文化祭まであと八日となった朝、私はいつものように店の厨房から漂ってくるバターの匂いで目を覚ました。昨夜は西園寺綾乃さんから、紛失していた家紋入りカードが叔母の西園寺冬香さんのものであり、その冬香さんが四日前に九条グループ本社で長谷川雅臣さんと会っていたと知らされたので、もっと眠れないかと思っていたのだけれど、意外にも身体はいつもの時間までしっかり眠っていたらしい。 ベッドの上でスマートフォンを確認すると、午前六時を少し回ったところで綾乃さんからメッセージが届いていた。『今日の夕方、父と一緒に冬香叔母様から話を聞くことになりました。私も同席します。何かわかれば、私から話せることはお伝えします。ただ、叔母様を最初から犯人だと思っているわけではありません。それだけは先に紗季さんにも伝えておきたくて』 その最後の一文を読んで、私は少しだけ安心した。 綾乃さんの家でなくなったカードが脅迫のような封筒の受け渡しに使われ、西園寺家と九条家の婚姻を強く望んでいた冬香さんが、その直前に長谷川さんと会っている。並べてしまえば疑わしい材料ばかりだけれど、疑わしいことと犯人だと決めることは同じではない。「みんな、だんだん『決めつけない』が上手になってきたなあ……」 呟きながら返信を打っていると、開けたままになっていた部屋の扉から母が顔を出した。「紗季、起きてるなら下りてきなさい。今日、叔父さんが寝坊してる
Dernière mise à jour : 2026-09-11 Read More