「初代聖女は、七百年前に死んだはずだ」復元された古文書の一節を前にしてカエルがそう言ったのは、ラシュとミーナを地下旧王城から救出した翌日の午後だった。王城の北棟、そのさらに奥にある封鎖書庫は、ミオがこれまで入ったどの部屋よりも古い匂いがした。乾いた紙、革張りの本、長い年月の間に染み込んだ埃、それから保存魔法に使われる薬草らしい、少しだけ苦い香りが混じっている。壁一面を埋め尽くす書棚は天井近くまで伸び、そこへ古文書や石板、巻物、金属製の記録板まで隙間なく収められていた。この場所へ入ることが許されるのは、竜王、宮廷魔術院長、侍従長、王家記録官など、ごく一部の者だけらしい。だからなのか、カエル、ザラ、セバンに囲まれて書庫の中央へ座っている自分が、場違いに思えて仕方なかった。「初代聖女が死んだ、というのは人間王国側の歴史でも同じなんです」ミオは机の上へ広げた紙を見ながら言った。「神殿で習った聖女史では、初代聖女は七百年前の大戦で世界を救ったあと、力を使い果たして亡くなったことになっていました。神殿中央聖堂には像もありますし、毎年、命日に祈祷祭もやっています」「人間側では英雄なのね」ザラが古い巻物の封印を解きながら言った。
Last Updated : 2026-09-14 Read more