――香子へ。封筒に書かれた文字を、香子はしばらく見つめていた。「おばあさまの字です」懐かしい。丸みのある、丁寧な文字。香子はそっと封筒を開いた。中に入っていた便箋を広げる。『香子ちゃんへ今日は一緒にお庭にお花を植えられて、とても楽しかったです。香子ちゃんが選んだ黄色いお花、きれいに咲くといいですね。今度遊びに来るころには、咲いているかもしれません。そのときは、一緒に見ましょうね。おばあちゃんより』「……これ」香子は小さく笑った。「覚えています」「花?」「はい。黄色いお花がいいって、私が選んだんです」庭の片隅。小さな手で土を掘った。うまくできなくて、祖父が手伝ってくれた。祖母は少し離れたところから、笑って見ていた。香子は引き出しの中を見る。まだ何通もある。一通ずつ手に取った。『ピアノ、とても上手になりましたね。今度はおじいちゃんの好きな曲も弾いてあげてください』『クッキー、とてもおいしかったです。また一緒に作りましょう』『寒くなってきました。風邪をひかないように、暖かくして過ごしてくださいね』どれも、特別なことは書かれていない。幼い孫へ向けた、何でもない手紙だった。「おばあさま、よくお手紙をくださったんです」香子は懐かしそうに言った。「ここから帰るときに渡してくださって。家に帰ってから読みなさいって」「そうだったな」「勇樹お兄ちゃんにも?」「俺も何度かもらったよ」「やっぱり」香子は笑った。けれど、次第に文字が滲んでいく。「……私」声が震えた。「お金のことなんて、知
最終更新日 : 2026-09-28 続きを読む