All Chapters of 前世で私を壊した夫から、二度目の人生では逃げ切りたい ~冷徹な復讐者は私を二度と離さない~: Chapter 61 - Chapter 70

105 Chapters

第五十九話 百合絵の公開処刑 9

「本物の招待状なら普通に会場へ入れてしまうから、わざと偽物を送ったって言ってました。それで受付で止められたところをみんなに見せて、『本当は招待されてないのに勝手に来た女』にするって……」「やめなさい!」「そのあと直之さんとの縁談も嘘だってことにして、それからブローチを――」「やめてって言ってるでしょう!!」 百合絵の絶叫が響いたが、しかしもう遅かった。 直之は怒鳴ることすらせず、冷えきった目で百合絵を見つめていた。「これでも、間違えて送ったと言うのか?」「……」 もうなにも言うことができなかった。「百合絵、もう終わりにしよう」 その言葉が、心を砕いていく。 終わるってどういうこと? なにを? 認めたくない。直之を瑠理子に盗られたくない! どうしたらいいの。 どうしたら止められるの――「偽の招待状を送って瑠理子をここへ呼び出した。受付で恥をかかせ、僕の婚約者を名乗る嘘つきに仕立て、ブローチとカメオを仕込んで窃盗犯にしようとした。さらに大勢を煽って暴力まで振るわせた」 直之は一度、赤く腫れた瑠理子の手へ視線を落とした。 その瞬間、再び激しい怒りが瞳の奥に浮かぶ。「全部、百合絵が仕組んだことだ」「……違う」「まだ言うの?」「違う……違うわよ……」 百合絵は首を横に振った。 けれど、もう自分でも何を否定しているのか分からなかった。
last updateLast Updated : 2026-10-09
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第六十一話 君より大事なものなんてない

 半狂乱の百合絵が引きずられ、会場の出口へ向かう間、誰一人として、百合絵を引き止めなかった。 そし先ほど証言した女と、カメオを持ち出した警備員も別の警察官に連れられていく。 少し前まで彼女の周囲に集まり、顔色を窺いながら笑っていた女たちも、今は目を逸らしている。 やがて、問題を起こした人物全員が扉の向こうへ姿が消えた。  重い扉が閉じると、会場にようやく静けさが戻った。 長い悪夢が終わったような静けさだった。 「……瑠理子」  直之が振り返る。 その声を聞いた途端。瑠理子の身体から、一気に力が抜けた。 倒れそうになった身体を、直之が慌てて抱き止める。 「瑠理子!」「ご、ごめんなさい……」「謝らなくていい」「でも……急に、力が……」「当たり前だよ」  あれだけの恐怖に耐えていたのだ。 赤ワインで濡れたドレスに、乱れた髪。 赤く腫れた右手。 腕にも、強く掴まれた跡が残っている。  それを間近で見た直之の表情が歪んだ。 「本当に……ごめん。僕のせいだ」「直之さんが謝ることじゃ……」「もっと早く着けていたら、大事な瑠理子をこんな目には遭わせなかった」  直之は自分の上着を瑠理子の肩へかけた。 乱れたドレスも、赤ワインの染みも。 もう誰にも見せたくないというように、そっと包み込む。 「病院へ行こう」「でも、パーティーが……」
last updateLast Updated : 2026-10-10
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第六十二話 助けたのは俺じゃない

 ホテルのエントランスを出たところで、淳は立ち尽くしていた。会場へ入ることはできなかったからだ。 関係者以外立入禁止。 招待状もない。 それどころか、自分が無理に入れば、瑠理子と特別な関係にあるという百合絵の言葉を補強することになる。 だから直之を連れてくるしかなかった。 あの人なら瑠理子を助けられる。自分にはできないことができる。 そう思って、直之をバイクの後ろへ乗せた。 それでよかったはずなのに。「……」 胸がずっと苦しい。 会場へ入っていった直之を見送ったあとも、淳は帰る気になれなかった。 本当なら帰って知らん顔するべきだとわかっているのに。 ライブ配信を、蚊帳の外で見つめるしかできなかった。「なんなんだよ……」 スマートフォンを握りしめる。 自分には関係ない。瑠理子は直之と結婚する。 自分だって、さっきそれを後押ししたようなものだ。 なのに、どうしてこんなところにいつまでもいるのだ。  もう、瑠理子は直之が助けた。それでいいじゃないか―― 帰ろう、と思ってバイクに近づいた時だった。 ホテルの扉が開き、中から誰かが出てきたので、淳は反射的に顔を上げた。「……!」 そこから出てきたのは、直之だった。 しかも腕の中に、瑠理子を抱いている。  それを見て、心臓が一瞬、止まった。  直之のジャケットに包まれた瑠理子は、酷い有り様だった。 髪は乱れている。 淡い色のドレスには赤ワインが染み込み、手は赤く腫れていた。 泣いたのだろう。目元まで赤い。  
last updateLast Updated : 2026-10-10
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第六十三話 嫉妬が胸を蝕む

