All Chapters of 前世で私を壊した夫から、二度目の人生では逃げ切りたい ~冷徹な復讐者は私を二度と離さない~: Chapter 81 - Chapter 90

105 Chapters

第七十九話 一緒に不正を調べよう!

 考えあぐねていると、役員会議室の扉が開いた。中から一郎が出てきた。「瑠理子?」「お父様!」 一郎はとても疲れた顔をしている。「どうしてここに?」「記事を見て……」「心配するな」 一郎は無理に笑った。「私は何もしていない」「信じてる」 瑠理子は即答した。「絶対に信じてるから! お父様はなにもしていないって。お父様はいつだって、どんな時だって、正しいことしかしていないもの!」「瑠理子……」「誰かが仕組んだんでしょう?」「それを今調べているところだ」 父の言葉を聞きながら、瑠理子は、淳の様子が気になって仕方がなかった。 淳は一郎を見ている。 何を考えているのかわからない。 怖い。 前世のように、また彼が父を憎み始めてしまうのではないか、と。 だから必要以上に父を擁護するようなことを言ってしまった。変に思われなかっただろうか。「淳」「……はい」「お父様は、絶対、不正はしてない。信じて欲しい」「俺に信じろって言われても……何も知らないですから」 冷たい言葉に胸が痛む。 けれど、それは当然だった。 淳はまだなにも知らないのだから。「そうね……」「だから、一郎社長が不正をしたとか、父との関連があるとか、決めつけるつもりもないです」「淳……」「調べれば
last updateLast Updated : 2026-10-19
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第八十話 淳の両親は殺された

 それは淳が大人になるまでに、何度も聞いた声だ。父が亡くなってまだまもないのに、懐かしささえ感じる。 叱られた時も。 褒められた時も。 朝、学校へ行く自分を見送ってくれた時も。 記憶の中にある父親の声が、今ここで流れている。 淳は瞬きもせず、スマートフォンを見つめていた。『資金は、いくつもの関連会社を経由している。偶然とは思えない』 少し雑音が入る。『この金が最終的にどこへ流れているのか、もう少し調べる必要がある』『だが――』 一瞬、声が途切れた。 そして。『上から、これ以上調べるなと言われた』「……!」 淳の表情が変わった。『理由も説明されていない。ただ、この件には触れるなと。それだけだ』「上って……」 淳が小さく呟く。一郎も黙って音声を聞いていた。『俺の勘違いなら、それでいい。だが、もし――』 ザザッ、と大きなノイズが入る。 瑠理子は息を止めた。『もし俺に何かあったら、この金の流れを必ず調べてほしい』 そこで音声は終わった。「……」 誰も何も言わなかった。廊下に重い沈黙が落ちる。 淳は画面を見つめたまま、動かない。 「父は」 掠れた声だった。「これを録音した数日後に死んだんですよね」「……そうだ」 一郎が答えた。「母も一緒に」「ああ」「事故で」「そう聞いている」 淳がゆっくり顔を上げた。「じゃあ、これは何なんですか? 『もし俺に何かあったら』って」 声が震えている。「父は、自分に何か起こるかもしれないと思ってたってことですよ
last updateLast Updated : 2026-10-19
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第八十一話 倉庫への呼び出し

『橘義昭夫妻は事故で死んだのではない』『君の両親は殺された』 その二行を見た瞬間、淳の指が震えた。「……殺された?」 声が掠れる。 瑠理子も言葉を失った。 事故ではなく殺された―― たったそれだけの文章なのに、胸の奥へ冷たい刃を突き立てられたような感覚がした。「誰なの……?」 瑠理子が呟く。「こんなもの、誰が……」「わかりません」 淳はすぐに電話をかけようとした。 しかし、番号を押したところで発信できない。「繋がらない」「使い捨ての番号かもしれないわ」  淳が写真を拡大する。 事故当時のものだ。警察や報道機関なら持っていてもおかしくない写真かもしれない。 だがその写真の隅に。「……これ」 淳の指が止まった。「何?」「父の腕時計です」「え?」 潰れた車両のすぐそば。路面に、黒い革ベルトの腕時計が落ちている。「父がずっとつけてたやつです」「じゃあ、本当に事故現場の写真……」「たぶん」 淳の呼吸が浅くなる。 そんな彼を見ていると、瑠理子まで苦しくなった。「でも、だからって書いてあることが本当とは限らないわ」「わかってます」「誰かがあなたを動揺させようとしている可能性もある」「でしょうね」 そう答えながらも淳の目は、写真から離れない。「でも……」 低い声が漏れた。「もし本当だったら?」「淳」「俺、ずっと事故だと思ってたんです」 唇を噛
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第八十二話 私が淳を守る!!

