翌朝。香子が目を覚ますと、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。昨夜はなかなか眠れなかった。目を閉じるたびに、画面に並んでいた言葉が浮かんできたからだ。――金で男を買った。――家族を捨てた。――性格が悪い。会ったこともない人たちの言葉なのに、頭から離れてくれない。リビングへ向かうと、勇樹はすでに起きていた。「おはよう、香子」「おはようございます」テーブルには朝食が用意されている。香子が椅子に座ると、勇樹はいつもと変わらない様子でコーヒーを飲んでいた。その姿を見て、少しだけ安心した。「今日は、お仕事ですか?」「うん。午後から撮影があるよ」「そうですか」昨日までなら、素直に送り出せた。けれど今日は違う。自分のせいで勇樹まで悪く言われている。撮影現場でも何か言われるのではないか。そう考えると、不安になった。「……大丈夫でしょうか」「何が?」「お仕事です。私のことで、ご迷惑が……」そのとき、勇樹のスマートフォンが震えた。画面を確認した勇樹の手が止まる。「どうなさいました?」「今日の撮影、時間が変わったみたいだ」それだけ言って、勇樹はスマートフォンを伏せた。けれど、香子は気づいてしまった。一瞬だけ見えた画面には、もっと長い文章が表示されていた。「本当に、それだけですか?」勇樹は少し黙った。やがてスマートフォンを手に取る。「今日撮る予定だったシーンに、スポンサーの商品が映るんだ」「スポンサー……?」「今回の騒ぎが落ち着くまで、そのシーンだけ後日にしたいって」香子の胸が締めつけられた。
Last Updated : 2026-09-19 Read more