない。『来栖勇樹も金持ちのお嬢様には弱いんだな』『夢壊れたわ』『結局、金持ち同士で遊んでるだけか』最後の一文を読んだところで、香子はスマートフォンから目を逸らした。自分の悪口だけなら、まだ耐えられたかもしれない。けれど、勇樹まで悪く言われている。「……ごめんなさい」「香子」
last update最終更新日 : 2026-09-17
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これが本当の私?

『これが本当の鷹宮香子』その言葉の下に、パーティー会場で撮られた写真があった。香子は息をすることも忘れたように画面を見つめた。「これ……」間違いない。あの夜の自分だった。母のドレスは赤いジュースとクリームで汚れ、髪も乱れている。周囲から遠巻きに見られながら、俯いて立ち尽くしている姿。見ているだけで、あのときのことが蘇ってきた。美紗にジュースをかけられたこと。母のドレスを踏みつけられたこと。頭からケーキを浴びせられたこと。そして――誰も助けてくれなかったこと。「香子」勇樹の声で、香子は我に返った。写真には、さらに説明が付け加えられていた。『この前のパーティーでも散々周りに迷惑かけてた』『注意されたら不機嫌になって、こんな格好でずっと会場にいたんだよ』「……違う」香子の声が震えた。自分からこんな格好になったわけではない。迷惑などかけていない。けれど、写真だけを見た人には分からない。『何したらパーティーでこんなことになるのw』『想像してたお嬢様と違いすぎる』『来栖勇樹が抱えてた女、この人なの?』『ホテルの写真だと悲劇のヒロインっぽかったけど、こっち見ると印象変わるな』『金持ちのお嬢様のパーティーってこんな修羅場なの?』面白がるような言葉が次々と増えていく。香子の指先が冷たくなった。本当のことは、まるで違うのに。一枚の写真と、たった数行の嘘だけで、自分が悪かったことにされていく。「もういい」勇樹がスマートフォンを伏せた。「見なくていいよ」「でも……」「香子は何もしてない」その言葉に、香子は俯いた。「……誰も、信じてくれません」「俺は信じてる」すぐに返ってきた。香子が顔を上げる。「俺はあの日の香子を見てる。怪我をして、靴もなくして、それでも一人で歩いてきた香子を」勇樹の声は静かだった。「だから、こんな書き込みで香子を見る目が変わったりしないよ」「勇樹お兄ちゃん……」涙が滲んだ。勇樹が信じてくれている。それは嬉しい。けれど、怖さは消えなかった。画面の向こうには、顔も名前も知らない大勢の人がいる。その人たちが自分の名前を知り、嘘を信じて、笑っている。「私……外に出ても、大丈夫なのでしょうか」口にした途端、自分でも怖くなった。昨日まで当たり前だったことまで、できなくなってし
last update最終更新日 : 2026-09-18
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家族しか知らない写真

「どうして、この写真を持っているの……?」香子は震える指で画面を見つめた。写真が撮られた日のことを、かすかに覚えている。祖父母の屋敷の庭だった。母が香子の髪に白いリボンを結んでくれて、祖母が何度も「かわいい」と褒めてくれた。父も母も笑っていた。まだ、家族みんなが幸せだった頃の写真。「これ、ネットに出したことは?」勇樹に尋ねられ、香子は首を横に振った。「ありません。ずっと家にあったものです」「鷹宮家に?」「はい。アルバムに入っていたはずです」答えながら、香子の胸がざわついた。鷹宮家。そこにあるアルバム。そして、自分の名前や家を出たことまで知っている人間。考えたくないのに、一人の顔が浮かんでしまう。「……美紗」小さく呟く。あのパーティーで撮られた写真も、美紗なら持っていておかしくない。香子が家を出たことも知っている。「美紗さんなら、この写真を持ち出せる?」「……はい」香子は俯いた。「でも、本当に美紗なのかは……」最後まで言葉にすることができなかった。けれど、考えれば考えるほど、美紗の顔が頭から離れない。あのパーティーで撮られた写真。鷹宮家を出たこと。そして、家に置いてあったはずの古いアルバム。偶然だと思うには、知っていることが多すぎた。勇樹は黙って、もう一度投稿へ目を落とした。古い家族写真は、すでにあちこちへ転載され始めている。『子供の頃からガチのお嬢様じゃん』『実家めちゃくちゃ金持ちそう』『これなら来栖勇樹と遊んでても不思議じゃないか』『金持ちの娘が世界的スターまで手に入れたってこと?』
last update最終更新日 : 2026-09-18
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かわいそうな家族

