10億のために継母と妹に殺されかけた夜、私は世界的スターに救われる のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

140 チャプター

おばあさまの手紙

――香子へ。封筒に書かれた文字を、香子はしばらく見つめていた。「おばあさまの字です」懐かしい。丸みのある、丁寧な文字。香子はそっと封筒を開いた。中に入っていた便箋を広げる。『香子ちゃんへ今日は一緒にお庭にお花を植えられて、とても楽しかったです。香子ちゃんが選んだ黄色いお花、きれいに咲くといいですね。今度遊びに来るころには、咲いているかもしれません。そのときは、一緒に見ましょうね。おばあちゃんより』「……これ」香子は小さく笑った。「覚えています」「花?」「はい。黄色いお花がいいって、私が選んだんです」庭の片隅。小さな手で土を掘った。うまくできなくて、祖父が手伝ってくれた。祖母は少し離れたところから、笑って見ていた。香子は引き出しの中を見る。まだ何通もある。一通ずつ手に取った。『ピアノ、とても上手になりましたね。今度はおじいちゃんの好きな曲も弾いてあげてください』『クッキー、とてもおいしかったです。また一緒に作りましょう』『寒くなってきました。風邪をひかないように、暖かくして過ごしてくださいね』どれも、特別なことは書かれていない。幼い孫へ向けた、何でもない手紙だった。「おばあさま、よくお手紙をくださったんです」香子は懐かしそうに言った。「ここから帰るときに渡してくださって。家に帰ってから読みなさいって」「そうだったな」「勇樹お兄ちゃんにも?」「俺も何度かもらったよ」「やっぱり」香子は笑った。けれど、次第に文字が滲んでいく。「……私」声が震えた。「お金のことなんて、知
last update最終更新日 : 2026-09-28
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ここにいた時間

庭を歩いていると、香子は何度も足を止めた。「あ……ここ」「今度は何?」「ブランコがあったんです」香子が指さした先には、大きな木がある。今は何もない。けれど太い枝から吊るされたブランコに乗って、祖父に背中を押してもらったことを覚えている。「もっと高くって、ずっと言ってました」「言ってたな」「勇樹お兄ちゃんも覚えているんですか?」「俺が押したこともあるよ」「え?」香子が振り返る。「覚えてません……」「ひどいな」勇樹が笑った。「結構頑張って押したんだけど」「ご、ごめんなさい」「冗談だよ」二人で笑いながら、さらに庭の奥へ進む。しばらくすると、古い東屋が見えてきた。香子の足が自然と速くなる。「まだある……!」「ここも覚えてる?」「もちろんです」屋根の下に入る。古いベンチもそのままだった。香子は懐かしそうに腰を下ろす。「ここでよく、おばあさまとお茶を飲んでいました」「香子は紅茶よりジュースだったけどね」「子どもだったんですから、当然です」少しむっとして答えると、勇樹が楽しそうに笑った。こんなふうに昔のことを話せる相手がいる。それが香子には不思議だった。父も、祖父母も、もういない。自分だけが取り残されたように思っていた。けれど勇樹は知っている。幼かった自分を。祖父母が生きていたころの自分を。「勇樹お兄ちゃん」「ん?」「おじいさまとおばあさまは、勇樹お兄ちゃんにとって、どんな方だったんですか?」勇樹は少し考えてから、庭を見た。「恩人かな」「恩人……?」「まだ仕事がほとんどなかったころ、随分助けてもらったから」香子も以前、その話は聞いていた。けれど、この家で聞くと、少し違って感じる。「ここにも、よく来ていたんですよね」「うん。仕事がない時期は特にね。ご飯を食べさせてもらったり、相談に乗ってもらったり」勇樹が苦笑する。「売れてない役者なんて、先があるのかも分からないから」今では世界的スターと呼ばれる人にも、そんな時代があった。「おばあさま、勇樹お兄ちゃんのことがテレビに出るたび、喜んでいました」「知ってる。出演時間が三分くらいでも電話がかかってきた」「ふふっ」香子は思わず笑った。想像できる。祖母なら、きっとそうした。「それで香子が出てきて」「私が?」「俺のことを見
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迫る謎の男

