第40話 1595年、信長の最期 その日は、あまりにも突然訪れた。 1595年正月元日、京の二条城には、織田信忠へ新年の挨拶をするため、全国各地から諸大名が集まっていた。 広間には色鮮やかな装束や裃を身に着けた者たちが居並び、祝いの膳と酒が次々に運び込まれている。庭では新年を祝う音曲が奏でられ、城内の至るところで華やかな笑い声が上がっていた。 肥前名護屋城で隠居に近い生活を送っていた織田信長も、この日のために上洛していた。 正一位太政大臣となり、政治の表舞台からは一歩退いていたが、天下を統一した信長の存在感は衰えていない。信長が広間へ姿を現しただけで、諸大名は一斉に平伏した。「皆の者、面を上げよ。いつまで畏まっておる。今日は新しい年を祝う宴じゃ。戦場にいるわけではないのだから、酒くらい気楽に飲め」 信長が上機嫌に笑うと、張り詰めていた広間の空気がわずかに和らいだ。「父上、名護屋からの長旅でお疲れのはずです。あまり酒を召し上がられぬようになさってください」 信忠が案じると、信長は手にしていた盃を掲げた。「新年早々、酒まで止めるか。龍之介殿からは塩を減らせと言われ、そなたからは酒を控えよと言われる。太政大臣ともなれば、好きなものを自由に口へ運ぶことさえ許されぬらしい」「父上の御体を案じて申し上げているのです」「分かっておる。今日は祝い酒を少し飲むだけじゃ。それで文句はあるまい」 信長はそう答え、盃の酒を飲み干した。 龍之介も信長の顔色を気に掛けていた。 名護屋城で会った時よりも顔が赤く、時折、眉間へ皺を寄せている。頭痛をこらえているようにも見えたが、久しぶりに重臣や諸大名と顔を合わせた信長は、それを悟らせまいとしていた。「義父様、御気分が優れぬのであれば、早めにお休みになったほうがよろしいのではございませんか?」「そなたまで信忠と同じことを申すか。この信長を年寄り扱いするには、まだ早いわ」「年齢のことではなく、御顔の色が気になっただけにございます」「大勢を前にして気
Last Updated : 2026-10-04 Read more