Todos los capítulos de 無香は朔夜に薫る ―妹が婚約者を寝取った夜、私は冷血軍神の「運命の番」に刻まれた―: Capítulo 11 - Capítulo 20

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第11話 思惑の外側で

「本日限りで、お暇を頂戴いたします」 深々と頭を下げる女中を前に、珠緒はしばらく言葉を返せなかった。 桐生家の朝は、いつもと変わらず穏やかだった。  庭では遅咲きの躑躅が朝露を宿し、開け放たれた障子からは春の終わりの柔らかな風が入り込んでくる。  その風に揺れる薄桃色の袖を押さえながら、珠緒はようやく微笑んだ。「……お暇?」 「はい」 目の前にいるのは、自分付きとして桐生家へ仕えていた女中だった。  そして――御影家で悪さを働かせた見習い女中の、実の姉。「突然のことで、申し訳ございません」 「まあ」 珠緒は小さく首を傾げた。「何かあったのかしら? お父上の具合が、またお悪くなったとか」 「いいえ。父のことではございません」 女中はもう一度、深く頭を下げた。「御影様のお力添えで、桐生家からお借りしていたお金を、すべてお返しすることができました」 珠緒の指先が、ぴくりと止まった。「……御影様が?」 「はい」 女中の声は、昨日までとは違っていた。  いつも珠緒の前では、どこか怯えるように伏せられていた目が、今日は静かに前を向いている。「御影様が一度お立て替えくださり、これから妹と二人、働きながら少しずつお返ししていくことになりました」 「……そう」 珠緒は努めて微笑みを取り繕った。「それは、よかったわね」 「ありがとうございます」 女中が頭を下げる。「長い間、お世話になりました」 「ええ。お父様にもよろしくお伝えくださいな」 「はい」 最後まで、珠緒は微笑む演技を崩さなかった。  姉思いの優しい令嬢が、長く仕えてくれた女中の門出を祝福するように。 女中が部屋を出ていく。  障子が閉じる。  足音が遠ざかる。  完全に聞こえなくなった、その瞬間
last updateÚltima actualización : 2026-09-09
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第12話 名前と距離と

 御影家へ来て、数日目の朝。 麗香が食堂へ入ると、すでに席についていた小夜が顔を上げた。「おはようございます、麗香姉様」「おはようございます、小夜さん」 その呼び方が、まだ少しくすぐったい。 出会ったばかりの小夜は、麗香を兄の妻とは認めないと言っていた。それが今では、食卓に並ぶ焼きたてのパンよりも自然な顔をして「姉様」と呼んでくる。 人の心とは不思議なものだと、麗香は思う。「兄様は、もうお出かけになりました」「まあ。お早いのですね」「軍務の日はいつもですわ。帰りも遅いですし。あの調子では、そのうち軍服を着たまま眠るのではないかしら」 麗香は思わず笑った。「ふふ」「あら。麗香姉様、今、笑いました?」「だって、小夜さんが」「本当のことですもの」 得意げに言ってから、小夜も笑う。 麗香は、その笑顔を眩しく思った。 珠緒と過ごした年月が――その苦々しい思い出が消えるわけではない。 それでも、妹という言葉へ染みついていた苦い香りが、少しずつ別のものへ変わり始めているような気がした。◇ その日の午後。「……どうしましょう」 麗香が声のした方を見ると、居間の卓へ向かっていた小夜が頭を抱えていた。 傍らには、女学校の教本が何冊も積まれている。「お勉強ですか?」「ええ。来週、試験がございますの」 麗香が近づくと、小夜は慌てたように一枚の紙を伏せた。「見ないでくださいませ」「そんなに?」「そんなに、です」 頬まで赤くしている。 かえって気になってしまい、麗香は向かいへ腰を下ろした。「どちらがお苦手なのです?」「……漢文と英語ですわ」「まあ」「その『まあ』は何ですの?」「いいえ。随分と正反対のものがお苦手な
last updateÚltima actualización : 2026-09-10
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第13話 妻としての仕事

