地下の部屋で、伊依はモニターに映る社内メールを凝視していた。 「これ、まずくない?」 ジョフィが、緊張した声で報告する。表示されていたのは、秀一が取引先の社員とやり取りしている、私的なメッセージのやり取りだった。 「複数W不倫旅行……」 伊依は、文面を読みながら、思わず眉をひそめた。取引先の複数の男女社員が、それぞれ既婚者でありながら、示し合わせて旅行に出かける計画を立てているらしい。秀一の相手は、取引先の受付を担当している女性社員だった。 「うちの取引先、コンプライアンスがやばいのは知ってたけど」 「今まで表沙汰にならなかったのは、上が握りつぶしてきたから」 ジョフィが、過去の内部資料を引っ張り出しながら説明する。伊依は、その情報を、静かに受け止めていた。 「でも今回は」 伊依は、続けた。 「秀一が絡んでる」 「うん。これが公になったら、うちの会社にも影響及ぶよ」 伊依の頭の中で、様々な可能性が交錯していった。もしこの不倫旅行が明るみに出れば、社内は大混乱に陥る。処分の対象は秀一だけでなく、それを見過ごしてきた会社全体にも及ぶかもしれない。管理体制の見直しという名目で、地下の備品管理課の存在にも、再び焦点が当たる可能性があった。 「私が上に戻される、なんてことになったら」 伊依は、椅子にもたれ、天井を見上げた。 「絶対嫌」 「どうする?」 ジョフィが尋ねる。伊依はしばらく考え込んだあと、口を開いた。 「押してダメなら、引いてみよう」 「どういうこと」 「浮気の証拠、沙織には見せない」 伊依の答えに、ジョフィは意外そうな反応を見せた。 「見せないの? それで止められる?」 「うん」 伊依は、少しずつ計画を組み立てていった。 「秀一が旅行に行きたくなくなるように、仕向ける」 「男とは単純なもので」 伊依は、指を組みながら続けた。 「目の前に餌があったとしても、その隣にもっと美味しいものがあれば、そっちに飛びつく」 「つまり?」
Last Updated : 2026-10-18 Read more