Tous les chapitres de : Chapitre 41 - Chapitre 50

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第40話 「篠宮って、本名じゃないの?」文化祭の翌日、彼は逃げずに隣の席へ戻ってきました

 文化祭が終わった翌朝、私は学校へ行く支度をしながら、昨日美咲に送ってもらった写真を何度も開いていた。白いエプロン姿の私と、黒縁眼鏡にぼさぼさの髪、少し不格好なベスト姿の篠宮君が並び、二人とも美咲に「もっと自然に笑って」と何度も言われた末にようやく撮れた一枚で、ほんの少し前までなら普通の高校生の文化祭写真にしか見えなかったのに、今ではこれを見たクラスメイトの多くが、写っている男子生徒の名前が本名ではないと知っている。 昨日の文化祭が終わってから、クラスのグループには何十件ものメッセージが流れた。最初は「今日はお疲れさま」「売上思ったより良かった」「ガムテープ結局二本余ってるじゃん」といった文化祭らしい話ばかりだったのに、夜になると少しずつ「篠宮の件、本人が話せるまで聞かないほうがよくない?」「でも学校が別名を認めてるって相当な事情だよね」「高梨も知ってたんだよな」といった話題が混ざり始めた。 露骨に悪意のある書き込みはなかった。 だからこそ、私は余計に落ち着かなかった。 人は悪口を言わなくても気になるし、気になれば話す。昨日まで「ちょっと冴えないけれど妙に万能な転校生」だった篠宮君に、実は別の名前があると知れば、何も考えないほうが不自然だろう。 洗面所から戻ると、母がダイニングでコーヒーを飲みながら私を見た。「今日、学校行きづらい?」「ちょっとだけ。でも私より篠宮君のほうが嫌だと思う」
last updateDernière mise à jour : 2026-09-21
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第41話 「九条蓮司だと知っても、篠宮君は篠宮君だよ」秘密を知った親友の態度が、翌日も何も変わりませんでした

 美咲へ本当の名前を打ち明けた翌朝、私は学校へ向かう電車の中で、昨夜から何度目になるかわからないほど彼女とのメッセージ画面を開いていた。 秘密を話し終えて家へ帰ったあと、美咲から最初に届いたのは、「帰った。今さらだけど、本当に九条蓮司本人なんだよね?」という確認だったので、私は「そこから?」と返した。すると「だって冷静になったら信じられなくなってきた。学校で隣にいる冴えない男子がニュースに出てくる世界的財閥の御曹司って、設定盛りすぎでしょ」と返ってきて、最後には「でも明日は普通に篠宮君って呼ぶから安心して」と書かれていた。 安心して、と言われても、その「普通」が本当に続くのかどうかは、実際に顔を合わせてみるまでわからない。 美咲を疑っているわけではない。 ただ、秘密を知る前と後で何も変わらないほうが、むしろ不自然なのだと思う。 篠宮君だって、以前に身分を知られた途端、相手の態度が変わった経験がある。急に敬語を使われたり、家族の会社について質問されたり、これまで興味もなかった高級ホテルや航空会社の話ばかりされるようになったという。 美咲がそんな人ではないとわかっていても、知ってしまえば意識する部分くらいは出てくるだろう。 駅を降り、学校へ向かって歩きながらそんなことを考えていると、後ろから聞き慣れた声がした。「高梨、おはよう」
last updateDernière mise à jour : 2026-09-22
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第42話 「俺の代わりに後継者にされる人も、選ばせてもらってないんですか?」知らなかった従兄の名前を聞きました

 柴崎浩一と九条本邸で話すことになっていた日の朝、私は教室へ入るなり、篠宮君が机の上に二冊の映画情報誌を並べて真剣な顔をしているのを見て、今日の夕方には九条家の後継者問題についてかなり重い話を聞く予定の人とは思えず、思わず足を止めた。「おはよう、篠宮君。朝から何してるの?」「おはよう、高梨。日曜日の映画を決めようと思って」「それ、昨日カフェでもやったでしょう。しかも決まらなかったじゃん」「だから予告編だけじゃなく、上映時間と映画館まで確認してきた。高梨が選んだミステリーは十一時十五分からで、俺が選んだホラーは十一時四十分から。同じ映画館だから、どっちでも昼ご飯の時間はそんなに変わらない」「今日の夕方、世界的財閥の後継者候補がどうとかいう会議に出る人が、朝一番でそこまで調べてくる?」「だから調べたんだよ。夕方のことだけ考えて学校へ来たくなかったから」 なるほど、と納得しかけてから、私はもう一度雑誌を見る。「それで結論は?」「俺はホラー」「知ってる。篠宮君、その意見一回も変わってないから」
last updateDernière mise à jour : 2026-09-23
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第43話 「俺の代わりになる予定の人と、初めて会いました」後継者候補同士なのに、最初に話したのはコンビニのお菓子でした