「茶会、でございますか?」 朝餉の席で聞かされた言葉に、麗香は箸を止めた。「ああ」 向かいでは、朔がいつものように新聞へ目を落としている。「軍の者と、付き合いのある華族を何人か招く。以前から決まっていたものだ」「まあ。それは大変ですわね」 隣に座る小夜が、どこか他人事のように言った。「兄様、こういうことは本当に不得手ですもの」「俺が茶を点てるわけではない」「そういう意味ではございません。兄様はお客様がお帰りになるまで、一言もお話しにならないことがございますでしょう?」「用がなければ話す必要もない」「ほら、これですもの」 小夜が呆れたように溜息をつき、麗香は思わず口元を緩めた。 数日前まで、冷酷軍閥と呼ばれる男との食卓で、このように笑う自分など想像もしていなかった。「それで」 朔が新聞を畳んだ。「今回はお前にも出てもらう」「私が?」「御影家の妻として、客を迎えてほしい」 ――御影家の妻として。 契約上は当然のことなのだろう。 それでも、その言葉は思いがけない重みを伴って胸へ落ちた。 麗香は背筋を伸ばした。「承知いたしました」◇ 茶会は数日後に予定されていた。 客は十名ほど。軍関係者とその夫人、そして御影家と今後の付き合いを深めたい華族が数家。 大規模な夜会ではない。 けれど、だからこそ家そのものが見られる。「こちらをお使いする予定でございます」 女中頭の志乃が茶器を並べる。 麗香は一つを手に取り、わずかに首を傾げた。「こちらは秋草の意匠ですのね」「はい。何か問題がございますか?」「いいえ、とても良いお品です。ただ、今の季節でしたら、もう少し軽やかなもののほうがよろしいかと」 そう告げてから、麗香は少し迷った。
last updateÚltima actualización : 2026-09-11
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第14話 俺が選んだ妻

 茶会の日。 春の光が差し込む客間には、白い都忘れが慎ましく咲き、香炉からは淡い香りが漂っていた。 麗香は、訪れる客を一人ずつ迎えた。 軍の重鎮とその夫人。 御影家と付き合いのある華族。 年配の者もいれば、麗香とさほど歳の変わらぬ令嬢もいる。「御影少将、ご結婚なさったとは伺っておりましたが。こちらが?」 年配の夫人が、麗香へ目を向けた。「ああ。妻の麗香です」 朔に紹介され、麗香は静かに頭を下げる。「御影麗香でございます。本日はお越しいただき、ありがとうございます」「あらまあ。桐生家のお嬢様でしたのね」 夫人の目に、一瞬だけ好奇の色が浮かんだ。 桐生家の零香。 九条家との婚約破棄。 そして、御影朔との突然の婚姻。 帝都の社交界で噂にならないはずがない。 それでも麗香は微笑みを崩さず、客を席へ案内した。「まあ、素敵なお花。牡丹の盛りですから、てっきりそちらかと思いましたのに」「庭の牡丹は今が一番美しい頃でございます。ですから、あちらは庭でご覧いただくのが一番かと」「まあ」 夫人が楽しそうに笑い、朔に顔を向ける。「なるほど。御影少将には思いつきそうもありませんわね」「……否定はしません」 朔が真顔で答えたものだから、周囲から小さな笑いが起こった。 張り詰めていた空気がほどける。 麗香は茶を運びながら、それを感じていた。 茶の温度を見て、器を選び、話の途切れた客にはさりげなく話題を添える。 茶の温度。 器の向き。 客が話しやすい間。 香りが強くなりすぎないよう、時折開ける窓。 身体が覚えていた。 桐生家では、失敗しないことだけを求められた作法。 けれど今日は、それが誰かを楽しませるために役立っている。「奥
last updateÚltima actualización : 2026-09-12
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第15話 捨てたはずの女、奪ったはずの男

「御影家の茶会、とても評判がよろしかったそうですわね」 その話を珠緒が耳にしたのは、茶会から幾日も経たない頃だった。 華族の夫人たちが集まれば、話題は自然と新しいものへ移っていく。 誰それの令嬢が婚約した。 どこの家が新しい洋館を建てた。 どの夫人が夜会で何を着ていた。 そして今、帝都の社交界で最も新しい話題の一つが、御影家へ嫁いだばかりの女だった。「桐生家のご長女でしょう? ほら、契りの香がないという」「ええ。私もどんな方かと思っていましたけれど、お会いしてみれば、とてもお綺麗で」「茶席の設えも、あの方がお考えになったそうよ」「御影少将も、随分と奥様を大切になさっているとか」 珠緒は扇の向こうで微笑んでいた。「まあ。お姉様が」「珠緒様も安心なさったでしょう? お姉様が良いところへ嫁がれて」「ええ。本当に」 にこやかに答える。 けれど。 ――違う。 こんなはずではなかった。 麗香は、笑われるはずだったのだ。 婚約者に捨てられた零香の女が、身元も分からぬ男と夜を過ごし、その直後には帝国軍人の妻へ収まった。 慎太郎がそれを人前で暴けば、どれほど取り繕ったところで、麗香には傷が残る。 そう思っていた。 ところが、実際に人々の口へ上ったのは。『御影少将はすべて承知で奥様を娶ったそうよ』『九条様が随分と厳しくおっしゃったのに、少将は皆の前で奥様を庇われたとか』『そもそも妹君と関係を持って婚約を破棄したのは、九条様のほうなのでしょう?』 話が違う。 それではまるで、慎太郎を茶会へ送り込んだことで、珠緒自身が麗香を社交界へ披露してやったようではないか。「……お姉様は、昔からそう」 客の去った部屋で、珠緒は一人呟いた。 何も持っていないくせに。 最後には、いつも誰かが手を差し伸べる。
last updateÚltima actualización : 2026-09-13
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第16話 あなたが噂の奥方

