All Chapters of 魔王様は氷の微笑に逆らえない: Chapter 11 - Chapter 20

53 Chapters

11. 食料が来た

 シャムルに食料調達の話をした、しばらく後。食料は向こうからやってきた。「リンデル王国の遠征騎士団、数はざっと三百ってとこだなぁ」 使い魔が送ってくる映像を魔鏡で確認しながら、ランドールが説明する。「久し振りに本気できた感じだねぇ」 ランドールが、カラカラと笑った。「王国の三皇子が揃って堕ちて焦ったのでしょう。取り戻しに来たか、殺しに来たか」 シャムルが難しい顔で魔鏡を覗く。「いまさら取り戻すっても、シャムルはじめ全員、魔族堕ちしているけどな」 ランドールが言う通り、今更だ。 本人たちが望んで魔族に転嫁した以上、人の世に帰りたがる者はいないだろう。シャムルに至っては魔王の血の結晶で生き返ったから、望んでも人間には戻れない。「リンデル王国は魔国に隣接する大国故、防波堤のような役割を担う。勇者が続々と魔族に変わる状況を、見過ごせなかったのでしょうね」 シャムルの顔が深刻だ。「んなもん、今更だろ。人間は大概食料だが、有能な人間は昔から魔族になってたぜ」 ランドールが何でもない事のように語る。 シャムルが魔王に向かい、首を垂れた。「申し訳ございません。私が側近として早くに手を打っていれば、このような事態には」 シャムルが、難しく顔を顰める。魔王はカラカラと笑った。「全然だよ。かえって、良かったよ。食料が向こうから来てくれたんだから。手間が省けたよね」 魔王的には、ラッキーだ。人の国に出向く面倒を考えたら、ずっと楽だ。それに魔王は、ワクワクしていた。「ところでさ、遠征騎士団の中で一番強いのって、どの子?」 ノリノリで魔鏡を指さす。 シャムルがおずおずと覗きこんだ。何とも気乗りしない様子だ。「恐らく、団長を務める騎士のスカラ、でしょうか。私たち兄弟の従兄弟です」 シャムルが先頭を指さした。騎士団の先陣で指揮を執る青年は、屈強な筋肉に端正な顔をしている。ガイルとヘルを足して二で割ったような風貌だ。
last updateLast Updated : 2026-08-27
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12. 大魔導師と魔法剣士

 魔王城はリンデル王国の北の最果てにある孤城だ。続く道は細く長い一本道で、高い崖になっている。落ちれば間違いなく命はない。崖の下にはドラゴンの群れが生息しているので、落ちてきた人間はもれなく餌だ。 長い道の手前に広がる平原が、人間の国に隣接する最後の場所だ。細く長い崖を渡るため、人間はどうしてもこの平原でいったん止まり、準備を強いられる。「だから結果的に、この場所に人間が溜まる構図になるんだよね」 魔王はシャムルを連れて上空を飛んでいた。平原にひしめく人間は魔鏡で確認した時より数が多そうだ。足下で蠢く人間を、シャムルが恍惚と見下した。「平原の地形的にも、小さく纏まる形になるのですね。ひしめき合う姿が蟻のようです。これなら簡単に捕縛できます」 シャムルが冷え冷えと笑った。勝算があるようだ。「任せて、いい?」「勿論でございます」 シャムルが両手を下に向け、魔法を展開する。ハラハラと雪が降り始めた。 降り始めた雪に人間が気が付くのとほぼ同時に、その体が凍り始めた。凍り付いた順に、魔王が転移魔法で食糧庫に送る。「いいねぇ。大猟だね」 狩りに行かずに、これだけ大量の人間を捕縛できるのは有難い。しかも騎士は肉が良質だから、魔族の皆が喜ぶ。魔王としてはホクホクした気分だ。「っ……!」 突然、強い視線と魔力を感じた。シャムルの体が強張り、魔王を庇うように結界を張った。 足下から大きな火の球が打ち上げられた。魔王はシャムルの腰を抱いて、ひょぃと避けた。「ユリネリア師匠の火魔法です。流石に気付くのが早いですね」 火の玉を眺めるシャムルが何でもないように話す。しかし、纏う気が怯えているようにも見える。(師匠だから仕方ないけどねぇ。子供の頃から知っているんだろうからなぁ) 魔王はシャムルを抱く手に力を込めた。「氷結魔法を止めるな、シャムル。お前はまだ、我以外を敬うか?」 シャムルが魔王を振り返る。その顔に笑みが上った。
last updateLast Updated : 2026-08-28
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13. 勇者ランドール