『かわいそう。こんなに優しそうな家族を捨てて、男のところに逃げたんだ』香子は、画面に映る二人を見つめた。久恵と美紗が、肩を寄せ合って笑っている。写真だけを見れば、仲のいい母娘にしか見えない。その下には、すでにいくつもの書き込みが並んでいた。『お母さん美人だし、妹もかわいい』『普通にいい家族に見えるけど』『こんな家族捨てて世界的スターのところ行ったの?』『金持ちで家族にも恵まれてるのに、まだ足りないんだ』「違う……」香子は思わず呟いた。久恵は母ではない。美紗から姉として慕われた記憶もない。けれど、画面の向こうにいる人たちには分からない。「私、捨てたわけではありません」「香子」「だって、私は……」言いかけた瞬間、あの夜の光景が蘇った。背中を押された。バルコニーの外へ投げ出され、必死に手すりにつかまった。そして美紗は、その指を一本ずつ剥がした。――あんたさえいなくなれば……全部、私のものになるのよ。香子の身体が震えた。勇樹がすぐに肩を抱く。「……寒い?」香子は首を横に振った。「違います。あのときのことを、思い出してしまって……」勇樹の腕に力がこもった。香子はその温もりに縋るように身を寄せる。逃げたのではない。殺されそうになったのだ。それなのに今は、自分が家族を捨てたことになっている。「ひどい……」涙がこぼれた。「どうして、こんな……」勇樹は何も言わず、香子を抱き寄せた。その胸に顔を伏せているうちに、震えが少し
last update最終更新日 : 2026-09-19
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優しい妹

『お姉さまがいつか帰ってきてくださることを、母と二人で待っています』香子は何度もその文章を読み返した。まるで知らない人が書いた文章のようだった。「帰ってきてって……」声が掠れる。帰ったばかりだ。母の遺品を取りに、勇樹と一緒にあの家へ戻った。そのとき美紗は、香子が大切にしていた母の遺品をすべて捨てたと言って笑った。つい数日前には、バルコニーから香子を突き落とした。それなのに――。『妹さん優しすぎる』『お姉さんに色々言いたいことあるだろうに責めないんだ』『お母さんと二人で待ってるってつらいな』『家族捨てて男のところ行った姉をまだ待ってるの?』『妹さんかわいそう』美紗を慰める言葉が次々と並んでいく。香子は信じられない気持ちでそれを眺めていた。誰も知らない。あの夜、何があったのか。美紗がどんな顔で自分の指を手すりから剥がしたのか。「……みんな、美紗を信じているんですね」勇樹は画面へ目を向けた。「美紗さんは名前も顔も出して話してるからね」その言葉に、香子は胸を締めつけられた。美紗には顔がある。名前もある。仲睦まじい母娘の写真もある。けれど香子には、何もない。ネットにあるのは、ジュースとケーキで汚れた惨めな姿だけだ。もし自分が本当のことを話したら、どうなるのだろう。――妹に殺されそうになりました。そんなことを突然言って、信じてもらえるのだろうか。むしろ、もっとひどいことを言われるのではないか。「私が……」言いかけて、香子は口を閉ざした。「どうしたの?」「……いいえ」香子は首を横に振
last update最終更新日 : 2026-09-19
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公式声明

勇樹は投稿画面を開いたものの、すぐに文字を打つことはしなかった。事務所へ連絡し、これまでの経緯を伝える。それからしばらくして、来栖勇樹の所属事務所から正式な声明が発表された。ホテルで撮影された女性は、勇樹が以前から面識のある大切な知人であること。当時、彼女は怪我をしており、安全を確保するためにホテルへ連れていったこと。そして、現在ネット上で広がっている情報には事実と異なるものが含まれているため、憶測による情報の拡散や誹謗中傷を控えてほしいという内容だった。香子は何度も文章を読み返した。「私のことまで……」名前は出ていない。それでも、自分を守るために書かれた言葉だと分かった。ところが――。声明が広がるにつれ、香子が想像していたものとはまるで違う反応が増え始めた。『大切な知人って何だよw』『恋人じゃないなら余計に怖いんだけど』『怪我した女を自宅でも病院でもなく高級ホテルに連れ込んだって自分で認めてんの?』『鷹宮香子、世界的スターにここまで庇わせるとか何吹き込んだんだよ』『家族捨てて男の家に逃げ込んだだけでもヤバいのに、今度は事務所まで使うの?』「違う……」香子の顔が強張った。声明には、そんなことは一言も書かれていない。それなのに、書き込みはどんどん激しくなっていく。『金持ち令嬢+世界的スター+大手事務所とか無敵じゃん。一般人の家族かわいそ』『妹さん消されそう』『これ「黙れ」って脅してるのと同じだろ』『誹謗中傷やめろって便利な言葉だよな。都合悪いこと全部誹謗中傷扱い?』『家族に迷惑かけて逃げた女が、今度は芸能人の権力で被害者ヅラかよ』『鷹宮香子って相当ヤバい女なんじゃない?』『来栖も完全に操られてるじゃん』『金で男買って、その男の事務所まで盾にするとか性格終わってる』
last update最終更新日 : 2026-09-19
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