「小夜さん。そこは昨日と同じところを間違えております」「うう……」 春の日差しが柔らかく差し込む居間で、小夜は恨めしそうに漢文の教本を睨んだ。「漢文なんて嫌いですわ」「では、嫌いなままで結構ですから、点だけはいただきましょう」 二人は顔を見合わせて笑う。 麗香が小夜の勉強を見ることは、いつしか二人の日課になっていた。「もう一度です。まず、誰が何をしている文章なのかを――」「小夜ちゃん。まだ漢文と喧嘩をしているのか」 不意に、聞き慣れない男の声がした。 麗香が振り向くより早く、小夜の顔が輝く。「清雅様!」 開かれた扉の向こうに、一人の青年が立っていた。 年頃は朔と同じほどだろうか。 淡い灰色の洋装を隙なく着こなしながら、軍服姿の朔とはまるで違う、春風のように軽やかな空気をまとっている。「久しぶりだね、小夜ちゃん。少し見ないうちに随分と難しい顔をするようになった」「清雅様が余計なことをおっしゃるからですわ」「僕は何もしていないけれど」 青年は笑い、それから麗香へ視線を移した。「そして――あなたが噂の奥方ですね」「噂、でございますか?」「清雅様!」 小夜が咎めるが、青年は悪びれもせず一礼する。「久世清雅と申します。朔とは幼い頃からの腐れ縁でして」「御影麗香でございます」「存じています。帝都では今、あなたのお名前を知らない者を探すほうが難しい」 麗香が僅かに表情を曇らせると、清雅はすぐに笑みを和らげた。「もっとも、僕は人の評判より、本人と話した印象を信じますが」
last updateÚltima actualización : 2026-09-14
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第17話 やらん

 久世清雅が再び御影家を訪れたのは、それから数日後のことだった。「こちらの学校なら、英語の成績をもう少し上げておいたほうがいいですね。ただ、小夜ちゃんの今の成績なら、十分に狙えると思いますよ」「では、漢文ばかりを気にする必要はないのでしょうか」「もちろん必要です。小夜ちゃんには言わないでください。すぐに怠けるので」「まあ」 居間から麗香の笑い声が聞こえる。 朔は廊下を歩きながら、無意識に眉間へ皺を寄せた。 あれは昔から妙に世話焼きな男だ。 小夜のためになるのなら、訪ねてくること自体に異論はない。 ――ない、はずなのだが。「清雅様。こちらに女子の海外留学についても書かれておりますけれど」「ええ。まだ随分と狭き門ですが、道がないわけではありません。麗香さんなら原文でも読めるでしょう?」「またそのようなことを。私の英語など、とても――」「先日から思っていましたが、あなたは少し自分を低く見積もりすぎですね」 朔の足が止まった。 小夜の進学のための話をしているだけなのは分かっている。 それでも、なぜか気に入らない。「楽しそうだな」 居間へ入ると、二人が同時に顔を上げた。「朔様」 麗香の表情が明るくなる。 それだけで胸の内にあったものが僅かに薄れたことが、余計に気に入らなかった。「お帰りなさいませ。清雅様が、小夜さんのために新しい資料をお持ちくださったのです」「ああ」「何だ、またその顔か」 清雅が笑う。「せっかく小夜ちゃんのために働いているんだ。少しくらい感謝してくれてもいいんじゃないか?」「頼んだ覚えはない」「麗香さんには感謝されたよ」「……そうか」 麗香が、不思議そうに朔を見上げている。 先ほどまで清雅へ向けていた笑みは消え、黒い瞳には僅かな戸惑いが浮かんでいた。 その顔を見ると
last updateÚltima actualización : 2026-09-15
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第18話 仕組まれた密会

