文化祭が終わった翌朝、私は学校へ行く支度をしながら、昨日美咲に送ってもらった写真を何度も開いていた。白いエプロン姿の私と、黒縁眼鏡にぼさぼさの髪、少し不格好なベスト姿の篠宮君が並び、二人とも美咲に「もっと自然に笑って」と何度も言われた末にようやく撮れた一枚で、ほんの少し前までなら普通の高校生の文化祭写真にしか見えなかったのに、今ではこれを見たクラスメイトの多くが、写っている男子生徒の名前が本名ではないと知っている。 昨日の文化祭が終わってから、クラスのグループには何十件ものメッセージが流れた。最初は「今日はお疲れさま」「売上思ったより良かった」「ガムテープ結局二本余ってるじゃん」といった文化祭らしい話ばかりだったのに、夜になると少しずつ「篠宮の件、本人が話せるまで聞かないほうがよくない?」「でも学校が別名を認めてるって相当な事情だよね」「高梨も知ってたんだよな」といった話題が混ざり始めた。 露骨に悪意のある書き込みはなかった。 だからこそ、私は余計に落ち着かなかった。 人は悪口を言わなくても気になるし、気になれば話す。昨日まで「ちょっと冴えないけれど妙に万能な転校生」だった篠宮君に、実は別の名前があると知れば、何も考えないほうが不自然だろう。 洗面所から戻ると、母がダイニングでコーヒーを飲みながら私を見た。「今日、学校行きづらい?」「ちょっとだけ。でも私より篠宮君のほうが嫌だと思う」
Dernière mise à jour : 2026-09-21 Read More