 神谷遼一さんと会うことが決まったのは、その翌日の昼休みだった。 篠宮君は朝から何度かスマートフォンを確認していたものの、以前のように私へ何も言わず一人で考え込むことはなくなっていて、四時間目が終わるとすぐに私の机へ少し身体を寄せ、周囲に聞こえない程度の声で「今日の夕方、遼一さんと会うことになった」と教えてくれた。「もう? 昨日、大叔父さんが連絡するって話してたばっかりじゃなかった?」「向こうから、会っていいって返事が来たらしい。それどころか、遼一さん自身が俺にも会いたいって言ったって」「篠宮君に?」「うん。自分の知らないところで俺の代わりの後継者候補にされてるなら、本人同士で一度話したいって」 私は思わず少し笑った。「何となく、篠宮君と話合いそう」「まだ会ってないのに?」「だって考えてること似てるじゃん。『勝手に決められるくらいなら本人同士で話そう』ってことでしょう」「俺もそれ聞いて、少し安心した」「敵意むき出しで『九条蓮司を倒して俺が後継者になる』とかじゃなさそうだ
last updateDernière mise à jour : 2026-09-24
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第45話 「手、つないでもいい?」御曹司との初デートは、ホラー映画より心臓に悪い

 日曜日の朝、私は目覚まし時計が鳴る二十分前に目を覚ましたにもかかわらず、すぐには布団から出られなかった。眠いわけではなく、むしろ普段より頭ははっきりしているのだけれど、今日が篠宮君と付き合い始めてから初めて、最初から「デート」と決めて二人で出かける日だと思うと、起き上がった瞬間から何かを間違えそうな気がして、天井を見ながら昨夜決めた服装をもう一度頭の中で確認していた。 母が勧めた淡い水色のブラウスに、普段より少しだけ長さのある白いスカート、それから歩きやすい靴。髪もいつものように結ぶのではなく、母に「これくらいなら頑張りすぎに見えない」と言われたので半分だけまとめることにした。 そこまで考えたところで、私は自分でも嫌になるくらい意識していることに気づいた。「映画見るだけなんだから……」 誰に聞かせるわけでもなく言ってみたけれど、昨日まで母と服を四着も並べて悩んでおいて、今さら「映画を見るだけ」はさすがに無理がある。 スマートフォンを確認すると、午前六時五十八分に篠宮君からメッセージが届いていた。『おはよう。起きてる? 俺はもう起きてるけど、待ち合わせは予定通りで大丈夫だから急がなくていい』 現在七時十一分。 待ち合わせは十時。
last updateDernière mise à jour : 2026-09-26
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第46話 「昨日キスした人が、今日も隣の席にいるんですけど」初デート翌日の教室は落ち着きません

第46話 「昨日キスした人が、今日も隣の席にいるんですけど」初デート翌日の教室は落ち着きません 月曜日の朝、私は教室の前まで来たところで、なぜか扉を開けることができずに立ち止まっていた。 昨日までも何度となく通ってきた教室であり、文化祭の騒動の翌日ですら篠宮君と一緒に入れたのだから、今さら怖がるような理由など何もないはずなのに、今日は扉の向こうにいるたった一人の男子生徒を意識するだけで、いつもの教室が妙に入りづらい場所へ変わってしまっている。 昨日、キスをした。 付き合い始めてから初めての正式なデートへ出かけ、ホラー映画を見ながら手をつなぎ、クレープを食べ、帰る途中の川沿いで篠宮君から「キスしたい」と言われた。 私も嫌ではないと答えた。 ほんの短いキスだった。 それなのに一晩寝ても、思い出すたびに唇のあたりが落ち着かなくなる。「紗季、何やってるの?」 後ろから声をかけられ、私は飛び上がりそうになった。「美咲!」「そんな驚く? 教室入らないなら邪魔なんだけど」「入るよ。今入ろうと思ってた」「じゃあ入りなよ」「わかってるって」 美咲は私の横へ並ぶと、何となく顔を覗き込んできた。「……何?」「いや、昨日のデート楽しかったんだろうなと思って」「昨日メッセージしたでしょう。映画は怖かったけど楽しかったって」「うん。それと『手はつないだ。そこまで』って来た」「何でそこ強調するの?」「だって『そこまで』って書き方、どう考えてもその先がありますって言ってるようなものじゃん」「ないよ」「私、まだ『何があった』とも聞いてないけど?」 しまった。 美咲の口
last updateDernière mise à jour : 2026-09-27
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第47話 「高梨紗季さん、九条家に嫁ぐつもりはありますか?」突然現れた女性教授は、私の答えを聞きに来ました