数日後。香子は一人で、駅前の花屋を訪れていた。祖父母の屋敷へ行った帰り、勇樹と交わした約束がずっと頭に残っていたからだ。――今度行くとき、おばあさまの好きだった花を植えたいです。今すぐ植えるわけではない。けれど、どんな花があるのか見てみたくなった。店先に並んだ鉢植えを眺めていると、黄色い小さな花が目に留まる。「……かわいい」思わず笑みがこぼれた。そのときだった。「え、待って待って」背後から、興奮したような男性の声が聞こえた。「え? マジ? 本人じゃね?」自分のことだとは思わず、香子は黄色い花へ手を伸ばす。「鷹宮香子さんですよね?」名前を呼ばれ、びくりと肩が跳ねた。振り返る。見知らぬ男性が立っていた。その手に握られたスマートフォンのカメラが、まっすぐ自分へ向けられている。「……あの」「うわ、やっぱりそうだ! すご!」男性は香子ではなく、スマートフォンへ向かって話している。「ちょっとみんな、本人いたわ。これすごくない?」香子の胸がざわついた。週刊誌。自宅の前に集まった記者たち。何度も向けられたカメラ。嫌な記憶が、一気に蘇る。「あの……撮らないでください」「え? ちょっと待ってください。一個だけ! 一個だけ聞いていいですか?」男性が近づいてくる。香子は反射的に一歩下がった。「妹さんがずっと心配してるって言ってるじゃないですか。来栖勇樹さんと一緒に住んでるのって――」「すみません」それ以上聞きたくなくて、香子は踵を返した。「あっ、ちょ、待って!」足早に歩く。後ろから足音がついてくる。「え、逃げる? 逃げるんだ! ちょっと待ってくださいって!」笑いを含んだ声だった。怒鳴られているわけでもない。脅されているわけでもない。それなのに、ひどく怖かった。香子は人通りの多い通りへ出ると、目についた大きな商業施設へ飛び込んだ。そのまま人混みの中を進む。何度か振り返ったが、もう男性の姿は見えなかった。それでもすぐには外へ出られなかった。しばらく店内を歩き、別の出口から出てタクシーを拾う。行き先を告げてから、香子はようやく息を吐いた。手が震えていた。ただ声をかけられただけだ。そう思おうとしても、スマートフォンを向けられた瞬間が頭から離れなかった。「知らない男に?」帰宅した勇樹の表情が変わ
last update最終更新日 : 2026-09-28
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逃げても動画になる

翌朝。吉田輝和は、目を覚ますなりスマートフォンを手に取った。「うわ、まだ伸びてる」昨日、『ヨシテルチャンネル』に投稿した動画は、普段とは比べものにならないほど再生されていた。コメントも増え続けている。『本人じゃん』『来栖とマジで同棲してんの?』『昔の男のこと聞いてくれw』『妹捨ててイケメン俳優の家に転がり込んだ女』『来栖とはもうヤッてんの?』「お前ら最低だな」吉田は笑いながら呟いた。「まあ、そこは俺もちょっと気になるけど」ベッドから起き上がり、今度はパソコンを開く。『鷹宮香子 来栖勇樹』検索すると、記事はいくらでも出てきた。――世界的スター・来栖勇樹、渦中の女性との同居を認める。――「姉を返して」妹が悲痛告白。――学生時代の親密写真も。来栖勇樹の恋人に浮上した「過去の男」。「何これ。めちゃくちゃ面白いじゃん」記事を開く。文化祭の写真。ホワイトデー。男性と手を繋いでいるように見える写真。「彼氏いたんじゃん」もちろん、記事には交際していたとは書かれていない。だが、吉田はそんなことを気にせず次の記事を開いた。そこには、美紗のインタビューが載っている。『ただ、もう一度姉と話がしたいんです』『以前の姉とは、まるで別人のようで……』『来栖さんを責めたいわけではありません。ただ、姉が本当に自分の意思でいるのか心配なんです』「うわあ……妹かわいそ」言いながら、吉田はニヤニヤと画面を眺めた。「姉ちゃんは世界的スターと同棲。妹は連絡も取れませんって、昼ドラかよ」スマートフォンが鳴る。新しいコメントだった。『昨日の場所、○○駅だよね?』その下にも
last update最終更新日 : 2026-09-28
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また、あの人がいる

それから三日。香子は一度も、一人で外へ出なかった。あの日のことを思い出すと、どうしても足が竦んでしまう。けれど今日は、出かけなければならなかった。転落したときに負った怪我の経過を診てもらうことになっていたからだ。玄関で靴を履いていると、勇樹が上着を手にやってきた。「今日、病院俺も行くよ」「でも、お仕事は?」「午後からだから大丈夫」香子は少しだけ表情を緩めた。「……ありがとうございます」一人ではない。それだけで、玄関のドアを開ける怖さが少し薄れた。診察では、傷は順調に治っていると言われた。病院を出たあと、近くの薬局で薬を受け取り、二人は駐車場へ向かった。「思ったより早く終わったね」「はい」「どこか寄っていく?」香子は少し迷ってから、首を横に振った。「今日は、このまま帰りたいです」「わかった」勇樹はそれ以上何も言わなかった。香子は小さく息を吐く。病院へ来るだけなのに、ずっと周囲を気にしていた。スマートフォンをこちらへ向けている人はいないか。自分を見ている人はいないか。けれど、何も起きなかった。もうすぐ車に着く。そう思ったときだった。「――えっ」聞き覚えのある声に、香子の足が止まった。「待って待って待って!」心臓が大きく跳ねる。振り返るより先に、身体が強張った。「うわ! マジじゃん!」香子はゆっくりと顔を上げた。少し離れた場所に、スマートフォンを掲げた男がいる。三日前、駅前で自分を追いかけてきた男だった。吉田輝和。「きたきたきた! ちょっとみんな、いた! 今日いたわ!」吉田はスマートフォンに向かって興奮した声を
last update最終更新日 : 2026-09-29
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今度は偶然じゃない

