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第11話 王妃になんて、まだなりません

第11話 王妃になんて、まだなりません「王妃になんて、まだなりません」その言葉を口にした瞬間、大広間の空気が凍りついたように静かになった。朝から王城へ押しかけてきた竜族古老会の面々は、皆、揃いも揃って百年以上は生きているらしく、人間で言えば六十代から八十代ほどに見える者たちばかりだった。銀色の角を持つ者、深紅の鱗を頬へ残す者、翼を畳んだまま椅子へ座っている者、その姿はそれぞれ違うものの、全員に共通しているのは「自分たちは長く竜族を支えてきた」という揺るぎない自負だった。そして今、その自負の塊のような古老たちが、一斉にミオを見ている。歓迎の目ではない。露骨な敵意とも違う。もっと厄介な、「なぜ当然のことを理解しないのか」という困惑と苛立ちが混じった視線だった。「ミオ」隣に座るカエルが低い声で呼んだ。「何ですか」「私が話す」「駄目です」「だが」「私の話でしょう」「古老会は面倒だ」「それはもう十分分かりました。でも、私が黙っていて、カエルが全部追い返したら、結局また私の意思がどこにもないことになります」カエルは少しだけ眉を寄せた。反論したいのだろう。しかし昨夜、「自分で選びたい」とミオが言ったことを覚えているらしく、結局口を閉じた。そのやり取りを見て、正面に座っていた老女が鼻を鳴らした。「陛下が人間の女に言い負かされる日が来るとは、長生きもしてみるものですな」「言い負かされたのではない」カエルがすぐ反応する。「では何です?」「……話を聞いている」「世間ではそれを折れたと言うのです」「黙れ、セラ」
last updateآخر تحديث : 2026-09-04
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第12話 竜王様の恋愛作戦会議は全員不安しかありません

第12話 竜王様の恋愛作戦会議は全員不安しかありません「ミオに選ばれる方法を考える」竜王カエル・ヴァルドレイクが、軍議にも外交会議にも使われる王城西棟の小会議室で大真面目にそう宣言した瞬間、集められた五人は誰一人として返事をしなかった。長方形の机の上には、王国北部の軍事地図も、近隣諸国から届いた外交文書も置かれていない。代わりにあるのは、セバンが用意させた茶と焼き菓子、それから何のためなのか分からない白紙の羊皮紙と筆記具だけだった。参加しているのは、狼騎士団長レグル、宮廷魔術院長ザラ、侍従長セバン、法務官アルク、そして厨房から半ば強制的に連れてこられた料理長バルムである。全員が、それぞれ違う種類の「帰りたい」という顔をしていた。最初に口を開いたのはバルムだった。「陛下、俺、仕込みの途中なんですが」「後にしろ」「後にしたら肉が硬くなるんですよ。恋愛より夕飯のほうが時間に厳しいんです」「私の人生に関わる」「俺の煮込みにも客の人生がかかってるんです」「大げさだ」「飯を舐めんな!」開始から一分も経たないうちに、料理長が王へ怒鳴った。カエルは眉を寄せたものの、追い出そうとはしない。むしろ真剣な顔でバルムを見てから、「では一刻で終わらせる」と譲歩した。バルムは鼻を鳴らした。「最初からそう言やいいんだよ」「王へ向かって随分な口調ですね」アルクが呆れたように言うと、バルムは腕を組んだ。「厨房では陛下だろうが皿洗いだろうが、腹を減らした客は客だ。それに恋愛相談で呼び出しておいて威厳も何もあるか」「それについては同意します」ザラが即座に頷いた。「私、百年以上この男と付き合いがあるけど、今日ほど『竜王って何だっけ』と思った日はない
last updateآخر تحديث : 2026-09-05
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第13話 私が幸せになる方法を、私は知らなかった

第13話 私が幸せになる方法を、私は知らなかった「カエルが子供の頃、木から落ちて泣いた話から聞きたいです」「その話はしない」「では、何の木だったのかだけでも」「言わない」「どうしてそこまで嫌なんですか。二百年以上前の話でしょう?」「二百年以上前でも私の失敗であることに変わりはない」「子供が木から落ちるくらい、失敗のうちに入りませんよ」「私は竜だ」「それが?」「飛べる」ミオは一瞬黙り、それから堪えきれずに笑った。「なるほど。飛べるのに木から落ちたんですね」「だから話したくなかった」夜もかなり深くなった頃、ミオの私室には小さな笑い声が広がっていた。机の上には、厨房から分けてもらった蜂蜜入りの焼き菓子と、香りの穏やかな薬草茶が置かれている。仕事の話はしない、王妃の話もしない、番や呪いについても今夜だけは考えない。そう決めた二人は、最初こそ何を話せばよいのか分からず妙な沈黙を挟んでいたが、ミオがヴォルガから聞いた「幼いカエルが木から落ちた」という一件を持ち出してから、ようやく会話が普通に転がり始めていた。「笑いすぎだ」「だって、いつも『私は竜だ』『山を消せる』『人間より丈夫だ』って言っている人が、飛べるのに木から落ちたんですよ。笑うなというほうが無理です」「幼い頃だ」「いくつの頃です?」「……二十七」ミオの笑いが止まった。「二十七?」「ああ」「私より年上じゃないですか!」「竜族では幼竜だ」「分かっていますけど、私の感覚だと二十七歳の男性が木から落ちて泣いた話になってしまって、急に印象が変わるんですよ」
last updateآخر تحديث : 2026-09-06
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第14話 人間の女に料理を教わるほど落ちぶれてない