 魔王城の玉座の間に戻ると、剣を構えるスカラと杖を構えるユリネリアが驚愕の顔をしていた。「まさか……まさか、ヘルクライン……なのか?」 スカラが力なく問う。 目の前のヘルクラインは背中から羽が生え、頭には角を伸ばしている。見た目から充分、魔族堕ちしている。加えて、二人のことを一切覚えていなヘルは無反応だ。「ランドール様ぁ、あれ、誰?」 ランドールの背中に巻き付いて、ヘルが不思議そうに問う。「お前の従兄弟と、シャムルの魔法の先生だってよ。覚えてねーか」「知らな~い。喰っていいの? 遊んでいいの?」「遊んでいいよ。喰うのはダメだ」「は~い。楽しそうだねぇ。あの騎士、筋肉モリモリで強そう」 ヘルが嬉しそうにランドールの周りを飛び回る。「そんな……王国一誇り高い剣士が、誰よりも清い浄化魔法の使い手であったヘルクラインが……あんな姿に。誇りを守って死ぬことすら、できなかったのか」 スカラが悔しそうに歯を食いしばった。「また、誇り……。誇りのために死ぬのが騎士で王族か」 シャムルが顔を歪めて舌打ちした。 剣を構えたスカラが魔王を睨み据えた。「剣士の誇りを踏みにじり、命を弄ぶ悪魔め。絶対に許さない。俺をこの場に招いたことを後悔して死ね、魔王!」 スカラが怒りに任せて突っ込む。「待て、スカラ! 無策で突っ込むな!」 ユリネリアが魔法で援護する前に、スカラの体が吹っ飛んだ。「お前は魔王様には触れねぇよ。俺がいるもん」 ランドールが、スカラの大きな体躯を、蹴りだけで吹っ飛ばしていた。「魔王軍団長ランドール様を殺さなきゃ、魔王様には辿りつけねぇぜ」 ランドールがスカラの髪を掴んで顔を持ち上げる。「貴様っ、離せ! くそっ、負けるものか」 スカラが息を荒く
last updateLast Updated : 2026-08-29
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14. 光と闇

 ユリネリアから火魔法が連続発射される。 それらを総て弾いて、魔王はゆっくりと近付いた。氷の塊が刃になって飛んできても、風の刃も、土くれの塊も、総ての魔法は魔王に触れる前に弾かれる。「自然魔法では、やはり効果がないか。ならば、これでどうだ!」 ユリネリアが両手を前に突き出す。光の束が大きくなって、球体を作っていく。 魔王は目を眇めた。「光魔法か。神に近い力は好まぬな」 ユリネリアが口端を上げた。「聖なる光で闇を浄化する。貴様を倒すために百年、練ってきた魔法だ」 人の体より大きく膨れ上がった光の塊の中で、魔力が密度を増していく。「ユリネリア師匠の特大光魔法……あれほど大きな光魔法を操る魔導師は、大陸全土を探しても他にない……」 シャムルが息を飲んだ。 魔王が纏う闇の黒さが、ユリネリアが放つ光の魔力に触れて塵と化す。「この場所から逃げた私が、鍛錬を続けた百年分の魔力だ。跡形もなく消え去れ!」 大きな光の塊が魔王に向かって投げつけられた。魔王の体を光の魔術が包む。「魔王様……!」 眩しすぎる光に目を眇めて、シャムルが叫んだ。魔王を包んだ魔力が一際、強い光を放つ。ユリネリアの口端に、勝算の笑みが昇る。瞬間、魔王を囲っていた光が呆気なく霧散した。シャムルが目を見開いた。「特大の光魔法が、全く効果がない? まさか、そんな、なぜ……」 ユリネリアが蒼白な顔で呟いた肩の塵を払いながら、魔王は首を傾げた。「何故、とは? お前は、闇が光で浄化できると思っているのか?」「当然だ。闇は光により淘汰され、浄化される存在、だろう……?」 ユリネリアが、訳の分からない顔をしている。訳が分からないのは、こっちだと思う。「光と闇は、お前が思うより仲が良い。混沌から生まれた悪魔は、神に望まれ存在する。神もまた、悪魔に許しを請う存
last updateLast Updated : 2026-08-30
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15. 初恋

