神殿の厳かな静寂とは無縁の、活気に満ちた王都の片隅。 琥珀色のエールがなみなみと注がれたジョッキが、鈍い音を立ててぶつかり合った。 「……胃が、千切れる」 口髭に泡をつけ、そう言ってジョッキを置いたのは、神殿騎士団副団長だった。 普段の精悍な顔はどこへやら、今は中間管理職特有の、深く刻まれた疲労の溝が眉間に落ちている。 「あはは! 副団長、顔が死んでますよ!」 向かい側で豪快に笑い、串焼きを頬張っているのはサティだった。 彼女は、短く切り揃えられた焦げ茶色の髪を勢いよく揺らし、注文したばかりの強い酒をぐいと煽る。 「笑い事か。あいつら……特にうちの女神ときたら、自覚した途端に昨日の今日で『前向きに検討します』だぞ? 十一年も待たせた男に対して、どれだけ殺生な焦らし方をするんだ」「いいじゃないですか。あの鉄壁のシルフィ様が、顔を真っ赤にして挙動不審になってるんですよ? 見ていて最高に愉快です」「見ているだけの奴はいい。その間の『気まずい沈黙』を埋めなきゃならんこっちの身にもなれ。……お前も、よくあんな甘すぎる空気の中で剣の稽古なんてしていられるな」 副団長のボヤキに、サティは一瞬だけグラスを止めた。 そして、わざとらしく明るい声を張り上げた。 「あ、言いましたね? 私だって必死なんですよ! 何しろ、振られちゃいましたからね、私! あはは、完敗です!」 その乾いた笑い声に、副団長は言葉を失った。 彼女がユーロスに想いを伝えていたことは知っていた。そして、その恋がどのような結末を迎えたのかも。 「……サティ」「いいんですって! 覚悟の上でしたし。あい
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-01 Mehr lesen