  やはり父を失脚させたい二郎が犯人なのか――?  そう考えると、これまでの出来事が不気味なほど繋がっていくように思えた。 淳を海原グループへ誘ったのも二郎。 父・義昭が昔、会社で何をしていたのかを淳に話したのも二郎。 そして今、まるで淳が父を疑うよう仕向けるかのように、過去の資料や音声が次々と現れている。 けれど。(まだ決めつけちゃ駄目) 瑠理子は自分に言い聞かせた。淳に「真実が分かるまで誰かを憎まないで」と言ったばかりなのだ。 自分だけが、証拠もないまま二郎を犯人だと決めつけるわけにはいかない。 まずは確かめる。 今夜、自分たちを呼び出した人物が何を知っているのか。そして、何をさせようとしているのか。「準備しましょう」「はい」 淳とふたりで倉庫に行くために、瑠理子はあらゆるてを打つことを考えた。 普段通り仕事をして、食事をして、自室に戻った。 気温は寒くもないのに、震えが止まらなくて瑠理子は黒いカーディガンを羽織った。 準備といえども、それほどのものはない。外出用のバッグへスマートフォンと財布を入れる。モバイルバッテリーも入れた。 瑠理子はスマートフォンを握って連絡先を開く。 御堂直之。 一瞬だけ指が止まった。 こんな時まで彼を頼ることへの罪悪感があった。愛してもいないくせに、都合のいい時だけ頼るなんて、浅ましい。 それでも、一番大切なのは、淳を守ること。これが最優先だ。他人にどう思われてもかまわない。
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第八十三話 繋がるふたりの手

 午後九時二十分。 瑠理子が静かに自室を出ると、廊下の突き当たりに淳が立っていた。黒いジャケットに、動きやすそうなパンツ姿。いつものように整った顔をしているが、その表情には隠しきれない緊張が滲んでいる。「準備できましたか?」「ええ」 瑠理子が頷くと、淳はその手にある小さなバッグを見た。「それだけですか?」「それだけって?」「もっと色々持ってくるのかと思いました」「何を持っていけばいいのよ。武器とか?」「持ってたら逆に怖いですよ」「失礼ね」 こんな時なのに、いつもと同じようなやり取りをしてしまう。 けれど、それが少しだけありがたかった。緊張で強張っていた身体が、ほんの少し緩む。「……お嬢様」「何?」「今ならやめられますよ」「またその話?」「倉庫まで来る必要はありません。俺一人で――」「行くわ。何回言わせるの?」 瑠理子が睨むと、淳は諦めたようにため息をついた。「わかりました」淳はため息をついた。「ただし、約束してください」「何を?」「危ないと思ったら、すぐ逃げること」「淳もね」「俺がお嬢様の話をしてるんです」「私もあなたの話をしてるの。何かあったら一緒に逃げる。これなら文句ないでしょう?」「ありますけど」「却下」「まだ何も言ってません」「顔に書いてあるもの」 淳は困ったように笑った。「本当に頑固ですね」「誰のためだと思ってるのよ」 ぽろりと出た言葉に。 二人とも黙った。 瑠理子は慌てて視線を逸らす。「と、とにかく行きましょう。時間なくなるわよ」「はい」 淳も何も聞かなかった。 それでも、玄関へ向かって歩き出した彼の耳が、僅かに赤く
last updateLast Updated : 2026-10-21
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第八十四話 閉じこめられた!!