 「……よかったです」 淳は瑠理子を見る。「無事で」「淳……」 瑠理子は何か言わなくては、と思った。 でも、何を? 淳のことは忘れようと思って、御堂直之の縁談を受けたというのに、ホテルの外で帰らずに待っていてくれて、こんなみすぼらしくなった姿を見て欲しくなかったけれども、それ以上に淳の姿を見られて、嬉しいとか、嫌だなとか、よくわからない複雑な感情が渦ました。 言葉は出てこない。何を言えばいいのかわからない。 どうしてそこまでしてくれたの、と、聞いていいのだろうか。 「橘君」 直之が声をかけた。「瑠理子を病院へ連れていく。手の怪我も診てもらいたい」「はい」「今日は本当にありがとう」「……お願いします」「え?」 淳は瑠理子を見た。 そして。 自分でも驚くほど自然に言葉が出た。「お嬢様のこと、お願いします」「もちろん」 直之が答える。「僕がちゃんと連れていく」「……はい」 淳は笑った。 引きっつっていたかもしれないが、笑えていると思う。……たぶん。 「淳」 瑠理子が呼び止めた。「……?」「ありがとう」 その一言で、胸が、ぐしゃりと潰されたように痛くなった。 なぜだかわからない。 どうしてだろう。「……どういたしまして」 なんとかそれだけ答えた。 直之が瑠理子を抱いたまま
last updateLast Updated : 2026-10-11
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第六十四話 婚約を受け入れられない

 病院へ着いた頃には、夜もだいぶ更けていた。 診察室で手当てを受けた瑠理子は、右手に巻かれた包帯をぼんやりと眺めていた。幸い骨には異常がなく、強い打撲と擦り傷だけで済んだらしい。腕や肩にもいくつか痣ができていたが、どれも時間が経てば治るという。 医師からそう聞いた時、隣にいた直之の方が瑠理子以上に安堵していた。「本当に骨折してないんですね?」「ええ。ただし今日はかなり強いストレスも受けていますから、できれば今夜は一人にならない方がいいでしょう。痛みが強くなったり、気分が悪くなったらすぐに受診してください」「分かりました」 直之は瑠理子より先に返事をして、医師の説明をひとつも聞き漏らさないようにしている。 その様子を見ていると、不思議な気持ちになった。 ほんの少し前まで、結婚相手として条件のいい人。それくらいの認識だったはずなのに。 今夜、この人は自分のために車を降り、走ってホテルへ向かい、大勢の前で味方になってくれた。 誰も信じてくれなかった時に、たった一人、迷いなく自分を信じてくれた。 それがどれほど心強かったか。「直之さん、ありがとうございました」 病院を出たあと、待合室のソファへ座ったところで、瑠理子は改めて頭を下げた。「さっきも言ったでしょう。僕に礼なんていらないよ」「でも……」「むしろ謝るのは僕の方だ」「直之さんのせいじゃありません」「百合絵があそこまで思い込んでいることに、僕が気づいていなかった」 直之は眉間に皺を寄せた。「子どもの頃からの付き合いだから、多少思い込みが強いところがあるのは知っていた。でも、まさか君をあんな目に遭わせるとは思っていなかったんだ」「直之さんが責任を感じることではありません」「そう言ってもらえるのはありがたいけどね」 直之は苦笑したあと、包帯の巻かれた瑠理子の手へ視線を落とした。 その
last updateLast Updated : 2026-10-11
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第六十五話 婚約の話、進めてください

「……瑠理子?」 直之が驚いて身を乗り出す。「どうした? どこか痛む?」「違います」慌てて涙を拭った。「ごめんなさい。なんでもないんです」「なんでもない顔には見えないけど」 直之は心配そうに瑠理子を見つめたが、それ以上無理に聞こうとはしなかった。「今日はいろいろありすぎたからね。婚約の件、今すぐ返事をしなくてもいいよ」「すみません……」「謝らないで。僕が言い出すタイミングが悪かった。こんな日に婚約の話なんてするべきじゃなかったな」「違うんです」 瑠理子は首を振った。直之は何も悪くない。 むしろ、これ以上ないほど誠実に向き合ってくれている。 今日だって自分を守ってくれた。 大勢の前で迷うことなく自分を選び、最後まで味方でいてくれた。 こんな人と結婚できれば、きっと幸せになれる。 分かっているのに、どうして淳が出てくるのだろう。 どうしてこんなに胸が張り裂けそうで、涙が出てしまうのだろう。 今の胸の痛みの方が、さっき百合絵になじられた時よりも、何倍も痛い。 淳は前世で自分を利用した男。 父を憎み、海原家を壊し、自分を絶望の底へ突き落とした男。 忘れたい。 今度こそ、あの人のいない人生を歩きたい。 逃げ切りたい。 だからそのために直之との縁談を受けたのではなかったか。 だめだ。先延ばしにしたら、ぜったいに縁談を断ってしまう。 なら、今。勢いのまま、たとえ後悔することになったとしても、話を進めた方がいい。「……進めてください」「え?」 直之が目を見開いた。
last updateLast Updated : 2026-10-12
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第六十六話 どうしてこんなに苦しいんだ!

