第21話 似ている声 画面を閉じても、その一文は消えなかった。【この声、月乃こはねに似てる】 ノートパソコンの画面は黒くなっている。 コメント欄はもう見えない。 配信のアーカイブも閉じた。 それなのに、文字だけがまぶたの裏に焼きついている。 この声。 月乃こはね。 似てる。 たったそれだけの言葉で、喫茶こもれびの空気は変わった。 さっきまで、ここには「帰る場所」という言葉があった。 白湯の湯気があった。 卵焼きの甘い匂いがあった。 芽衣の泣き笑いがあった。 源三さんの雑な優しさがあった。 それが今は、全部薄い膜の向こう側に行ってしまったみたいだった。 こはるは白湯のカップを両手で持ったまま、動かない。 カップの中の水面が、小さく震えていた。 彼女の手が震えているからだ。 芽衣はこはるの隣で固まっている。 源三さんは入口近くの席で腕を組んだまま、いつものように何かを言おうとして、珍しく言葉を選んでいる顔をしていた。 俺は、閉じたノートパソコンに手を置いた。 熱が残っている。 画面の向こうの熱。 ネットのざわめき。 かつて俺を焼いたものと同じ匂いがする。「今日はもう見ない」 俺はもう一度言った。 誰に言ったのか分からない。 こはるにか。 芽衣にか。 源三さんにか。 自分にか。 こはるは、白湯のカップから手を離した。 そして、ゆっくりホワイトボードを取った。 ペン先が震えている。 ぎこちない
Last Updated : 2026-09-08 Read more