桐生美琴は、家事代行スタッフに声をかけた。「掃除が終わったんでしょ。帰る前に撮ってくれる?」 スマートフォンを渡して、美琴はソファに座った。「……あ、はい」 一瞬戸惑った顔をされたが、これくらいはサービスのうちだろう。ポーズを取り、何パターンも撮ってもらった。「ん。まあ、いい感じ。ありがとう」 家事代行スタッフはそそくさと帰って行った。 以前、「家事ではないので」と断られたとき、会社に苦情を申し入れた。そのスタッフは二度と寄越さないようにと厳命している。「さて。白木の病院に顔を出しますか。そのあとで、一仕事しておかないとね」 父が理事長の病院では、美琴は外来の診察を担当せず、たまに手術をするという働き方をしている。 平日の昼間の時間帯にSNSにアップすると、「仕事は?」という無粋なコメントが来ることがある。先ほどの写真をアップするのも、夜まで我慢しないといけない。 優雅な女医の生活。皆が憧れるセレブなライフスタイル。「それを維持するのも大変なのよね」とつぶやきながら、ウォークインクローゼットでバッグを選んだ。 美琴はタクシーを呼んで、自分の職場へ行くことにした。 自分専用の運転手がいない生活は不便だと、舌打ちしたくなる。運転手には当たり外れがあるのだ。おしゃべりな運転手は嫌いだ。 学生時代に圧倒的に遊ぶお金を持っていたのは、桐生智也だった。 他の男友達を思い出すと、派手に遊ばないけれど、いつも運転手付きの車に乗っている人がいた。もしかしたら、そっちを選ぶべきだったのだろうか。タクシーに乗りながら、そんな迷いが生じた。 いや、人生最大の「首席卒業」という名誉を得るために、協力してくれそうなのは智也しかいなかった。「私は間違っていない」 そう呟くと、親指を噛んだ。 美琴は病院に着くと、自分専用の部屋に入った。中で仕事をしていた秘書が、パッと立ち上がる。「紅茶」 美琴は一言だけ言い放ち、バッグを秘書に押しつけた。「はい。ただいま」 秘書は受け取ったバッグを台に置き、電気ポットからお湯をティーポットへ注いだ。 美琴は机の上の書類に目を通し、メールを確認する。手術のスケジュールは秘書が管理しているので、新しいものがないかチェックした。 秘書が無言で紅茶を机に置いていく。 美琴は、ファッション雑誌のコ
Última actualización : 2026-10-04 Leer más