「高潔の仮面の下は栄誉を欲するだけの俗物でしたか。私が嫌悪する、最もくだらない生き物だ」 シャムルがユリネリアの真後ろに立った。「ひっ……」 振り向こうとしたユリネリアを、シャムルの氷結魔法が固めた。足と腕を壁に縫い付けられて、身動きが取れないでいる。「まるで標本ですね。良い眺めです」 シャムルがユリネリアを見下した。「お前が否定し、ねじ伏せた私の疑問。その答えは魔王様がくださいました。だから私は魔王様を選んだ。命の価値の答えを持たぬ輩が命を守ろうなど、愚の骨頂だ」 ユリネリアが只々怯えた目でシャムルを見詰める。「王族の命は尊い、スラムの人間の命に価値はない。結果、お前はフィオナの家族を見殺しにした。賢者としての資質を私が見抜くまで、フィオナに価値を見ていなかった」 ユリネリアが、フルフルと首を振った。「違……ちがいま……命の価値は平等だ。ただし人の価値は平等ではない。シャムル様より尊い人間など、リンデルには存在し得ないのです。だから私は、貴方を優先して……」「置き去りにして、逃げたのに?」 ユリネリアが息を飲んだ。「避暑地に置いていかれた私を、魔王様は喰わなかった」「それは貴方が、選ばれた子供だからだ!」「あの場にはフィオナもいたのに? 私だけが奇跡の子と呼ばれた……自分の肩書に箔を付けるため、王族の私の命に勝手に価値を付けた」 ユリネリアが蒼白な顔で口を引き結んだ。 淡々と語るシャムルの話が、魔王の脳におぼろげな像を結んだ。 自分より小さな子を守ろうとする子供。魔力は未熟、肉は上等。喰えば美味かったのかもしれない。『こんなところにいては、喰われるぞ』 気紛れに張った結界は、二人の子供を大人に成長させた。それぞれに勇者と賢者になって、この魔王城にやってきた。(そっか、あの時の、あの子供が) 繋がらなかった点が一本の線に繋がった。「貴方は奇跡の子です。魔族が襲撃した森で、子供を守って生き永らえた。そ
last updateLast Updated : 2026-08-31
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16. 心の在処

 シャムルの腕を引き、目の前に立たせる。胸に埋め込んだ血の結晶に指を這わせる。指の先から魔力を流し込む。「ん……」 シャムルの体が、小さく震えた。唇を当てて、血の結晶に直に大量の魔力を流す。「ぁっ……」 閉じようとする口から、さっきより艶を帯びた声が零れた。背に手を回し、逃げそうになる体を押さえつける。わずかに震えるシャムルの指が、魔王の服をぎゅっと握った。「んっ、はぁ……魔王様……」 シャムルの声が、仕草が、魔王の胸を満たす。魔王は、血の結晶に、更に濃い魔力を迷い込んだ。シャムルの息が俄かに上がる。血の結晶に灯る命が強く光った。「平気か?」「はい……。お手間をおかけします」 とろりと蕩けた顔と共に、一筋の汗が、シャムルの頬を伝う。 シャムルには、時々こうして魔力を分け与えている。血の結晶に宿した命が不安定で、魔力を補充しないと命が消えそうになる。(やっぱり、心臓がないからだね。核だけだと体を維持できないか) 魔族は生命維持のための心臓と、魔力維持のための核を持つ。人から魔族に転嫁した場合、魔印で焼ききった心臓が同時に核の役割も果たす。 血の結晶という核しか持たないシャムルの命は、不安定だ。(魔王が魔力を分けてあげれば死なないけど……別の厄介事がなくもない、か) 予測の範囲内にある災禍は、恐らくそう遠くない未来に現実になる。(短期間に魔族堕ちさせ過ぎちゃったよねぇ。人間の奴隷、増やし過ぎたかな) ちょっと反省するところではあるが。魔国としては戦力も食糧も潤って、悪い状況ではない。(一先ずは、唯一の災禍に備えようか) 魔王にしては珍しく、重い息を吐いた。「魔王様……?」 シャムルが不思議そうな顔で魔王を見詰めた。魔王は、その身体に腕を絡めた
last updateLast Updated : 2026-09-01
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17. 愛と平和の神ハネシア