「まあ。お姉様が、御影少将のご友人と?」 珠緒は扇の向こうで、そっと目を細めた。 午後の桐生邸。 客間には春の光が満ち、卓上の花瓶では薄桃色の牡丹がほころび始めている。「ええ。久世様ですわ」 向かいに座る令嬢が、声を潜めた。「御影少将とは幼い頃からのお付き合いだとか。最近、何度も御影家を訪ねていらっしゃるそうよ」「まあ……」「麗香様とも、とても親しくなさっているとか」 珠緒は微笑んだ。「きっと、御影様の妹君のご進学のお話でしょう。お姉様は昔から面倒見のよい方ですもの」 そう答えながら。 胸の内では、別の言葉を反芻していた。 ――何度も。 ――親しく。 やがて客人を見送り、扉が閉じる。 珠緒は一人になると、扇を畳んだ。「……久世清雅」 知っている。 旧華族の出で、外務省に勤める若い官僚。御影朔とは幼馴染で、帝都の夜会にも時折姿を見せる男だ。 そして、独身。 珠緒の唇に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。 ――噂だけでは、駄目。 前回の失敗から、珠緒は学んでいた。 言葉だけなら否定できる。 過去を責めれば、夫が庇う。 ならば。「今のお姉様が、裏切ればいいのよ」 誰もいない部屋で、小さく呟く。 御影家へ嫁いだ後に、夫以外の男と密会していた。 それも、夫の幼馴染と。 口で何を弁解しても消せないものがあればいい。 たとえば――写真。 珠緒は文机へ向かうと、呼び鈴へ手を伸ばした。 ほどなく現れたのは、桐生家に仕える若い男だった。 例によって、桐生家から少々の金を融通している。家の者には知られたくない遊興の借りがあることも、珠緒は知っていた。「お願いしたいことがあるの」
last updateÚltima actualización : 2026-09-16
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第19話 疑う理由がない

 翌朝には、写真が出回っていた。『冷酷軍神の新妻、夫の旧友と白昼の密会』 そんな見出しとともに大衆紙に掲載されたのは、喫茶店の前に立つ麗香と清雅の姿だった。 二人が罠に気づいた直後の一枚である。 記事には、偽の手紙のことなど一言も書かれていない。ただ、御影少将の留守中に、その妻が若い男と人目を避けて会っていたとだけ記されている。 自分のことより、朔にどんな迷惑が及びはしないかと、麗香は一日じゅう気が気でなかった。 夜。 何度も考えていた言葉を胸の内で繰り返しながら、居間で夫の帰りを待つ。 まず、謝らなければならない。 それから、昨日のことを最初から説明して――信じてほしいと、頼まなければならない。 玄関の方から、使用人たちの声が聞こえた。 やがて居間の扉が開く。「お帰りなさいませ、朔様」「ああ」 軍帽を脱いだ朔の顔を見た途端、朝から用意していた言葉が、ひどく頼りないものに思えた。「……申し訳ございません」 開口一番、麗香は頭を下げる。「何を謝ることがある」「御影家のお名前を、このような形で新聞に載せてしまいました」「お前が載せたわけではないだろう」「ですが――」 麗香は顔を上げた。「昨日、私のもとへ清雅様のお名前で手紙が届いたのです。小夜さんの進学について新しく分かったことがあるから、指定された喫茶店へ来てほしいと」「ああ」「けれど、あちらへ着いて清雅様とお話しして――」「その話は後でいい」 遮られ、麗香は口を閉ざした。 朔の目が彼女を見下ろす。「怪我はなかったのか」「……え?」「記者に追われたと聞いたが」 麗香は目を瞬かせた。「転んだりはしていないか」「……はい。清雅様がすぐに馬車を拾ってくださいまし
last updateÚltima actualización : 2026-09-17
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第20話 冷酷軍閥の信頼

「こちらが、僕のところへ届いた手紙だ」 御影家の書斎で、清雅が一通の封筒を机へ置いた。 朔は麗香から預かったものを、その隣へ並べる。 一通は、清雅から麗香へ。 もう一通は、麗香から清雅へ。 もちろん、どちらも本人が書いたものではない。「消印は同じだな」「ああ。同じ日の、同じ郵便局だ」 清雅が椅子へ腰を下ろす。「差し出した人間までは?」「さすがに分からない。ただ、二通ともほぼ同じ刻限に持ち込まれていることまでは確かめられた」 朔は黙って二通の手紙を見下ろした。 筆跡は違う。 一方は男の手で書かれ、もう一方は女の手で書かれている。 そこまで用心しておきながら、同じ日に、同じ郵便局から差し出した。 詰めが甘いというべきか。 それとも、麗香と清雅が同じ場所へ現れさえすれば、その後を調べられることなどないと高を括っていたのか。「それだけじゃない」 清雅が続けた。「あの日、僕たちを撮った写真屋も見つけたよ」「話したか」「金をもらって指定された場所へ行ったことは認めた」 朔の眉が動く。「誰に頼まれたと?」「知らない男だそうだ。御影夫人と久世清雅が現れるから、二人が一緒にいるところを撮れと。それ以上は何も知らされていないらしい」「人相は」「聞き取ってある。けれど、桐生家へ直接繋がるようなものは出てこなかった」「……そうか」 予想はしていた。 今回の相手は、以前の香箱の時より慎重になっている。 同じ人間の仕業だとすれば、少なくとも一度目の失敗から学んではいる。「珠緒嬢だと思っている?」 清雅が尋ねる。「十中八九な」「僕も同意見だ。けれど――」「証拠がない」 推測だけで動くつもりはなかった。 それでは、麗香を写真一枚で
last updateÚltima actualización : 2026-09-18
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