帰宅してからも、香子は落ち着かなかった。カーテンの隙間から外を見る。いつもと変わらない景色だった。当然、あの男の姿もない。それでも、すぐにカーテンを閉じた。「香子」名前を呼ばれて振り返る。勇樹がスマートフォンを手に立っていた。「マネージャーに連絡した。事務所にも伝えてくれるって」「……ご迷惑をかけてしまって、すみません」「香子が謝ることじゃないよ」勇樹はそう言ってから、手にしていたスマートフォンへ目を落とした。さっきの配信は、すでにあちこちに切り抜かれていた。『来栖勇樹、突撃系配信者に激怒』『「もう香子に近づかないで」来栖勇樹が生配信で警告』そんな文字が並んでいる。香子も画面を覗き込み、表情を曇らせた。「勇樹さんまで……」「俺のことはいいよ」「でも……」そのとき、勇樹のスマートフォンが鳴った。マネージャーからだった。勇樹が電話に出る。「はい」『動画、確認しました』「すみません」『来栖さんが謝ることではありません。ただ、次に同じことがあっても、できるだけカメラの前で相手をしないでください』勇樹が眉を寄せる。『向こうは来栖さんが反応するほど喜びます。今回も、来栖さんが映った動画だけ再生数が跳ねていますから』「じゃあ、何も言わずに香子を撮らせろってことですか?」『そうは言っていません。こちらでも対応を考えます』マネージャーは淡々と続けた。『とにかく、これ以上あの配信者に使える映像を与えないでください』「……わかりました」通話を終え、勇樹は息を吐いた。「怒られてしまいましたか?」「いや。次から
last update最終更新日 : 2026-09-29
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求む、目撃情報

翌日。吉田輝和は、昨日と同じスーパーの近くにいた。「はい、今日も来ました」スマートフォンを向けながら歩くと、すぐにコメントが流れ始める。『本当に来たw』『張り込みじゃん』『香子待ち?』「違うって。昨日、来栖見たってやついたじゃん? だからこの辺来てみただけ」『それを張り込みって言うんだよ』「うるせえな!」吉田は笑いながらスーパーへ入った。飲み物を一本買い、店内を適当に歩く。けれど、香子どころか勇樹の姿もない。「いねえじゃん」『そりゃ毎日来ないだろ』『昨日がたまたまだったんじゃね?』「いや、でも前にも見たってやついたじゃん」『知らん』『ガセかもよ』「えー」結局、その日は何の収穫もなかった。翌日も。さらに、その翌日も。吉田は時間を変えながら、その辺りをうろついた。「今日もいねえ!」『三日目w』『暇人』『もう諦めろ』「いや、おかしくね?」吉田はベンチに座り、スマートフォンへ顔を近づけた。「来栖、ここで買い物してたんだろ?」『毎日買い物するわけじゃない』『避けられてんじゃねw』「俺がここにいるって知らねえだろ!」『配信見てたりして』『香子もう外出てないんじゃね?』『お前のせいでw』「何で俺のせいなんだよ!」吉田は笑った。「別に俺、何もしてねえじゃん。話聞こうとしただけだろ」『追いかけてたじゃん』『来栖に近づくなって言われてたw』「追いかけてねえよ! 同じ方向だっただけ!」『まだ言ってるw』コメント欄は盛り上がっている。けれど、肝心の数字は明らかに落ちていた。
last update最終更新日 : 2026-09-29
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500円の賞金首