 「この辺りでいいですか?」  運転手の声で、瑠理子は顔を上げた。 時刻は午後九時五十分を少し回ったところだった。 いつの間にか街の灯りはなくなり、窓の外には巨大な倉庫やコンテナが並んでいる。「ここでお願いします」 淳が料金を支払い、二人で車を降りる。 タクシーが走り去っていくと、突然、周囲が恐ろしいほど静かになった。「……」 冷たい海風が髪を揺らし、遠くから波の音が聞こえる。 それ以外には何もない。「本当にここ?」「住所は合ってます」 淳が地図を確認する。「第三東湾倉庫は、この奥ですね」 二人で歩き始める。 街灯は少ない。 錆びたフェンスに積み上げられたコンテナ。使われているのか分からない古い倉庫。人の姿はどこにもなかった。「淳」「はい?」「ちょっと待って」 瑠理子はバッグからスマートフォンを取り出した。 時刻を確認する。午後九時五十四分。「どうしました?」「なんでもないわ」 十時十五分――それまでに連絡がなければ、直之が来てくれる。 もしものことがあっても、淳は助けられるはず。「……行きましょう」 再び歩き出す。 しばらくすると一番奥に、他より大きな倉庫が見えてきた。 壁に残る古びた文字『第三東湾倉庫』。「あれね」「はい」 二人とも立ち止まった。建物は真っ暗で誰かがいるようには見えない。「時間は?」「九時五十八分です」 その時。
last updateLast Updated : 2026-10-21
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第八十五話 どうして俺を大事にしてくれるのですか?

 暗闇の中、巨大な棚がゆっくりとこちらへ傾き始めていた。「何……?」 最初は目の錯覚かと思ったが、棚に積まれた木箱がひとつ、またひとつと前へ滑っていく。「お嬢様、離れて!」 淳の声が飛んだ。 次の瞬間、棚の上段から木箱が落下した。 ドンッ!「きゃっ!」 二人の数メートル先で箱が砕け、中に入っていた金属部品が床一面へ飛び散った。「こっち!」 淳が瑠理子の手を掴む。逃げようとしたその時だった。「淳!」 瑠理子には見えた。 彼の真上に、棚の最上段から、大きな鉄製のケースが滑り落ちようとしている。淳は気づいていない。「危ない!」 考えるより先に、身体が動いた。 瑠理子は淳へ飛びつくようにして、思いきり彼の身体を押した。「お嬢様!?」 二人とも床へ倒れ込む。その直後―― ガァンッ!! 淳が立っていた場所へ、重いケースが叩きつけられた。「……!」 淳の顔が強張る。床にはケースがめり込むほどの衝撃。 もしあと一秒でも遅れていたら……「淳、大丈夫!?」「俺より……お嬢様は?」「私は大丈夫」「どこか打ってませんか?」「だから大丈夫だってば!」 瑠理子は起き上がると、淳の腕を掴んだ。「早く逃げるの!」 ギギギギギ――ッ! 棚の軋む音が、さらに大きくなる。もう支柱がもたない。 二人は立ち上がり、出口とは反対方向へ走った。「お嬢様、足元!」「わかってる!」
last updateLast Updated : 2026-10-22
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第八十六話 近すぎるふたりの距離

 真剣な目で瑠理子を見つめる。彼の期待が伝わってくる――。「……どうしてって」 瑠理子は視線を逸らした。 そんなの決まっている。 好きだから。今もずっと、あなたのことを想っているから。 前世であれほど傷つけられても、それでも忘れられなかった。 二度目の人生では逃げようとした。 今度こそ淳を好きにならない、もう二度と、この人に人生を壊されたりしない。そう決めていたのに。 結局、また好きになってしまった。いや、またじゃなく、忘れられなかった。「お嬢様?」「……淳は私に、なんて言って欲しいの?」 思い切って聞き返すと今度は淳が黙った。「どうして大事にするのかって聞いたでしょう?」「はい」「だったら、淳はどんな答えを期待してるの?」「それは……」 彼が言葉に詰まる。 瑠理子は苦しくなった。 直之という婚約者がいるから、彼を差し置いて淳が好きだと言ったところで、きっと淳は困るだろう。 「ごめんなさい」「え?」「意地悪なこと聞いたわね」 瑠理子は無理に笑った。「忘れて」「待ってください」 淳に手首を掴まれた。「俺も」 息を呑む。淳の目が揺れている。「お嬢様に何かあったら嫌なんです!」「淳……」「さっき、棚が倒れてきた時、お嬢様が俺を庇ったでしょう」 掴んでいる手に力が入る。「うん」「嬉しいとか、そんなこと思うより先に、すごく怖かったです」「怖かった?」「もし俺のせいであなたが怪我をしたらどうしようって」 淳が顔を伏せる。「もし死んだらって考えた
last updateLast Updated : 2026-10-22
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第八十七話 父を陥れるための罠