 玉座の間に入ると、既に来客の姿があった。白くてやけにキラキラした青年が、広間の風景を楽しそうに見守っていた。「だから、いや! 嫌だってば!」「待ってくれ、ヘル。もう抱き付いたりしないから!」 スカラが執拗にヘルを追い回す。ヘルが本気で嫌そうに逃げている。「またやってるね」「えぇ、飽きもせず」 魔王の感想にシャムルが苦々しく返した。 スカラは襲撃の際、割とあっさり魔族堕ちした。理由は「ヘルクラインを愛しているから」だそうだ。悪魔になったヘルが理想以上に可愛かったから、魔族になると決めたらしい。欲望に忠実なところは悪くないと、魔王は思う。(だけど、ヘルの拒否反応が酷い) 魔王がちょっと可哀想だなと思う程度には、ヘルはスカラを毛嫌いしている。「王国騎士団にいた頃からスカラはヘルに片想いしていたので、近くにいられて嬉しいんでしょうね」 ガイルが二人を温かく見守りながら教えてくれた。天と地ほどの二人の温度差を見守れるガイルは、ある意味で強いと思う。「あの頃からヘルはスカラを避けていましたが、記憶を捨てた今も感覚的に嫌悪が残っているのでしょうね」 シャムルの説明が刺々しい。「スカラって、そう悪い子にも感じないけど。何が嫌なのかな」 普通にしていれば爽やかな好青年だ。純粋にヘルを好いているように見える。「純粋に尻を狙ってくるのですよ。スカラの好きは主に体です」「あぁ……」 大変、動物らしい感性だ。生物としては間違っていない。「あ~! スカラ、だめ! ヘルを虐めないで!」 フィオナが二人の間に割って入った。ヘルを背中に庇ってスカラを突き飛ばした。「違うんだ、フィオナ。俺は気持ちを伝えただけで」「ひぃん、ひぐ……フィオナぁ」 ヘルがフィオナの背中に縋って泣いている。羽がある二人が並ぶと、とても可愛い。(癒されるね。ヘルは泣いてるけど)
last updateLast Updated : 2026-09-02
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18. 光対闇

「じゃ、大人しく差し出して」「断る」 魔王の即答に、ハネシアの顔が不機嫌に染まった。 これ以上の押し問答は時間の無駄だ。魔王は、シャムルの腕を引いた。「え? 魔王様……っ!」 自分の膝の上に、シャムルを座らせた。「欲しければ神力を使って、我から奪え」 ハネシアの肩が、ピクリと震えた。「勝負しろって、言いたいの?」「天使と悪魔、どちらの属性が合うか、シャムルの体に聞けばいい」 シャムルの体を抱え、血の結晶をひと撫でする。「んっ……」 シャムルが悩ましい声を飲み込んだ。その姿を眺めるハネシアが、息を飲んだ。「そこまでして護りたいんだ。へぇ、そう……」 ハネシアが悔しそうに呟く。顔を上げて、ニコリと笑んだ。「いいよ、勝負しようか。僕が勝ったらヴェルの目の前で天使にして連れ帰るからね」「好きにしろ」 ハネシアが、玉座への階段を上った。シャムルを抱いた魔王の前に立つ。シャムルの顎を掴み上げると、顔を間近で覗き込んだ。「可愛い顔してるねぇ。天使にしたら人気が出そう。偶像になれるかも、神界では大事な要素だよ」 魔王はシャムルの腰を後ろに引いて、抱き寄せた。ハネシアの指が、離れた。「我は背中から魔力を流し込む」 シャムルの腰を抱いて、背中に口付ける。シャムルの背筋が、ビクンと伸びた。「なら僕は、額から……いや。口からにしようかな」 殺気より強く顎を引き寄せて、シャムルの口を開かせる。ハネシアが、シャムルの舌を指で押さえた。金色を灯す神力が、口を伝って流れ込む。「ぉっ……」 シャムルの体が拒絶するように、ビクビクと跳ねた。「おいっ」 魔王はハネシアを睨みつけた。口から直に流し込まれたら、追いつかない。
last updateLast Updated : 2026-09-03
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19. 常闇の守護神