第14話 人間の女に料理を教わるほど落ちぶれてない「遅えぞ、ミオ! 勝負の材料はもう揃ってるからな!」厨房の扉を開けた途端、バルムの大声が飛んできた。「だから勝負じゃなくて、一緒に作るって何度言えば分かるんですか!」ミオも負けずに返しながら中へ入ると、王城の大厨房は昼食後とは思えないほど活気に満ちていた。長い調理台の上には大量の野菜や肉が並び、竈では大鍋がぐつぐつと音を立て、壁際では若い料理人たちが夜の宴席に向けて仕込みを続けている。その中央。いつも以上に胸を張ったバルムの前だけは、明らかに別の料理が始まろうとしていた。木箱いっぱいの月灯り苺。透明な瓶へ入った琥珀色の液体。そして白い粉や乳製品、卵、木の実。「……結構用意しましたね」「当たり前だろ。やるからには本気だ」「その『やる』が何を指してるのか、まだ認識が一致してませんけど」「料理勝負だ」「共同調理です」「勝負」「一緒に作る」「勝負!」「どうして料理人って、すぐ勝ち負けにしたがるんですか!」「勝ったほうが気分いいからに決まってんだろ!」あまりにも堂々と言われ、ミオは一瞬言葉に詰まった。「……潔いですね」「褒めても勝ちは譲らんぞ」「褒めてません」その横で、若い料理人たちが笑っている。昨日までなら、人間であるミオが厨房へ入ること自体を嫌そうに見ていた者もいた。今日も全員が歓迎しているわけではない。ただ。「人間の女に厨房を荒らされる」という警戒より。
last updateآخر تحديث : 2026-09-07
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第15話 王妃様の菓子を売ったら、店の前が大変なことになりました

翌朝、ミオが王城の厨房へ顔を出したとき、最初に目に飛び込んできたのは、料理人たちの忙しそうな姿でも、昨日の試作菓子を改良しているバルムでもなく、大きな木箱を両腕で抱えたノアが、今にも泣きそうな顔で立ち尽くしている姿だった。「ノア、おはようございます。その箱、今日売る分ですよね。何かありました?」「ミオさん、おはようございます。菓子はちゃんとできましたし、バルムさんにも味を見てもらったんですけど、その……市場の店から、すぐ来てほしいって伝令が来ていて」「すぐ?」まだ開店にはかなり早いはずだ。昨夜、試し売りする数は五十個と決めた。いきなり大量に作って売れ残るのも嫌だし、厨房は本来、王城の食事を作るための場所である。あくまで今回は、バルムと作った菓子が一般の人にも受け入れられるか確かめるだけの、小さな試みのつもりだった。「何か問題でも?」ノアが答える前に、奥からバルムが姿を現した。いつもの革の前掛けではなく、なぜか外出用らしい厚手の上着を着込み、それでも腕はしっかり捲っている。「問題どころじゃねえ。店の前にもう人が並んでるらしい」「……どうして?」「俺が聞きてえよ」
last updateآخر تحديث : 2026-09-08
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第19話 聖卓が暴いたのは、裏切りではなく秘密でした

翌朝、王城の法務院に用意された小さな会議室へ入ったミオは、長机の向こう側に座っている青年の顔を見て、昨夜から胸の奥に引っかかっていた違和感の正体をまだ掴めないまま、少しだけ足を止めた。青年の名はエド・ラウゼン。王城文書院に勤めて三年になる二十六歳の文官で、見た目にはほとんど人間と変わらないものの、耳の後ろに淡い青色の鱗が数枚だけ残る半竜族だという。ミオが初めて王城へ来た翌日、迷いそうになっていた彼女へ王城内部と王都の簡単な地図を届けてくれたのも彼だった。そのときは、「この城は本当に迷いますから、陛下ですら昔、増築したばかりの西棟で一度道を間違えたそうですよ」と笑いながら話してくれて、ミオが「本人に聞いたら絶対否定しそうですね」と返すと、「ええ、ですから私から聞いたとは言わないでください」と冗談めかしていた。ごく普通の、感じの良い青年。だからこそ。今日、その指が震えていることが気になった。「ミオ様、どうぞこちらへ」法務官アルクに促され、ミオはエドと向かい合う席へ座った。隣にはカエル。その反対側にはザラ。さらに少し離れてアルクと、記録係の文官が二名いる。扉
last updateآخر تحديث : 2026-09-12
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第20話 竜王城の裏切り者は、私のすぐそばにいました

「あなたを召喚した誰かは、三年前より前から日本という世界を知っていた可能性がある」ザラの言葉が魔術院の解析室へ落ちてから、しばらくの間、誰も次の言葉を口にしなかった。机の中央には、エドの部屋から回収された十二通の手紙が並んでいる。そのうち最後の一通には、ミオの名だけでなく、異世界召喚の対象として彼女を特定するための座標まで記されていた。しかも、婚約破棄と追放が行われる三日前の時点で、「北へ追われた聖女が黒き竜へ触れる」と予告する文章まで残されている。偶然ではない。少なくとも、そう考えるには出来すぎていた。「……私、日本で何か特別なことをしていたわけじゃないんです」ミオは、自分でも何を確認したいのか分からないまま口を開いた。「ホテルで働いて、毎日時間に追われて、帰りにコンビニへ寄って、休みの日には寝坊して、たまに友達と食事するくらいで。本当に普通だったんです。魔法なんて当然使えないし、聖女になるようなこともしていないし、家系に何かあるとも聞いたことがありません」「今のところ、その『普通』が一番怪しいわね」ザラは焼けた手紙の最後の部分を、薄い紫色の魔力で照らしながら答えた。
last updateآخر تحديث : 2026-09-13
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