「父は、この金を調べてたんですよね」 淳が瑠理子に確認した。「……ええ」「それで、最終承認者が一郎社長ですね?」 淳が他の書類も確認すると、すべてが同じだった。さらに次も、関連会社を転々とした巨額の資金。そのすべての最後に、一郎の名前が記されている。「父がこれを調べて、そのあと死んだ」「――待って」「何を待つんです?」 淳が顔を上げた。先ほどまでとは違う目。 疑い。 戸惑い。 そして、その奥で少しずつ膨らんでいく怒り。「こんなの……」 淳が唇を噛む。「疑うなっていう方が無理でしょう」「わかってる」「お嬢様はさっき、社長は絶対に何もしてないって言いましたよね」「言ったわ」「じゃあ、これは何なんですか」 突きつけられた書類。 瑠理子は胸が痛んだ。 前世の淳は、犯人に証拠を見せられたのだ。 一つだけなら違うと思えたかもしれない。 けれど複数の証拠や義昭の音声まで加われば、いつしか疑いは確信に変わる。そしてその確信を、淳は十年もの間、胸の中で育ててしまった。 (ダメ)  ここでまた同じ道を歩かせてはいけない。彼はまだ、一郎を憎んでいない。「貸して」「え?」「その書類」 瑠理子は淳から受け取った。「お嬢様」「ちゃんと見るから」 スマートフォンのライトを近づけ、一枚ずつ確認する。 送金日に振込先。管理番号、承認欄。  知らない言葉もまだ多い。けれどここ数日、経営企画部で嫌というほど社内資料を見てきた。 仕事に慣れず、何度も淳に呆れられながら覚えてきたのだ。きっと役に立つはず。「……あれ?」 瑠理子の指が止まる。「何です?」「これ……おかしい」「何
last updateLast Updated : 2026-10-23
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第八十八話 直之の助け

 「くそっ、ここまで来て……!」  バン、と淳がシャッターを蹴った。しかしガンと大きな音が鳴るだけで、びくともしない。 炎は燃え盛り、飲み込もうとこちらに―― その時、倉庫の外から何かを激しく叩く音がした。「瑠理子!」「……!」 聞き慣れた声だった。彼は約束通り来てくれたのだ――!「直之さん!」 瑠理子がシャッターを叩く。「直之さん! ここ!」『瑠理子、下がって!』「え?」 直之の声がした。続いて、 ガンッ!! 外側から何かがぶつかった。 さらにもう一度。 ガンッ!! シャッターの下部が歪む。「何してるんだ……?」 淳が呟く。「たぶん、車に積んでる工具か何かで……」 外から複数人の声が聞こえた。 直之は一人では来ていなかった。警察こそ呼んでいないが、御堂家の警備担当を連れてきていた。『もう一度!』 金属の軋む音。 シャッターが僅かに持ち上がった。 下に、人ひとりがようやく通れるほどの隙間ができる。『瑠理子! 出られるか!』「はい!」 瑠理子が駆け寄ろうとした。 だが。「危ない!」 淳が瑠理子を引き寄せた。 頭上から燃えた木材が落ちてきた。 床へ炎が散る。 出口まで。 あと数メートルなのに。 炎が二人の前を塞いだ。「淳……!」「大丈夫」 淳が瑠理子の肩を抱く。「俺が先に行きます」
last updateLast Updated : 2026-10-23
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