 ハネシアが声を震わせる。足が怯えるように後ろに下がった。 シャムルの体が闇の力に染まる。金色を食い潰した闇がシャムルの体を覆い尽くした。体の内側まで埋め尽くして尚、溢れる闇の神力が、足下に漂う。黒い光が魔王をシャムルを足元から冷たく照らした。「ま、おう……さま……」 シャムルの目が振戦を止めた。確かに意志を戻した瞳が、魔王を見上げる。 求める視線に応えるように、シャムルの目尻に残った涙を拭った。「もう、大丈夫だ」 命を灯す血の結晶を撫でる。背中の拍動が、止まっていた。 震えが止まったシャムルの体を抱き直した。「……私は、命尽きるまで、魔王様の、側近です……」 言い終えぬうちにシャムルが目を瞑った。脱力した体が、魔王の胸に凭れ掛かる。意識を失ったようだ。(体は温かい。命はある。奪われていない) 心の中で唱えてシャムルの髪に口付けた。「うそ……だろ。自分の肩書、好きじゃないくせに。こんなことで神力を使うとか……」 ハネシアが引いている。顔が引き攣っているから、怯えているんだろうか。それも、どうでもいい。 魔王はただ、ハネシアを睨み据えた。「真名を呼んだのはお前だろう。我は常闇を統べる守護神ヴェルヴァラント。魔を司る総てを調停する魔神。我が領域を荒らす者は、神界だろうと人間だろうと容赦はしない」 魔王はシャムルの胸の結晶に、手を添えた。足下に漂う闇の神力が、静かに蠢く。 ハネシアが震え上がった。「まさか、だって。ヴェルが人間如きに、こんなに本気になるなんて、思わなかったんだよ」 小さく一歩ずつ後ろに下がる。 そのハネシアの肩を止める者があった。「さすがに今回は、悪戯が過ぎた、という言葉では済ませられませんよ、ハネシア様」 ハネシアの後ろに、大きな天使が立っている。側近の大天使アレイラだ。アレイラが魔王の前で傅いた。「我が主ハネシアの非礼の総てをお詫びいたします。神界は魔国と事を構えるつも
last updateLast Updated : 2026-09-04
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20. 穢れた天使

 眠るシャムルを、魔王は眺めていた。 ハネシアとの対決以来、シャムルの命は余計に不安定になった。だから、同じベッドで眠るようにしている。(大量の神力を浴びせ過ぎたか。核だけではもう、支えきれんか) 胸の真ん中で黒く光る血の結晶に指を滑らす。今は血の結晶に籠めた魔力で維持できているが。限界を超えれば体が崩壊する。(また、あんなことがあったら……) ぞくりと寒気が走った。魔王はシャムルの体を抱き寄せた。「ん……魔王、様……?」 寝ぼけたシャムルの顔を胸に抱いた。「まだ眠っていろ」「しかし、魔王様が起きていらっしゃるのに」「いいから、寝ていろ」 確かな熱を帯びる体が、もぞりと動く。控えめな手が、魔王の背中に触れた。「では、こうして眠っても、良いですか?」「……構わない」 シャムルの手が触れただけで、胸が揺れる。手放したくなくて、もっと抱き寄せたくなる。これ以上は体の輪郭が邪魔をして、繋がり様もないのに。もどかしさを押し殺して、魔王はシャムルを抱いて眠った。  そんな夜が続いた、ある日。予想外の事件は起きた。「これは、困ったね。どうしようかな」 魔王にしては珍しく、本気の困惑だ。目の前で二人の青年が膝をついている。例の如く、魔王討伐にやってきたパーティを返り討ちにして魔印を付けた、までは良かったが。「ここは、どこだっけ……俺、何しているんだろう」 魔印を付けた途端に、勇者の顔つきが変わった。憑き物が取れたように、記憶まで消えたようだった。魔王は青年に手を伸ばした。触れない距離で、気配を探る。「この勇者の子、アレイラの神力の残滓を感じるね」 シャムルが顔を強張らせた。魔王はもう一人の戦士に視線を向けた。勇者とは裏腹に、戦士はしっかりと意思のある目で、魔王を見詰めていた。「魔印を頂いたので、私は魔王様の奴隷です。しっかり働きますので、私にトビーをください」 戦士が勇者に
last updateLast Updated : 2026-09-05
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