「多すぎだろ!」翌朝。吉田輝和は、スマートフォンを見ながら笑っていた。昨夜から届き続けているメッセージは、すでに百件を超えている。『来栖っぽい人がコンビニにいた』『駅前で見ました』『昨日、黒い車に乗ってるの見た』『香子さんに似てる人いました!』『たぶん本人です』「たぶんじゃ五百円やらねえからな!」吉田は一件ずつ開いていった。写真が添えられているものも多い。「いや、誰だよこれ!」どう見ても別人の女性。「これも違うだろ!」帽子を被った男性の後ろ姿。『来栖じゃない?』「男なら何でも来栖にすんな!」コメント欄が笑いで埋まる。『判定厳しいw』『500円払う気ないだろ』『ヨシテルケチ』「当たり前だろ! こんなん全部に払ってたら俺が破産するわ!」次のメッセージを開く。『香子さん見つけました』「お?」添付された写真を開いた吉田が黙る。『どう?』『本人?』「……いや、これ」写真には、長い髪の女性が小さな子供の手を引いて歩いている姿が写っていた。「子供いるじゃねえか!」『隠し子www』『新展開』『記事にしろ』「しねえよ!」吉田は笑いながら次へ進んだ。くだらない。けれど、面白かった。いつもの配信よりコメントも多い。視聴者まで一緒になって香子を探していること自体が、ひとつの企画になっていた。「次!」また写真を開く。その瞬間。「あ」吉田の手が止まった。コンビニから出てくる男性。帽子を深く被っている。顔の半分ほどしか見えない。けれど。「これ、来栖じゃね?」『似てる』『本人じゃん』『服この前と同じじゃね?』『来栖だろこれ』吉田は以前の配信を確認した。病院で香子と一緒にいたときの勇樹。確かに、よく似た上着を着ている。「これガチっぽいな」送信者に連絡する。『これ、いつ撮った?』返事はすぐに来た。『昨日』『500円?』吉田が笑った。「こいつ、金のことしか聞かねえ!」『払えw』『約束しただろ』『500円ハンター第一号』「わかったよ!」吉田はその場で五百円を送った。しばらくして。『マジで来たwww』そのメッセージを吉田が読み上げる。「当たり前だろ! 俺、払うって言ったじゃん!」『俺も探す』『今日から本気出す』『500円ほしい』『近所だから見てくるわ』
last update最終更新日 : 2026-09-30
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今いるなら1000円

「今日も来てんじゃん」「五百円ほしいんで」「俺、近所だから帰り道に探してるw」吉田は届いたメッセージを読み上げながら笑った。千円に値上げしたのは、リアルタイムの目撃情報だけだ。それ以外は相変わらず五百円。それなのに、昨日より明らかに情報が増えていた。『来栖っぽい人いた』写真を開く。「違う違う。これただの背高い男じゃん」『香子さんかも』「髪型しか合ってねえよ!」『この車、来栖のじゃない?』「車だけ送られても知らねえよ!」役に立たない情報ばかりだ。けれど、そのたびにコメント欄は盛り上がる。『0円判定w』『厳しい』『今日まだ誰も賞金取ってない?』「取ってない。お前らもっと頑張れよ!」『じゃあ2000円にしろ』「嫌だよ!」吉田は笑いながら次のメッセージを開いた。最近では、配信を始めるとすぐに情報が送られてくる。吉田自身が近所を何時間もうろつく必要すらなくなっていた。誰かが見かける。写真を撮る。送ってくる。吉田はそれが本物かどうか判定する。それだけで配信になる。「これ楽だな」『他力本願w』「効率がいいって言えよ」そう言ったときだった。新しいメッセージが届いた。『来栖いた』「また?」写真を開く。スーパーの袋を提げた男の後ろ姿だった。『今?』『10分前』「十分钟前かあ」『近所?』『また同じ辺りじゃん』『1000円?』「香子さんじゃないから五百円」『来栖かわいそうw』「だって今探してんの香子さんだもん」吉田は笑いながら、送
last update最終更新日 : 2026-09-30
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偶然じゃない

診察は、思っていたより早く終わった。「傷もだいぶ良くなっていますね」医師にそう言われ、香子はほっとして診察室を出た。勇樹は廊下で待っていた。「どうだった?」「順調だそうです」「よかった」勇樹が笑う。その顔を見て、香子も少しだけ笑った。今日は何事も起きていない。病院へ入るときには周囲が気になって仕方なかったが、少しずつ緊張も解けていた。「薬は?」「今日はありません」「じゃあ帰ろうか」「はい」二人でエレベーターへ向かう。その途中、香子が足を止めた。「勇樹さん」「ん?」「帰りに、スーパーへ寄ってもいいでしょうか」勇樹が少し驚いた顔をする。「買いたいものある?」「はい。それに……」香子は少し迷った。「いつまでも勇樹さんにお願いしてばかりでは、申し訳ないですから」「そんなこと気にしなくていいのに」「私が気になるんです」そう言うと、勇樹が笑った。「わかった。じゃあ一緒に行こう」「はい」病院を出る。外はよく晴れていた。香子は眩しさに目を細める。久しぶりに、少しだけ普通の一日を過ごせている気がした。「まだいるって!」移動しながら、吉田は何度もスマートフォンを確認していた。『間に合う?』『もう帰るだろ』『急げヨシテル』「わかってるって!」情報を送ってきた視聴者からは、その後もメッセージが届いている。『まだ病院の中』『来栖もいる』吉田の足取りが速くなる。「これマジで千円の価値あったわ」『安すぎw』『情報屋優秀』
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