「はい。存じております」 「それを止めたのは、誰ですか」 グレヴィスの指が、膝の上でわずかに動いた。 ほんの小さな動きだった。 「止めた、という表現は」 「では、勧めたのは?」 グレヴィスは、少しだけ沈黙した。 「……私でございます」 部屋の空気が、静かに沈む。 クラリスは続きを待った。 「侯爵夫人が寄付先へ直接赴かれるたび、社交界では不要な噂が立ちました。施療院へ出入りするなど、侯爵夫人にふさわしくない。貧民救済に深入りしすぎる。善意を見せびらかしている。そういう声がございました」 「それで?」 「私は、奥様を守るため、実務は私どもが担うべきだと申し上げまし
Last Updated : 2026-09-07 Read more