 病院を出たあと、直之は瑠理子を海原家まで送ってくれた。車が屋敷の前へ着いた頃には、日付が変わろうとしていた。「本当に大丈夫?」「はい。家族もいますから」「明日も痛むようなら、必ず病院へ行って」「わかりました」「それと、今日の件については僕の方でも弁護士と話をする。瑠理子は何もしなくていいから、今夜は休んで」「ありがとうございます」 瑠理子が車を降りようとすると、直之がふと思い出したように呼び止めた。「瑠理子」「はい?」「婚約の件」 直之は少し照れくさそうに笑った。「僕の両親には、明日にでも話しておくよ」「……はい」「君のご家族とも改めて話をしたい」 本当に進んでいく。自分が選んだ未来が。 淳と歩むはずの未来が、なくなっていく。「お願いします」「おやすみ」「おやすみなさい」 車を見送ってから、瑠理子は玄関へ向かった。 身体は疲れ切っているはずなのに、頭の中は妙に冴えていた。 直之との婚約を正式に進める。 これでいい。これで前世とは違う。 そう何度も自分に言い聞かせながら玄関を開ける。 家の中は静かだった。家族はもう眠っているのだろうか。 靴を脱ぎ、廊下へ上がったところで。「お帰りなさい」  声がしたので思わず顔を上げた。 リビングの入口に淳が立っていた。「淳……?」
last updateLast Updated : 2026-10-12
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第六十七話 二郎の謝罪

 翌朝。 目を覚ました瞬間、瑠理子は右手に鈍い痛みを感じた。「……痛っ」 反射的に手を引き寄せる。白い包帯が目に入り、昨夜の出来事が一気に蘇った。  百合絵に踏みつけられた手。大勢に囲まれ、嘘つきだ、泥棒だと罵られたこと。 髪を引っ張られ、無理やり床へ押さえつけられたこと。 それから、必死の形相で会場へ駆け込んできた直之。 ホテルの外で、帰らずに待っていた淳。 「……」  瑠理子は布団の上で、しばらく包帯を眺めていた。  昨夜、直之との婚約を正式に進めると決めた。それは自分で決めたこと。  海原家を守るため。 前世とは違う未来を歩くため。  そして、淳と結婚し、また同じ結末へ向かう未来を避けるため。  なのに、眠りにつく直前まで頭に浮かんでいたのは、直之ではなかった。 『お嬢様のこと、お願いします』  苦しそうに笑った淳の顔。思い出すのはいつも、彼のことばかり。「もう……」 瑠理子は額を押さえた。「考えないって決めたでしょう」 自分へ言い聞かせ、ベッドから起き上がった。  右手を庇いながら着替え、一階へ下りる。 階段を降りかけたところで、リビングから聞き覚えのある声がした。 「本当に申しわけなかった」  足が止まる。「……二郎叔父様?」 瑠理子はゆっくりと階段を降りた。 リビングには父の一郎と母。少し離れたところには淳もいる。 そして、その中央で深く頭を下げていたのは、海原二郎だった。「兄さん! 瑠理子ちゃんにあんなことをしたのが自分の娘だと思うと、本当に情けない」「二郎……」 一郎は困ったように弟を見る。「お前が謝ることじゃない。百合絵ももう大人
last updateLast Updated : 2026-10-13
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第六十八話 海原グループに来ないか?

「淳君」 突然呼ばれ、淳が顔を上げる。「はい?」「昨日は君も随分頑張ったそうだね」「別に何もしてません」「御堂君を瑠理子ちゃんのところへ連れていったんだろう?」「……はい」「偉いじゃないか」  二郎は穏やかに笑う。「状況をちゃんと考えて、淳君自身が仲裁に入るのではなく御堂君を連れていった」 「俺が会場に入っても何も証明できませんから」「冷静な判断だ」「そんな大したことじゃないです」 淳は少し面倒そうに視線を逸らす。 二郎はそんな淳を見ながら、何気ない調子で続けた。「でも」「?」「君のおかげで、御堂君と瑠理子ちゃんの仲が随分進んだとも言えるね」「……」  淳の表情が僅かに止まった。瑠理子も胸がざわつく。 「二郎叔父様」「ん?」「どうしてそんな言い方をするんですか?」  二郎は少し驚いた顔をした。「変なことを言ったかな?」 「それは……」「褒めているんだよ」  悪意などまったくないように彼は笑う。 「結果として瑠理子ちゃんは助かったし、御堂君との仲も深まった。よかったじゃないか」 「そうですね」淳が答えた。  声は普段と変わらない。「正式に婚約するんでしょう。おめでたいと思います」  淳に祝福されると、胸が痛んだ。 昨夜も聞いた同じ言葉なのに。 どうしてまた苦しく感じるのだろう。 「そうか」  二郎は淳の返事を聞くと、それ以上は何も言わなかった。 だがまた淳を見る目が、妙に鋭くなった気がした。 けれどそれもすぐに消えた。
last updateLast Updated : 2026-10-13
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