第47話 「高梨紗季さん、九条家に嫁ぐつもりはありますか?」突然現れた女性教授は、私の答えを聞きに来ました 火曜日の朝、私は教室へ入る前に立ち止まらなかった。 昨日は扉の前で数十秒も動けず、美咲に「昨日キスした人がいるからって教室入れなくなるの、さすがにわかりやすすぎる」と笑われたけれど、一日一緒に授業を受けてしまえば、篠宮君はやっぱり篠宮君だった。昨日のことを思い出さなくなったわけではないし、顔を見るたびに川沿いの遊歩道が一瞬くらい頭をよぎるのだけれど、それでも教室へ入ることそのものに覚悟が必要なほどではなくなっている。「おはよう」 普通に声をかける。 篠宮君はすでに席に座っていた。「おはよう、高梨」 こちらも普通だった。 ただし、目が合ったあと二秒ほど固まったので、完全に普通というわけでもない。「篠宮君」「何?」「今、思い出したでしょう」「高梨も?」「そうやって聞くからわかるんだよ」「ごめん」「謝らなくていいけど、朝から確認しない」「わかった」 篠宮君は素直に頷き、机の上に置いていたノートへ視線を戻した。 私は鞄を置きながら横目で見る。 数学の問題集。 昨日初キスをした恋人が、翌々日の朝には普通に数学の問題を解いている。 当たり前なのに、少し面白い。「何?」 今度は篠宮君が私を見る。「何でもない」「笑ってた」「普通だなと思って」「俺が?」「うん。昨日まで私、キスしたあとってもっと何か変わるのかと思ってた」「例えば?」「知らない。もっと恋人っ
last updateDernière mise à jour : 2026-09-28
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第78話 「主役じゃなかったです。でも、辞めたくありません」御曹司の妹が初めて“選ばれない悔しさ”を自分で持ち帰りました

第78話 「主役じゃなかったです。でも、辞めたくありません」御曹司の妹が初めて“選ばれない悔しさ”を自分で持ち帰りました 篠宮君が地域政策アイデアコンテストへ企画を応募した翌週、今度は美玲ちゃんの演劇部のオーディション結果が出た。 知らせを受けたのは、放課後の教室だった。 私は帰り支度をしながら、美咲と『焼き林檎のひと休みタルト』の売れ行きについて話していた。「今週、雨の日だけ二個残ったんでしょう?」「うん。でも叔父さん、前みたいにすぐ減らさずに、もう一週間同じ数で見るって」「紗季も平気なの?」「前よりは。最初は残ると全部私のせいみたいに思ってたけど、天気とか曜日とかあるし」「ちょっと店の人っぽくなったね」「まだ高校生」「でもPOP書いて値段決めて、売れ残りで一喜一憂してる高校生ってあんまりいないよ」「それ言ったら、政策コンテストに十九ページ送る高校生もあんまりいないでしょう」「篠宮君ね」 その本人は、教室の後ろでスマートフォンを見たまま止まっていた。 最近、本人が黙り込むと以前ほど不安にはならない。 考えているだけの時もあるし、嬉しすぎて止まっている時もあるし、相沢君から妙なメッセージが来て処理に困っている時もある。 ただ、今日は少し違った。「紗季」 美咲も気づいたらしい。「篠宮君、顔硬くない?」「うん」 私は鞄を持ち、そのまま彼の席へ向かった。「篠宮君」 呼ぶと、少し遅れて顔を上げた。「高梨」「何かあった?」「美玲から」「オーディション?」 篠宮君が頷く。
last updateDernière mise à jour : 2026-09-29
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第48話 「高梨さんを家に連れてきなさい」御曹司の父から、突然“正式な招待”が届きました

第48話 「高梨さんを家に連れてきなさい」御曹司の父から、突然“正式な招待”が届きました 水城志保さんと会い、篠宮君がその日の夜に玲華さんと二人で話した翌朝、私はいつもより少し早く教室へ着いた。 昨日の朝ほど篠宮君の顔を見て初キスを思い出すこともなくなったし、今日こそは普通に一日を始められるだろうと思っていたのだけれど、すでに席に座っていた篠宮君が私を見た瞬間、何とも言えない顔をしたので、その期待は教室へ入って十秒もしないうちに崩れた。「おはよう、高梨」「おはよう。何、その顔」「別に」「絶対何かあるでしょう。昨日、『学校では変なこと言わない』って約束したよね」「言わない」「じゃあ何?」 篠宮君は一度周囲を確認し、まだ登校している生徒が少ないことを確かめてから、かなり小さな声で言った。「母さんに、昨日のことがばれたって話したでしょう」「キスのこと?」「高梨、声」「そっちが先に出したんでしょう!」「ごめん。でも、そのあと父上にも何か気づかれてたみたい」「……何を?」「俺が妙に機嫌がいいって」「そこからキスまでわかる?」「母さんが何か言った可能性もある」「玲華さん、言わないって約束したんじゃなかったの?」「直接は言ってないらしい。でも父上に『最近の蓮司は高校生らしくていいですね』って言ったら、父上が嫌な顔したって」「それだけなら何もわからないでしょう」「そのあと俺が夕食中ずっとスマホ見てたから、『高梨さんか』って聞かれた」「そこで?」「うんって答えた」「正直すぎる!」「嘘つくことでもないと思っ
last updateDernière mise à jour : 2026-09-29
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